★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第510回 植物たちの「超進化」

2023-02-10 | エッセイ
 動物の一員である私たち人間から見ると、移動の自由がない「植物」という生き方は、すごく不自由で、不利なものに見えます。動物たちのエサになり、更に、人間に対してはいろんなモノ、道具などの材料になるのが役割、というか宿命ですから。
 でも、NHKスペシャルの「超進化論」シリーズの植物編(2022年11月6日放映)を見て、本当に驚きました。植物たちは「超進化」したとしかいいようのない、信じられない能力を身につけて、生き抜いているのです。番組に沿ってご紹介します。

★情報をやりとりする植物たち★
 埼玉大学の植物生理学研究者・豊田正嗣氏が、蛍光着色された物質を可視化できる特殊な顕微鏡を使って発見しました。青虫が、エサとしている植物の葉を食べ始めると、齧られて傷ついた葉の細胞からグルタミン酸が放出されます。それを受け取った別の葉の細胞からはカルシウムイオンが発生し、「青虫に食べられている」という情報として全身に伝わり、青虫用の毒物質の生産が始まります。葉を齧る音、虫の唾液成分を感知し、毒物質の種類、量の調節までする、といいます。
 雨は水分を供給してくれるありがたい存在ですが、雨粒には、細菌、カビなど植物にとって厄介なものも含まれます。雨粒の圧力を感知して、抗菌物質を作り出す植物があるといいます。
 また、ネナシカズラという蔓(つる)性植物の場合、地上に出たら巻きつく木を探さなくてはなりません。どんな木でもいいというわけではなく、好みの木を、匂いで検知して蔓を伸ばします。その上で、しっかり巻きつかなくてはなりませんから大変な「生き方」です。
 そのほかにも、音、温度、重力、化学物質など20以上のものを感じるセンサー機能が知られています。それらの情報は、自分へ送るだけでなく、仲間の植物と共有して、必要な「対策」を講じる植物たちもいます。言葉こそ使いませんが、しっかり情報のやり取りをしているのですね。

★昆虫とコミュニケーションする植物たち★
 京都大学の研究者による研究成果です。琵琶湖の畔に住む「カメノコテントウ」(以下、テントウ)という大型てんとう虫の大好物は、柳の葉をエサとするヤナギルリハムシの幼虫(体長数ミリ)です。テントウは、この幼虫を1日に100匹近くも食べます。ほとんど無いに等しい視力で、広大な森林の中からどうやってピンポイントでこの幼虫を見つけるのでしょう。
 それには、柳の葉とのコミュニケーションがありました。幼虫に食べられた柳の葉は、複数の化学物質を組合わせて空中に放出し「ヤナギルリハムシに食べられている」というメッセージを、まわり数十メートルに発信します。そのケッセージを触覚で感知し、「柳の葉が呼んでいる」と脳で理解したテントウは、飛んで現場へ急行し、大好きなエサにありつきます。口先にくわえている茶色っぽい虫が、エサの幼虫です(同番組から)。

 柳の葉は身を守ってもらい、テントウはエサにありつく・・・見事なギブ・アンド・テイクの関係が、進化の過程で、(たぶん)ほぼ同時に、まさに奇跡的に実現したことになります。幼虫にとっては迷惑この上ない話ですが・・・
 番組によれば、このような例は、130ほども知られているそうで、昆虫と植物がコミュニケーションし共生する・・・まさしく「超進化」です。

★菌糸の巨大なネットワークと共生する植物たち★
 カナダのブリティッシュ・コロンビアの森での発見です。森を覆う木や植物の根の先に菌糸(糸状の菌で、キノコを作り出す微生物)が、びっしりと取り付いていました。根と菌(白っぽい部分)の画像です(同)。

 森の植物の80%が、菌糸とつながって巨大なネットワークを形成し、共生しています。こんな仕組みです。植物は、窒素、リンなどの必要成分を地中から取るのですが、必要量までの摂取はできません。代わりに菌糸がそれらの養分を地中から吸収し、植物に送り込むのです。
 一方、植物は、光合成で得た養分を菌糸に送り込みます。その養分は、菌糸の成長を助けるだけでなく、そのネットワークを通じて、別の植物へも供給されます。
 大きな木々に囲まれて、太陽の光がほとんど届かない森の中で、幼木や植物が育つのも、菌糸からの養分供給があったからなんですね。ここでもお互いに助け合って生きる共生の例を見て、その意味を具体的に理解できました。

 ダーウィンの進化論では「適者生存」が理論の中心です。環境、他の生物との「競争」に勝ったものだけが生き残る、と理解していました。でも、「共生」という方向へ進化した植物たちもあるのだ、と知って、目からウロコの思いです。その思いの一端でも、この記事でお伝えできれば幸いです。
 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。
この記事についてブログを書く
« 第509回 気楽に挑戦?数学パズル | トップ | 第511回 第三の男に助けられ... »
最新の画像もっと見る