ニュース >政治 >記事わずか10分 儀礼の“手打ち”菅ー小沢会談
2010年9月16日(木)08:00
(産経新聞)
【新・民主党解剖】第9部 癒えぬ傷跡(中)
◆一夜明けて
民主党前幹事長、小沢一郎を破った代表選から一夜明けた15日午前。首相の菅直人は首相官邸前で、朝の所感を求める記者の慌てた口調に苦笑した。
「緊張しているのかな?」
とはいえ、政権の死命を左右する党役員・閣僚人事を控え、緊張を覚えていたのは菅も同じだったはずだ。菅はこの日、めまぐるしく動いた。
前首相の鳩山由紀夫と25分、参院議長の西岡武夫と38分、参院議員会長の輿石東と22分、副代表の石井一と25分…。菅は党代表経験者や重鎮らと次々に会い、今後の政権運営や人事について意見を求めた。
ただ、小沢との会談は10分足らずでおしまい。儀礼的に会っただけなのは明らかだった。
元衆院副議長の渡部恒三は菅と会談後、「人事の話はなかった」と記者団をはぐらかしつつこう語った。
「小沢君が『一兵卒としてやる』と言っているときに役職を与えて懐柔するなんていうやつがいたら、小沢君に対して大変失礼だ!」
渡部は小沢と当選同期で一緒に自民党を飛び出した間柄だが、関係は冷え切っている。渡部の発言は「小沢に一切ポストを与えるな」という牽制(けんせい)だった。
◆次の視線は
「おー、頑張ったなあ」「惜しかったなあ」「ここは何で負けたんだ?」
代表選が終わった14日夕、小沢は衆院議員会館の自室で党員・サポーター票の各選挙区ごとの集計表を見ながら独りごちた。
何よりも選挙を重視してきた小沢は、敗北に終わった代表選の検証も、決して欠かさない。集計票からは、小沢を支持した鳩山(北海道9区)や前官房長官、平野博文(大阪11区)、小沢の元秘書で、衆院議員の樋高剛(神奈川18区)でポイント獲得を逃していたことが分かる。
「小沢先生はそういうのをよく見ている」
側近議員の一人は語る。小沢はこの教訓を生かす「次」を狙っているのか。
14日夜、東京・赤坂の居酒屋で開かれた小沢を囲む集会でのことだ。小沢が先に引き揚げた後に到着した鳩山は周囲にのんきにこう話しかけた。
「小沢先生は今回代表選に出馬してよかった。出ていなければ(政治生命が)終わっていただろう…」
だが、現職の首相と政界の実力者が死闘を演じた代表選は、そんなさわやかなものではない。双方が負った傷は深く、すでに膿(うみ)をはらんでいる。
■「一新会はもう解体だ」 小沢陣営、鉄の結束に亀裂
◆崩れた「神話」
新進党、民主党を通じ、これまで3度の党首選で無敗だった民主党前幹事長、小沢一郎は今回の代表選で首相の菅直人に230ポイントもの大差で敗れた。
「政治生命はおろか、自分の一命もかけて頑張る」
「自らの政治生命の総決算として最後のご奉公をする決意だ」
街頭演説でここまで訴えたにもかかわらずだ。「勝てる勝負しか戦わない」「とにかく選挙に強い」と称賛されてきた「小沢神話」は足元から崩れた。
その波紋はいま「鉄の結束」を誇った「一新会」をはじめ、小沢支持グループ全体に押し寄せている。表面上は15日は特に動きはなかったが、一皮めくれば敗戦の責任をめぐり内部で非難合戦が始まっている。
「一新会はもう解体だ。小沢さんがかわいそうだ。四天王が小沢さんを出馬に追い込んだんだ…」
一新会幹部の一人はこう息巻く。別の一新会所属議員もこう総括した。
「四天王がいる限り、小沢さんは報われない。閉鎖的で、いつもこそこそ集まって…」
「四天王」とは、小沢最側近を自負する一新会事務局長の岡島一正、同事務局次長の松木謙公、小沢の元秘書で衆院議員の樋高剛、参院議員の佐藤公治-の4人を指す。
4人とも代表選で主戦論を唱えるとともに、小沢を自分たちで囲い込み、他の議員らが自由に接触し、コミュニケーションをとるのを阻んできた。小沢支持者の敗北の憤りは自然にこの4人に向く。
投開票前日の13日夕の段階で、なお「五分五分に近い情勢」「国会議員の数で十分にカバーできる」と強気の発言を繰り返した小沢選対事務総長、山岡賢次への風当たりも強い。菅選対幹部からも「山岡は小沢を傷つけた張本人だ」と名指しされた。
◆キン肉マンばかり
鳩山政権は昨秋の発足にあたり、副大臣や政務官の人事では各閣僚の意見を尊重し、閣僚同士の調整に任せた。
だが、菅は今回の人事で閣僚の意向は一応聞くが、副大臣・政務官に誰を充てるかは当選回数を重視し、官邸・党執行部の主導で決めていく考えだ。閣僚の自由裁量に任せた場合、勢い非小沢系議員の起用が多くなると予想されるため、党内バランスをとる必要が生じたのだ。
ただ、こういう「配慮」も効果は疑わしい。代表選で強引な議員取り込みを図ったのは小沢陣営だけでなく菅陣営も同じで双方に強いしこりを残した。
国民的人気のある行政刷新担当相、蓮舫は代表選中、1年生議員に高圧的に菅支持を迫った。
「菅さんを支持しなかったら、今後は私の写真をポスターに使わせませんから!」
ただ、党内バランスを考えると「適材適所」の人材登用は困難となる。菅陣営幹部は「小沢系はキン肉マンみたいなやつらばかりだから、登用したくても人材がいない」と本音を漏らした。
もともと今回の代表選に大義はなく、ただの権力闘争だった。小沢が代表選出馬を表明する3日前の8月23日、小沢の盟友である参院議長、西岡武夫は記者会見を開き、こんな提言を発表している。
「首相が続投を表明すれば、対抗する代表選の候補者は相当の覚悟が必要だ。現首相を蹴落(けお)とそうとするのだから、敗れた場合の立場は、惨めなものでなければ理屈に合わない。党を去ることも選択肢に入る」
この発言は、小沢を踏みとどまらせる趣旨ではなく、むしろ「覚悟を持って臨め」と励ます意図だった。小沢の覚悟の真贋(しんがん)は、これから問われる。(敬称略)
2010年9月16日(木)08:00
(産経新聞)
【新・民主党解剖】第9部 癒えぬ傷跡(中)
◆一夜明けて
民主党前幹事長、小沢一郎を破った代表選から一夜明けた15日午前。首相の菅直人は首相官邸前で、朝の所感を求める記者の慌てた口調に苦笑した。
「緊張しているのかな?」
とはいえ、政権の死命を左右する党役員・閣僚人事を控え、緊張を覚えていたのは菅も同じだったはずだ。菅はこの日、めまぐるしく動いた。
前首相の鳩山由紀夫と25分、参院議長の西岡武夫と38分、参院議員会長の輿石東と22分、副代表の石井一と25分…。菅は党代表経験者や重鎮らと次々に会い、今後の政権運営や人事について意見を求めた。
ただ、小沢との会談は10分足らずでおしまい。儀礼的に会っただけなのは明らかだった。
元衆院副議長の渡部恒三は菅と会談後、「人事の話はなかった」と記者団をはぐらかしつつこう語った。
「小沢君が『一兵卒としてやる』と言っているときに役職を与えて懐柔するなんていうやつがいたら、小沢君に対して大変失礼だ!」
渡部は小沢と当選同期で一緒に自民党を飛び出した間柄だが、関係は冷え切っている。渡部の発言は「小沢に一切ポストを与えるな」という牽制(けんせい)だった。
◆次の視線は
「おー、頑張ったなあ」「惜しかったなあ」「ここは何で負けたんだ?」
代表選が終わった14日夕、小沢は衆院議員会館の自室で党員・サポーター票の各選挙区ごとの集計表を見ながら独りごちた。
何よりも選挙を重視してきた小沢は、敗北に終わった代表選の検証も、決して欠かさない。集計票からは、小沢を支持した鳩山(北海道9区)や前官房長官、平野博文(大阪11区)、小沢の元秘書で、衆院議員の樋高剛(神奈川18区)でポイント獲得を逃していたことが分かる。
「小沢先生はそういうのをよく見ている」
側近議員の一人は語る。小沢はこの教訓を生かす「次」を狙っているのか。
14日夜、東京・赤坂の居酒屋で開かれた小沢を囲む集会でのことだ。小沢が先に引き揚げた後に到着した鳩山は周囲にのんきにこう話しかけた。
「小沢先生は今回代表選に出馬してよかった。出ていなければ(政治生命が)終わっていただろう…」
だが、現職の首相と政界の実力者が死闘を演じた代表選は、そんなさわやかなものではない。双方が負った傷は深く、すでに膿(うみ)をはらんでいる。
■「一新会はもう解体だ」 小沢陣営、鉄の結束に亀裂
◆崩れた「神話」
新進党、民主党を通じ、これまで3度の党首選で無敗だった民主党前幹事長、小沢一郎は今回の代表選で首相の菅直人に230ポイントもの大差で敗れた。
「政治生命はおろか、自分の一命もかけて頑張る」
「自らの政治生命の総決算として最後のご奉公をする決意だ」
街頭演説でここまで訴えたにもかかわらずだ。「勝てる勝負しか戦わない」「とにかく選挙に強い」と称賛されてきた「小沢神話」は足元から崩れた。
その波紋はいま「鉄の結束」を誇った「一新会」をはじめ、小沢支持グループ全体に押し寄せている。表面上は15日は特に動きはなかったが、一皮めくれば敗戦の責任をめぐり内部で非難合戦が始まっている。
「一新会はもう解体だ。小沢さんがかわいそうだ。四天王が小沢さんを出馬に追い込んだんだ…」
一新会幹部の一人はこう息巻く。別の一新会所属議員もこう総括した。
「四天王がいる限り、小沢さんは報われない。閉鎖的で、いつもこそこそ集まって…」
「四天王」とは、小沢最側近を自負する一新会事務局長の岡島一正、同事務局次長の松木謙公、小沢の元秘書で衆院議員の樋高剛、参院議員の佐藤公治-の4人を指す。
4人とも代表選で主戦論を唱えるとともに、小沢を自分たちで囲い込み、他の議員らが自由に接触し、コミュニケーションをとるのを阻んできた。小沢支持者の敗北の憤りは自然にこの4人に向く。
投開票前日の13日夕の段階で、なお「五分五分に近い情勢」「国会議員の数で十分にカバーできる」と強気の発言を繰り返した小沢選対事務総長、山岡賢次への風当たりも強い。菅選対幹部からも「山岡は小沢を傷つけた張本人だ」と名指しされた。
◆キン肉マンばかり
鳩山政権は昨秋の発足にあたり、副大臣や政務官の人事では各閣僚の意見を尊重し、閣僚同士の調整に任せた。
だが、菅は今回の人事で閣僚の意向は一応聞くが、副大臣・政務官に誰を充てるかは当選回数を重視し、官邸・党執行部の主導で決めていく考えだ。閣僚の自由裁量に任せた場合、勢い非小沢系議員の起用が多くなると予想されるため、党内バランスをとる必要が生じたのだ。
ただ、こういう「配慮」も効果は疑わしい。代表選で強引な議員取り込みを図ったのは小沢陣営だけでなく菅陣営も同じで双方に強いしこりを残した。
国民的人気のある行政刷新担当相、蓮舫は代表選中、1年生議員に高圧的に菅支持を迫った。
「菅さんを支持しなかったら、今後は私の写真をポスターに使わせませんから!」
ただ、党内バランスを考えると「適材適所」の人材登用は困難となる。菅陣営幹部は「小沢系はキン肉マンみたいなやつらばかりだから、登用したくても人材がいない」と本音を漏らした。
もともと今回の代表選に大義はなく、ただの権力闘争だった。小沢が代表選出馬を表明する3日前の8月23日、小沢の盟友である参院議長、西岡武夫は記者会見を開き、こんな提言を発表している。
「首相が続投を表明すれば、対抗する代表選の候補者は相当の覚悟が必要だ。現首相を蹴落(けお)とそうとするのだから、敗れた場合の立場は、惨めなものでなければ理屈に合わない。党を去ることも選択肢に入る」
この発言は、小沢を踏みとどまらせる趣旨ではなく、むしろ「覚悟を持って臨め」と励ます意図だった。小沢の覚悟の真贋(しんがん)は、これから問われる。(敬称略)
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