迷宮映画館

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ペルセポリス

2007年12月28日 | は行 外国映画
全世界で大ベストセラーになったというグラフィック・ノベルの本の方は知らなかったのだが、そのグラフィックがそのまま動き出しているといった印象を持つ映画だった。

ごく普通の女の子、マルジ。ブルース・リーが大好きで、何不自由なく暮らしてきたが、そこは今まさに革命が始まろうとしていたイランという国。多感な少女時代に目の前で起きていく大転回の様子を、彼女なりに受け止め、何とか咀嚼しようとするのだが、敵はそう生易しいものではない。

ここで敵と感じたのは、彼女が理解できないもの、彼女を理解しないもの、自分ではどうにもできないこと。これらをひっくるめて敵と感じたのだった。

昨日まで白だったものが、いきなり赤に変わる。赤といわねば生きていけなくなる。おかしいと思っても、それを素直に表現できるような体制ではない。そこで生きていく普通の、ごく普通の人々なのだ。

革命によって国王(シャー)は退位し、共和政へと移行する。今までシャーは神から王として認められた存在であり、神と同じものだと教えられてきたことが覆る。何も信じられず、何が正しいのかもわからない。

外に出るときはヴェールを深く被り、前髪を出すのも言語道断。納得のかけらもいかないが、やらなければ取り締まられる。家に帰れば、ヴェールはさっさとはずし、ロックをガンガンかけるわけだが、なんだか、怒るかあちゃんがいないと、子供らがはめはずす?みたいな。

そんな低レベルの話ではないのだが、見える所だけ取り締まる、体裁だけ一応取り繕えばいいのだという革命の矛盾と、そこの浅さが子供の目からも見えるようだ。

革命いまだ半ばのときに、その混乱状態に乗じて、隣国のイラクが攻め込んできた。8年も続く戦争が始まってしまう。イラクは都市に爆弾を容赦なく落とし、目の前で、友達の家が壊される。

革命、戦争と、とてもじゃないが、子供が無事に暮らせるような環境ではない。マルジは。母の友人のいるウィーンに行くことになった。子供が一人で、ヨーロッパに行くということは、とてつもなく辛いことだが、そういうことができる上流階級の家庭でもあったのだ。疎開しようにもできない人がほとんどの中で、マルジは、遥か遠くのヨーロッパに行ってしまったのだあ、それが幸せなことなのか、どうであったのかは、本人もよくわからないだろう。ただ、貴重な経験となったことには変わりない。

戦争から遠く離れたウィーンでは、血なまぐさいことはない。イラン人としてヨーロッパの人たちと同等とは見られなかったり、若い時は誰にでもある破天荒なことをやったり、10代じゃなきゃできないことが、つづられる。

さまざまな体験を経て、マルジはイランに帰ってくる。もの珍しく見られ、自分の居場所が見つからなかったり、時折ハチャメチャなことをするが、そのつど彼女の支えになるのはおばあちゃんだ。

おばあちゃんは、とにかく公明正大に生きなさいと教える。間違った革命の中でも、正しい革命だったとしても、自分に正直で、恥ずかしくない生き方。他人のことを思いやる気持ちを大事にしなさいと教える。それは実は難しく、普遍的なことだが、何より大事なことのはずだ。

大学に入り、絵の勉強をし、結婚したりと、前半はどうにもならない激動に生きる少女時代、後半は、何ともならないことに対して、ささやかな抵抗を試みたりと、大波小波の人生だ。

マルジはごく普通の女の子だ。取り立てて正義感が強いわけでもなく、羽目を外したり、人に言えないことをしたり、恋をし、失恋し、強い女性に成長していく。それはそこがイランだったこともとっても大事なことだが、どんな中でもどう生きていくべきかという確たる自分を見つけて行ったのが彼女の強さだ。

途中、マルジは弱い面を惜しみなく見せる。自分の醜い面も、トンデモなかった生活も、恥ずかしい面も、赤裸々に見せてくれる。とことんえぐるように見せるのだが、その潔さがマルジの魅力だ。そして、それを白黒のリアルさの少ない絵で見せていくのがいいのかもしれない。結構中身はどぎついこともあるのだが、絵に救われている部分も多い。

1月末からの上映なのだが、たくさんの人に見てもらいたいという趣旨で、特別な試写会を行った。非常に興味深いし、見る価値がある。イランという国のことがちょっとだけ頭に入っていれば、背景の理解になるが、それだけじゃなく、女性の生き方としても十分シニカルで、コミカルで面白い。

近くなりましたら、また忘れずに宣伝しますので、どうぞ心に留めておいてください。どうぞよろしく。

◎◎◎○●

『ぺルセポリス』

監督・脚本 マルジャン・サトラピ ヴァンサン・パロノー
声の出演 キアラ・マストロヤンニ カトリーヌ・ドヌーヴ ダニエル・ダリュー サイモン・アブカリアン ガブリエル・ロペス フランソワ・ジェローム


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ずるい (GMN)
2007-12-30 20:25:56
私は原作も読んでるんで楽しみにしてるんですよ~。
今年のカンヌで賞とって、観たいけど日本の配給会社これ買うかな~、もし買ったとしてもビデオスルーとかそんな程度かな~と心配してたのですが、ちゃんと上映決まって嬉しい限りです。
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>GMNさま (sakurai)
2007-12-30 22:18:01
すいません。
本も読みましたが、あたし的には激動の前半が非常に面白かったです。
買った配給会社がちっちゃいところで、あまり宣伝費をかけられないということで、ちまちま宣伝です。
どうぞ周りにも口コミで、広めてください。
映画は、あの本が、そのまま動き出した、という感じです。音楽がついて、迫力が増したかな。

一年、いろいろとありがとうございました。
まだ総まとめできてませんが、また来年もよろしくお願いいたします。
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すばらしい作品でした (たく)
2009-02-26 12:23:45
はじめまして。ペルセポリス、観ました。素晴らしい作品ですね。イランというと知っているようで知らない国ですが、マルジの陽気さはどの国の女の子も同じなんだなと親近感を抱きました。本はまだ読んでいないので、今度そちらも買ってみます。
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>たくさま (sakurai)
2009-02-26 23:05:19
はじめまして。こちらこそ、どうぞよろしく。
ごく普通の女の子の目線と言うのが良かったですね。
そこから目で見ることが大事なような気もします。
漫画は、あの映像そのものですが、じっくりと自分のペースで読めると思います。
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