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第263回 大胆な推計

2018-04-13 | エッセイ

 悪夢の「入試」も遠い昔のことになりました。もう死ぬまで無縁。

 そんなわけで、「世界一「考えさせられる」入試問題」(ジョン・ファーンドン 河出文庫)を気軽に手にとりました。


 オックスフォードとケンブリッジというイギリスを代表する大学の面接試験で、実際に出された難問、奇問、珍問を集めて、模範解答というか、解説をつけたものです。

 「あなたは自分を利口だと思いますか?」(ケンブリッジ(法学))
 「もし、全能の神がいるとしたら、彼は、自身が持ち上げられない石を造ることができるでしょ
  うか?」(オックスフォード(古典学))
 「あなたにとって、悪い本とは何ですか?」(ケンブリッジ(英語英文学))
 「あなたは脳のどこが一番好きですか?」(ケンブリッジ(医学))
 「あなたならリンゴをどう説明しますか?」(ケンブリッジ(社会学、政治学))

 とてもとても、私なんかの手に負えませんが、苦悩しているであろう「受験生」の姿を想像して、少し同情しながら、ちょっと楽しませてもらいました。

 その中に、「クロイドンの人口は?」(ケンブリッジ(地理学))と言う問題があって、解けませんでしたけど、解説の中味が、私なりに理解できましたので、ご紹介します。

 クロイドンというのは、ロンドンの約30(正確には32)ある行政区のひとつです。ロンドンの人口を、1000万人(実際にももう少し少ないそうですが)として、単純な割り算で、33万3000人という数字が出ます。2007年の統計によると、同区の人口は、33万6600人とのことなので、数字のことだけいえば、「当てる」のはそう難しくはなさそうです。もちろん、面接では、数字そのものよりも、根拠、考え方、答え方、機智などが問われるのでしょうが・・・・

 著者もタネ明かしをしてますが、これは、「フェルミ推計」の典型的な問題だと言うのです。
 核物理学者のフェルミにちなむもので、既知の数字を使って、大胆かつ筋道立てて、通常は知り得ない数字を推計する手法です。
 
 彼が学生に与えた課題は、「シカゴには、何人のピアノ調律師がいるか?」というもので、こんな推計が、一例として、よく引用されます。

 シカゴの人口を300万人とします。1世帯の人数を3として、世帯数は、100万です。ピアノの世帯普及率を1割として、10万台のピアノがあり、年に1回調律するとします。

 さて、調律師は、1日に3台の調律ができるとし、週休2日で、年間250日働くとします。ひとりが1年間で調律できるのは、750台ですから、10万台なら、130人と言う数字が出ます。

 大胆な前提、仮定を、いくつも置いた推計です。1日3台の調律依頼が、コンスタントにある、というのが、やや無理があるようにも思いますが、手法は、理解いただけると思います。

 で、この手法なんですけど、かのグーグル社が、「入社試験」でよく出題した、というので話題になりました。
 「スクールバスにゴルフボールは何個入るか?」
 「◯○にあるマンホールの蓋の数は?」のように。

 アメリカのやり方をマネるのがすきな日本の企業でも、ひところ流行ったようですけど、本家も含めて、今は、流行らないそうです。

 就活生のほうの、「傾向と対策」が進んだこともあるのでしょうが、結局、この手の手法では、本当の「アタマの良さ」は計れない、というのが、グーグルも含めた企業の結論だったようです。
 確かに、ある程度、基礎的な数字を覚えて、コツさえ掴めば、なんとかなりそうではありますから・・・・

 「都内で、きのう終電車を逃した酔っぱらいの数」
 「全国で、アカザの杖作りに励んでいる人の数(1名は、把握してますけど)」 

 自分で出題して、自分で推計して・・・・入試も就活もない気楽さと、ボケ防止を兼ねて、時々、楽しんでます。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。