世紀の贋札作り、サロモン・ソロヴィッツ。名前からして、ロシア系のユダヤ人。絵の才能を生かして、各種証明書や、贋札を作るのを生業としていた。
時は、戦争にまっしぐらのその時。ユダヤ人であるというだけで、ごみのように殺されても誰も振り向いてくれないころ、なんとか生き抜いていかなければならない。そのためには嘘もあろうし、人を出し抜くこともある。正義を捨てることだって普通のことだったとき。
ちょっとした油断で、贋造の罪で捕えられる。そして、刑務所から収容所に移送。虫けらのように殺されていく同胞の中で、どうにか生き延びていく。
そして、また移送された先で、彼の真価が発揮されるときがきた。ナチスが目指していた【ベルンハルト作戦】。こんなことまで考えていたのかと、唖然とする中身なのだが、大量のポンド贋札を作り、イギリスの経済を混乱させようとする計画。
なりふりかまわず、やれることは何でもしてしまえ、というくらいのとんでもない計画なのだが、この計画に最適な人間こそが、ソロヴィッツだった。
彼らに用意されたのは、スプリングの効いたベッド、きれいな下着、栄養のある食事、娯楽、タバコ・・・。そしてくすぐられるのが職人としてのプライド。
職人としては、完璧なものを作りげたい。でも、それはナチスの応援となる。同胞を苦しませることだ。でも、目の前にあるのは自分の命。自分が可愛くない人間はないはずだ。地獄のような状況の中で、生き延びてきた自分を生かして何が悪い。その辺の葛藤の描き方が見事。
人が何かを選ぶとき、0か100かなんてことはまずない。49か51くらいの駆け引き。その微妙な駆け引きで生きていくのが私たち人間。そこには、どれほどの苦悩と葛藤があるか。その綱引きのまな板にあがっているのは人の命だ。これほど辛いことがあろうか。
ところどころで出てくるせりふが突き刺さる。
「今日の銃殺より、明日のガスの方がいい」
目の前の死より、わずかな可能性に賭けたい気持ちだ。
「妻の死に涙も出ない」
「真実を刷るのが印刷だ」
「正義などで死ねるか!」
これらのせりふが重過ぎて、ぐさぐさと見るほうに迫ってくる。
全編に流れるタンゴも素敵なら、カメラワークも素晴らしい。100分ない時間の中で、ぎゅうっと凝縮された無駄のない展開に息を呑んだ。見事。
最後に、自暴自棄気味にカジノで散財するソロヴィッツのなんともいえない複雑な表情。地獄を乗り越えた先にあったむなしさ・・・。胸に迫った。
◎◎◎◎○●
『ヒトラーの贋札』
監督・脚本 ステファン・ルツォヴィッキー
出演 カール・マルコヴィクス アウグスト・ディール デーヴィト・シュトリーゾフ マルティン・ブラムバッハ アウグスト・ツィルナー ファイト・シュテュプナー セバスチャン・アーツェンドウスキ アンドレアス・シュミット
時は、戦争にまっしぐらのその時。ユダヤ人であるというだけで、ごみのように殺されても誰も振り向いてくれないころ、なんとか生き抜いていかなければならない。そのためには嘘もあろうし、人を出し抜くこともある。正義を捨てることだって普通のことだったとき。
ちょっとした油断で、贋造の罪で捕えられる。そして、刑務所から収容所に移送。虫けらのように殺されていく同胞の中で、どうにか生き延びていく。
そして、また移送された先で、彼の真価が発揮されるときがきた。ナチスが目指していた【ベルンハルト作戦】。こんなことまで考えていたのかと、唖然とする中身なのだが、大量のポンド贋札を作り、イギリスの経済を混乱させようとする計画。
なりふりかまわず、やれることは何でもしてしまえ、というくらいのとんでもない計画なのだが、この計画に最適な人間こそが、ソロヴィッツだった。
彼らに用意されたのは、スプリングの効いたベッド、きれいな下着、栄養のある食事、娯楽、タバコ・・・。そしてくすぐられるのが職人としてのプライド。
職人としては、完璧なものを作りげたい。でも、それはナチスの応援となる。同胞を苦しませることだ。でも、目の前にあるのは自分の命。自分が可愛くない人間はないはずだ。地獄のような状況の中で、生き延びてきた自分を生かして何が悪い。その辺の葛藤の描き方が見事。
人が何かを選ぶとき、0か100かなんてことはまずない。49か51くらいの駆け引き。その微妙な駆け引きで生きていくのが私たち人間。そこには、どれほどの苦悩と葛藤があるか。その綱引きのまな板にあがっているのは人の命だ。これほど辛いことがあろうか。
ところどころで出てくるせりふが突き刺さる。
「今日の銃殺より、明日のガスの方がいい」
目の前の死より、わずかな可能性に賭けたい気持ちだ。
「妻の死に涙も出ない」
「真実を刷るのが印刷だ」
「正義などで死ねるか!」
これらのせりふが重過ぎて、ぐさぐさと見るほうに迫ってくる。
全編に流れるタンゴも素敵なら、カメラワークも素晴らしい。100分ない時間の中で、ぎゅうっと凝縮された無駄のない展開に息を呑んだ。見事。
最後に、自暴自棄気味にカジノで散財するソロヴィッツのなんともいえない複雑な表情。地獄を乗り越えた先にあったむなしさ・・・。胸に迫った。
◎◎◎◎○●
『ヒトラーの贋札』
監督・脚本 ステファン・ルツォヴィッキー
出演 カール・マルコヴィクス アウグスト・ディール デーヴィト・シュトリーゾフ マルティン・ブラムバッハ アウグスト・ツィルナー ファイト・シュテュプナー セバスチャン・アーツェンドウスキ アンドレアス・シュミット
やっぱ、ヨーロッパですね。
どこでもここでも歴史が垣間見えますが、そこはぜひ一度は訪れたいところですが、仕事に関係なくなったばあさんになってから行ってもなあ。
映画であの世界を伝え続ける姿勢は、大事ですね。
私が見たのは、この映画の偽札工場の壁の向こう側。
映画で幾度も見てきたアウシュビッツの生活は、まだまだ伝え切れていないと感じるほど、それは重く、過酷なものだったことが解りました。
気付かなかった。
やっぱハリウッドでは、ユダヤものが強いですね。
しようがないですけど。
それを差し引いても凄い映画だったと思います。
流石、サリーです(笑)
ブルガーみたいにはなれそうもないので
なんとか、サリーのようにありたいと思いました。
悲惨な目に遭ってるホロコーストも見せますが、こういった切り口は、斬新でした。
いろいろ勉強になりました。
しかし、ナチスっていうのは、ものすごいことを考え付くものですね。
その能力をいい方に使えばよかったのにね。
でしたね~。 一応犯罪者が主人公だったりしたし。
そういう意味でもとても新鮮だったし、贋札作りの
様子もとても興味深く見れたし、おっしゃる通り
カメラワークもタンゴも良かったです。
良く出来た映画だなぁ、って思いました。
どこかコミカルに描けるのもドイツ風の味付けなんでしょうね。とってもよかったです。
使っても・・・・。いいですね。ストレートな心が伝わって、まさに本音の映画だと思います。お涙頂戴にならず、潔いって感じですかね。私も大好きな作品です。
ドイツ映画の妙に乾いた雰囲気も出てて、とにかく良かった。
素晴らしかったですわ。
緊迫感のあるお話でしたが、
緩急の使い分けもまた見事でしたね。