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第395回 誤植のはなし<旧サイトから>

2020-11-06 | エッセイ

 <旧サイトから>の第2弾になります。2013年8月の記事です。再掲載にあたって、ネタ本を再読し、少しエピソードを追加しました。また、文末に関連した記事へのリンクを追記しています。

★ ★以下、本文です★ ★

 場所柄、お店の常連さんには、印刷、出版関係の方が多いです。そういう方々にとっては、誤植というのは悪夢に違いありません。
 「誤植読本」(高橋輝次編著 東京書籍(増補版/ちくま文庫))は、誤植、校正に関するエッセイなどを集めたアンソロジーです。関係者の方々にはまことに申し訳ないと思いつつも、少しばかり楽しませていただきました。同書からいくつかのエピソードをご紹介します。

<号外が出た誤植>
 明治32年、当時の読売新聞が、ロシア皇帝について書いた社説の中で、「「無知無能」と称される露国皇帝」」という一句があって、大騒ぎになった。社説の筆者は「全知全能」と書いたのが、「全」がくずし字のため、「無」と読み間違えられたもので、国際問題にもなりかねないと、空前の「訂正号外」が出ました。

<同音異字型の誤植>
 昔は、新聞記事は、電話送稿であったため、同音異字型の誤植が多くありました。
 「学校給食にお食事券」の正体は、「学校給食に汚職事件」
 「某はかねてから酒一升の持ち主として当局でも注目している人物」なんのことかと思ったら、「左傾思想の持ち主」

<すわ革命?>
 戦時中、近衛文麿が内閣改造をした時、朝日新聞が、「新体制は社会主義でゆく」と見出しをつけて、すわ革命か、と取り付け騒ぎまで起きました。「正義」のつもりが「主義」と誤植されたもの。

<「屁(へ)」と「庇(ひさし)」>
 泉麻人が新幹線の車内風景について書いたエッセイの一部。
 「窓際の屁のようなスペースにも、缶ビールやおしぼりを置けるし、、、、」と出版されました。屁(へ)は、庇(ひさし)の誤植だが、なんとなく通じてしまうのが面白い、と本書で、本人が書いています。

<泣虫手塚>
 漫画家の手塚治虫氏も名前の誤植が多かったひとり。賞を受賞した時の紹介記事が、「手塚泣虫」となっていたことも。本人にとっては、泣くに泣けない話。

<史上最悪の誤植>
 だと言われているのが、与謝野晶子の文章で、「腹を痛めた我が子」が、「股を痛めた我が子」となっていた例だそうだ。確かに史上最悪には違いありません。

<とんでもない誤引用>
 さる俳句の大御所の本で、間違って「誕生日 男とセックス やりにいく」の作者だと名指しされた林真理子女史がエッセイの中で怒るまいことか。でも笑える。

<畏れ多い誤植>
 ロンドンのテムズ川にウォータールー橋が架けられて、ヴィクトリア女王が渡り初めをしました。それを報じる新聞で、女王が"passed”(渡った)とするところを、"pissed"(おしっこをした)としてしまったのです。いやはや。

<購買欲をそぐ広告>
 戦後まもなく梅崎春生氏の書き下ろし小説が出版の運びとなり、読者文芸誌「文学界」に広告を載せることになりました。読者の購読欲をそそるべく「この小説によって、人間の真実が究明されるか否か、けだし作者の腕の見せ所であろう」との惹句のはずが、読点の位置がずれて、「・・・
究明されるか、否、かけだし作家の・・・」となっていた。後日、梅崎を訪ねた編集者が、不機嫌なワケを訊いて、判明したのだという。

<シュールな誤植>
 漫画家つげ義春の代表作といえば、「ねじ式」です。私も学生時代に読んで衝撃を受けました。冒頭で、主人公の少年の「まさか/こんな所に/メメクラゲが/いるとは/思わなかった」という独白が強烈な印象を残しました。こちらの画像です。

「メメクラゲって何?」
 本書によれば、つげは、クラゲを特定せず「XXクラゲ」との手書きが、「メメ」と活字化されたというのが真相だという。結果的に、シュールな内容にぴったりの名前で、特に訂正もされす、定着しているのがなによりです。

 いかがでしたか?この文章に誤植があればシャレになりませんので、よく校正したつもりです。
 それでは次回をお楽しみに。

<追記>「おわび・訂正を楽しむ」と題した記事を過去3回にわたりアップしました。リンクは、<第204回><第216回><227回>です。
 あわせてお読みいただければ嬉しいです。

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