中高年になっても若々しさを保つにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「70歳から一気に老化するか、はつらつとしたままでいられるかは、体と頭を使い続けることが重要になる。その意味で意外に重要な鍵となるのが自動車の運転だ。筑波大学の調査だと、免許を返納すると5年後に要介護になる確率が2.2倍ぐらいになるという。絶対に免許を返納してはいけない」という――。

※本稿は、和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)の一部を再編集したものです。

■正常値まで下げる「引き算医療」より「足し算医療」を

いまのご時世、60代ではまだまだ現役で働いている方は多いし、ルックスも頭も若々しい方がたくさんいらっしゃいます。ところが、元気に60代を過ごしてきたとしても、70代になると、さすがに体のあちこちに異常を感じるようになる。

そこで検査を受けてみると、血圧が高い、血糖値が高い、コレステロール値が高いなどと医者に言われ、あれやこれやの薬が出されて、それらの高い数値を「正常値」まで下げる、いわば“引き算”の治療をされることになります。

私は、それにはいささか異論があって、1年ほど前に出した『70歳から一気に老化する人 しない人』(プレジデント社)という本の中で、「年をとったら引き算医療をやめて、足し算医療にしよう」という提案をしました。

どういうことかというと、塩分の取りすぎはだめだとか、糖質のとり過ぎはよくないとか、血糖値が高ければ下げましょう、血圧が高ければ下げましょう、コレステロールが高ければ下げましょうと言われます。私はこれを「引き算の治療」と呼んでいるわけです。

高齢者の医療をずっとやってきた私の経験から言わせてもらうと、血圧や血糖値がやや高めのほうが元気だし、コレステロールは高めの人のほうがむしろ長生きしている。

そのほうが癌にもなりにくいというのが、ある種の疫学調査みたいなことでもうわかっているわけですね。

それはなぜかといえば、年をとればとるほど、「あり余っている」害より「足りない」害のほうが大きくなるからです。つまり、血圧を下げすぎると(足りなくすると)頭がふらふらする。そうすると転んで骨折して、そのまま寝たきりになる恐れもある。血糖値とか、ナトリウム(塩分)を下げすぎて(足りなくして)しまうと、意識障害を起こして頭が朦朧(もうろう)としてくる。

つまり「足りなくなった」ための害が高齢者の交通事故の大きな原因になっていると思うのです。

■老け込むか、溌剌としているか。70歳が運命の分かれ道

高齢者の交通事故の場合、動体視力が落ちているから、飛び出してくる子供が避けられなかったとかいう話だったらわかるけれど、報じられている事故のほとんどはいわゆる暴走とか逆走です。ということは、意識が朦朧としていたのが事故の原因ではないかと考えられる。

たとえば低血糖の状態を起こすと、ボケたようになって失禁したりすることがわかっています。そのように、意識障害を引き起こすのは、何かを下げたり、何かが足りなくなった場合であることが多い。年をとるといろいろなものが足りなくなってくるんです。

ずっと頭痛がするという患者さんがいたので血液を調べてみたら、思ったとおり亜鉛が足りなかった。それで亜鉛を摂取するようにしたら、頭痛はすっかり治ったこともありました。

男性の場合、年をとればとるほど足りなくなってくる最たるものが男性ホルモンです。

男性ホルモンが足りないと、まず性欲だけでなく意欲そのものが落ちる。それから人付き合いがおっくうになる。同じだけ肉を食べて同じだけ運動していても、筋肉が落ちてくるので足腰が弱る。だから男性ホルモンを足してやると頭も冴えてくるし、意欲も出てきて筋肉もついてくるから、要介護になるリスクが減るわけです。

年をとったら、検査データが異常に高くて「余っている」からって無理に薬で下げるなんてバカなことはしないで、たとえば食べ物の品数を増やすとかして、逆に足りないものを足していくほうが老化は防げるということです。

そういう足し算医療をするかしないかで、70歳から一気に老化するか、はつらつとしたままでいるかが決まる。

■70歳からの自動車の運転は重要な鍵に

同じ70代でも、すっかり老け込んだおじいちゃんおばあちゃんにしか見えない人と、若々しさを感じさせる人に分かれてしまうんです。たとえば女優の吉永小百合さんは、もう70代後半のはずですが、とても若く見えますよね。

だから70代という年代はとても大事で、この時にもっともっと体や頭を使い続けると若々しくいられるし、そうでないとどんどん老け込んでしまう。

そういう意味で、70歳になったからといって、たとえばずっと続けてきた体を動かす趣味とかをやめたりせずに、ずっとやり続けていくことが、足し算医療とともに、重要になってくる。というのは、体も頭も若くとも、やはり70代になると意欲や好奇心が衰える人が多いからです。

だから、50代、60代の時に、趣味でも何でもいいんですが、70歳以降はこういうことをしようって決めておくといいんです。その意味で言うと、先ほど自動車事故について触れましたが、実は自動車の運転というのが意外に重要な鍵になります。

東京のような大都会では公共交通が発達しているから、クルマは別になければないですむし、もともと運転していない人も多いけれど、地方では、いったん免許を返納してしまうと外に出る回数が激減する人や、めったに外出しなくなる人がすごく増えてしまいます。

それに、東京の人はあまりイメージが湧かないかもしれませんが、地方に行くと、高齢者も含めて地元の人が運転していく場所というのは、だいたいイオンモールのような大きなショッピングセンターなんですね。

大きいショッピングセンターに着くと、広い駐車場から入り口まで歩かなければならないし、店の中を歩き回るので、けっこう運動になるんですよ。

そういう意味で実はクルマを運転するということは高齢者にとって非常に大切で、筑波大学の調査だと、免許を返納すると5年後に要介護になる確率が2.2倍ぐらいになってしまう。

もっと過激なものでは8倍になるというデータさえあるんですね。だから免許を返納したら最後、要介護にまっしぐらというわけです。

マスコミは長きにわたってコロナ自粛を叫び続けていましたが、それも多くの高齢者を家に閉じ込める結果になりました。にもかかわらず、そのせいで要介護高齢者がものすごく増えてしまったことに対する責任なんて、新聞もテレビもいっさいとろうとしない。

■年寄りの暴走事故はそんなに多くない

私がいちばん気になったのは飯塚幸三さんという元通産省技官の偉い研究者が、2019年4月に池袋で起こした衝突事故です。

母子2人が亡くなったのに逮捕されなかったのは「上級国民」だからだとか、ずいぶん非難されました。だけど飯塚さんは当時88歳で、本人もケガをしている。

そんな高齢者は普通、逮捕しないのが日本の司法ですから、それほど特別扱いされたとは思えませんが、仮にひいきされていたとしても、彼は別にふだんから暴走族みたいな危険運転をしていたわけではありません。本人も奥さんも怪我をしているわけですから、まあ、不注意というか、ブレーキとアクセルを踏み間違えたのでしょう。

だけど、彼が事故を起こしたことについて多くの人が「年寄りのくせに運転したからだ」みたいな言い方をするのはちょっと違うと思う。実は年寄りの暴走事故というのはそんなに多くないんです。

なぜ年寄りが運転すると危ないかといえば、動体視力が落ちてきて、子供が飛び出してきても気づくのが遅れるとか、いわゆる運転技術が衰えてくると考えられるからです。

にもかかわらず、マスコミが盛んに取り上げるのは、年寄りが暴走したり逆走したりする事故ばかり。なぜならそれはめったにない珍しい例だからです。

しかも死亡事故となるとさらに少ない。「上級国民」である飯塚氏の事故がことさら大きく取り上げられたから、高齢者の自動車事故の代表みたいな話になったというだけのことです。ニュースを見たり聞いたりするときに必ず考えなくちゃいけないのは、それが珍しいからニュースになるということです。

■わけのわからない運転をした要因に目を向ける

犬が人間を嚙んでもニュースにならないが、人間が犬を嚙むとニュースになるというのがニュースリテラシーなんです。高齢者の暴走事故そのものもめったにないし、それによって人が死ぬ事故なんてもっと珍しいわけですね。

ふだん普通に運転している人が突然、暴走するというのは、我々老年精神医学に携わっている人間から言わせると、実は意識障害を起こしていた可能性が高い。つまり意識が朦朧としているのに体は起きている状態だから、わけのわからない運転をしてしまうということです。

その時たまたまアクセルを踏んでしまうと暴走になるし、方向感覚がわからなくなると逆走になる。それだけのことです。昔のマニュアル車と違って、いまはほとんどのクルマがオートマチックだから、そういう状態でも運転できちゃうんですよ。

その意識障害の原因なんですが、年をとってくると、たとえば血糖値のコントロールがうまくいかなくなって、ちょっと強めの糖尿病の薬を飲んでいると、血糖値が下がりすぎて意識障害を起こす。あるいは昨日眠れなかったので睡眠薬を飲んだために頭がボンヤリする。それから、塩分を控えすぎて低ナトリウム血症を起こし、意識が朦朧とするケースもあります。

■「要介護にまっしぐら」高齢者の免許返納は絶対ダメ

やはりお年寄りにあまり薬を飲ませすぎるのは危険だというような話にならないと、事故の再発は防げないでしょう。

若者の暴走族のような意図的な暴走による事故なら、厳罰化すれば防げるかもしれませんが、意識が朦朧として事故を起こすのであれば、まずそういう状態にさせないことです。

高齢者に薬を飲ませすぎないということも含め、根本的な対応が必要になります。ところがテレビ局はスポンサーである製薬会社に忖度(そんたく)して、そんなことは言ってくれません。

いずれにしても、高齢者が事故を起こすとすぐにほかの高齢者まで免許返納という話になりますが、免許を返してしまったら、あとは要介護にまっしぐらです。

運転はできる限り現役で続けてください。少なくとも地方に住んでいる方は絶対に早まって免許を返してはいけません。

本稿では老け込む人、若い人の分岐点について述べましたが、本書にはこのほか健康、医者や病院との付き合い、老いを楽しむなど、面白くてためになる全32編が掲載されています。是非ご一読ください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」