虫歯は、「脱灰」と「再石灰化」のバランスが崩れることで起こる。

まず、食事をすると起こるのが「脱灰」だ。口腔内の細菌が食品の糖類をエサにして酸を産生し、それが歯のエナメル質と象牙質からカルシウムイオンとリン酸イオンを溶出させる。

その後、食事や間食が終わると、エサの糖類がなくなるので、細菌の酸の産生が終わり、脱灰が停止。口の中の唾液に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンが脱灰で溶け出した部分を修復し、虫歯に至らないようにする。これを、「再石灰化」と呼ぶ。

「ところが、糖類の摂取量が多かったり、頻繁に間食を取っていたりすると、再石灰化が間に合わず、虫歯が生じます。再石灰化が進むには、唾液の分泌が十分に行われていることが大前提となります。ただ、唾液内のリン酸イオンは誰でも豊富なのですが、カルシウムイオンの分量は個人差が大きく、カルシウムイオン量が少ない人では、再石灰化が進みにくい」

そこで活躍するのが、チーズだ。

チーズは生乳にタンパク質を固める凝乳酵素を加え、生乳内の水分を抜いて作られる。

「そのため、もとの生乳よりも栄養素が大幅に凝縮されています。ほとんどのチーズで、歯に関係するミネラルであるカルシウム量はもとの生乳の3~10倍、リン酸は2・8倍。特に、チェダー、パルメザン、エメンタール、ゴーダなどに代表されるハードチーズやセミハードチーズは、カルシウムとリン酸の量が、非常に多い」

つまりチーズを食べることで、口の中にカルシウムやリン酸が拡散。カルシウムイオンが少ない唾液に対しては、チーズがそれを“補給”する形となり、再石灰化が促進される。

単にカルシウムが多い食材というだけであれば、小魚もカルシウムが多いが――。

「カルシウムが多い食材であっても、カルシウムとリン酸の結合が固いと、唾液中にカルシウムイオンとして出ていきません。まさに小魚では、そう。一方、チーズはカルシウムとリン酸の結合が緩いので、カルシウムイオンが唾液中に出ていきやすい。カルシウムを豊富に含み、かつ唾液のカルシウムイオン補給に役立つ食品は、チーズが最強です」

歯が溶ける酸蝕症も改善

チーズと虫歯に関する研究報告は複数ある。たとえば、4週間毎日2回、ショ糖液に歯を漬けて虫歯を起こしやすくした研究で、チーズ14グラムを噛んでいたグループは、そうでないグループに比べて再石灰化が有意に促進していた。また、「チーズを毎日4回摂取していたグループは虫歯が改善した」「虫歯の病巣サイズは、チーズ摂取群で非摂取群のおよそ3分の1だった」という報告もある。

「チーズの口腔に対する効果は虫歯予防だけではありません。果実やジュース、ソフトドリンク、食酢は歯が溶ける酸蝕症を引き起こします。しかしチーズを取ることで、それが改善できるのです。チーズを5分間咀嚼すると、そうでない場合に対し歯の硬度が増したとの研究結果もあります」

チーズを利用しない手はない。お勧めの利用法としては、「食事や間食の最後に」「10~15グラム程度(1・5センチ程度角)のチーズを食べる」。

チーズによってカルシウム量は異なるものの、継続が大事なので、ナチュラルでもプロセスでも好きなチーズを選べばいい。

「チーズを食後に食べていれば、多少歯磨きを怠っても、虫歯予防になります」

お酒のつまみも、チーズで決まり。