迷宮映画館

開店休業状態になっており、誠にすいません。

バビロンの陽光

2011年09月26日 | は行 外国映画
フセイン政権崩壊3週間後、と言う設定。産まれたときに父親は既にいない。兵隊にとられ、さらに収容、ようとして行方のしれない父親を探す12歳のアーメッド。クルド人。祖母と一緒に、わずかなお金とパンを携えて、ヒッチハイクをしながら前に進む。

いままで、いろいろなロードムービーを見たが、絶望と過酷さの中では3本の指に入りそう。今にも崩壊しそうなトラクターや、必ず故障するバスに、怪しげなたばこ売りの子供や、元兵士など、さまざま人物が出てくるが、自分も悲惨な状態にありながら、この祖母と孫の二人を心から心配し、協力し、なんとか手を貸そうとする。

少年が吹く父親が唯一残した笛の音、決して上手ではない。運転手は「うるさい」と言いながら、少年を暖かく見守る。ようやっと父親が収監されている収容所について、12年ぶりに会おうとするとき、見ぎれいにいっちょうらに着替え、泥だらけの顔を洗い、嬉しそうな足取りで前に進む。

しかし、そこにあった現実の厳しさ。収容所に生き残っていた人はいない。次々と見つかる集団墓地に言って確認することを薦められ、多くの女性たちの慟哭に囲まれる墓地に向かう。果たして、そこに私の息子はいるのだろうか。無残にも転がっているガイコツは、誰の息子で、誰の父親なのか。数えきれない骨の一つ一つは皆誰かの家族だった・・。

祖母のとどめられない絶望と、それでも前に進んでいかなければならない若い人々。これだけの絶望を生みだしたのは、ほとんど一人の男のエゴだったことを思うと、一体人間と言うのはどれだけ悲惨なことが出来る生き物なのだろうと愕然としてしまう。

クルド人のとてつもない凄惨な生きざまは、同じクルド人のバフマン・ゴバディ監督の映画で周知のことだと思うが、イラク人も同様にとんでもない運命を背負わされた。是非ともイラク人の市民の視点からの作品を作ってもらいたいものだと思っていたのだが、よくぞ作っていただいた。

失礼ながら、戦後初のイラク発信の映画だ!と聞いて、それほど期待は持たず、御祝儀の気持ちで見ようという不遜極まりない態度で臨んだのだが、なんとも失礼であった。お見事であった。プロの役者ではないのはすぐにわかったが、それでも表情ににじみ出る真実があまりに重く、辛すぎる。しつこいまでの祖母の嘆きは、本物であった。



映画に出てくる人たちはみないい人なのだ。アラブ地方の人たちってのは、生き馬の目を抜くようなしたたかさで生きているのかなあ~と思っていたのだが、今はまずやさしさと、他人を思いやる気持ちが自然にわき起こってる。今、自分たちが助けあわずにどうするんだ。。との思いがみえたような気がした。

時間的に、フセイン政権崩壊3週間後・・と言うのには少々無理を感じたが、きっとまたいろいろと作ってくれるだろう。モハメド・アルダラジー、この監督の名前は要チェック。

◎◎◎○●

「バビロンの陽光」

監督 モハメド・アルダラジー
出演 ヤッセル・タリーブ シャーザード・フセイン バシール・アルマジド


最新の画像もっと見る

コメントを投稿