いろんな生き物の「生き様」(というの変ですが)に興味があって、時々話題にしています。ちょっと前には、「第377回 毒々しい生き物たち」(文末にリンクを貼っています)で、有毒生物を取り上げました。
有毒ではありませんが、アマゾンに棲息し、獰猛さが飛び抜けている2種の魚をご紹介することにします。ネタ元は、ダイナミックな文章と悪戦苦闘ぶりに魅かれて愛読してきた開高健の釣りエッセイシリーズ「オーパ!」の第一集(集英社文庫)です。
まずは、カンジェロ(食肉どじょう)です。「どじょう」の名は持ちながら、歯と鱗を持つので魚のようでもあり、学者はナマズの一種と分類しているご覧のような「ややこしい」生き物です。
同書の冒頭で、「アマゾン河」(神田鎌蔵 中公新書)からこんなエピソードが引用されています。著者神田の探検に同行していた青年が猟銃で撃ち落とした猿が、少し離れた水中に落ちました。灌木をかきわけて拾いあげたら、もうカンジェロが目玉の中に入り込んで、両眼から一匹ずつカンジェロのしっぽがぶらさがっていたというのです。その時、足を滑らせた青年のふくらはぎにもカンジェロが食いついて丸い穴をあけるという騒ぎになりました。
「レヴィー・ストロースがたしか「悲しき熱帯」のどこかで、丸木舟から立ち小便をするとこのカンジェロが御叱呼をつたって滝登りをし、尿道から膀胱へ入りこむのだという原住民の言い伝えを紹介していたと思う」(同書から)とあります。必要のためとはいえ、ヒトのカラダにはいろいろ穴があいていますから、水中、水際での作業は危険が一杯。恐ろしいです。
開高ならずとも実物を目にしたいと考えます。そんな彼に現地の人は「あんなものはアマゾンの屑で、いくらでも、どこにでもいるし、いつでもとれる」(同書から)とまともに取り合ってもらえません。
そんな中、200キロ級のナマズを狙って、夜釣りで巨大な餌を投げ入れます。ところが、5分も経たないうちに、ぼろぼろになった皮だけになってしまいます。ピラニアなら、皮だけ残ることはないはず、これはカンジェロに違いないと開高は確信します。出会いは幻に終わりましたが、獰猛さは、その文章とエピソードで存分に伝わってきました。
さて、おなじみのピラミアです。小さいものは、色も華麗で、観賞魚として飼われていたりします。同書の表紙を飾っているこんな魚です。
その獰猛さを特徴づけるのは、飛び抜けて鋭い歯、顎の力、そしてエサを食べ尽くすスピードです。中には、鯛ほどの大きさになる種類もあって、それにまつわるエピソードが同書で引用されています。「あるとき、ボートのなかで一匹の醜い、黒いフットボール大のピラニアが、狩猟ナイフにかみついて、歯がポップコーンのように飛び散るのを目撃したことがある」(トム・スターリング「アマゾン」・タイムライフブックス刊から)というから凄まじいです。
開高自身も実験に挑んでいます。二匹のワニの背中を割いて棒に縛りつけ、それを湖の中程に突き立てました。少し離れた舟から見ていると、棒のまわりに波紋が2つ、3つでき、棒が軽くゆれました。その後、10分経っても、30分経っても何の変化もありません。たまらず引き上げてみたら、ワニの肉も内蔵もひとつ残らず抜かれて、残ったのは外皮と骨だけだったというのです。
(ピラニアが)「ワニをむさぼり食うところを写真にとろうと思ってこんなことをしたのだったが、もののみごとに裏をかかれてしまった。」(同書から)とあります。さぞくやしく、驚いたことでしょう。
ご存知のように、ピラニアは人間も襲います。服を着ていれば襲われない、というのは根拠がないようで、カナダの探検家W・プライスの「アマゾン探検誌」(大陸書房)のこんなエピソードが引用されています。
「ある時部下が1人でロバに乗って出かけたところ、あとでロバだけもどった。仲間がロバの足跡をたどってみると、男の骸骨がみつかった。服はまったくそのままだった。魚は服の下にもぐりこみ、一片余さず肉を食い尽くしたのだった」(同書から)想像するだにオゾマしい光景です。
縦横に古今の文献を引用しながら、自身の体験もダイナミックに伝える開高ならではのエッセイを堪能しました。
冒頭でご紹介した記事(毒々しい生き物たち)へのリンクは、<こちら>です。会わせてお読みいただければ嬉しいです。
いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。