あなたのマンションは大丈夫?構造スリットに隠れた重大欠陥週刊ダイヤモンド編集部2018/09
構造計算書偽造問題(姉歯事件)や杭打ちデータ偽造事件の二の舞いになってしまうのか──。
今月6日未明に起こった北海道での大地震は、日本が地震大国であることを改めて認識させた。
その地震に関連して、今、マンション業界で密かに話題になりつつあるのが「構造スリット」だ。この構造スリットは放っておくと、新築から10年後に数千万円という負担に形を変えて、あなたのマンションを襲うかもしれない。まるで時限爆弾のようで、「スリット爆弾」とも言えそうだ。
構造スリットとは分譲マンションで主流の鉄筋コンクリート(RC)造において、地震が発生した際に、建物の損壊を防いで住民の命を守る耐震設計の1つ。具体的には、柱と壁、梁と壁を切り離して衝撃を逃すために入れる隙間のことだ。1995年の阪神淡路大震災以降、本格的に普及し、超高層など一部を除くほとんどの新築分譲マンションで採用された。
そんな構造スリットにおいて、大手デベロッパーとゼネコンが建てた、東京都のあるRC造の分譲マンション(280戸)で欠陥が発覚した。この問題は1棟だけの話ではない。全国各地に同様の地雷が眠るからだ。物件の規模や欠陥の状況にもよるが、補修費は数千万円にも上るというのだ。
くだんの物件の調査から補修工事(今年8月完了)までを監理した、1級建築士でAMT代表の都甲栄充氏は、これまで12物件の欠陥を見抜いてきた。企業側は基本的になかなか非を認めない。しかし、都甲氏が調査した物件では証拠を突き付けるとすぐに非を認め、補修工事に転じた。
「これまで建設業界では構造スリットの欠陥はタブー視されていた」(都甲氏)が、最近は大きく流れが変わっている。ブランドを傷つけないよう、企業が神経を尖らせているからだ。住民の意識が高まり、ひとたび全国で調査が進めば、雪崩を打ったように欠陥が発覚して企業の業績悪化に直結する。そんなストーリーに、企業側は固唾をのんでいる。
10年以内に建てられたRC造マンションは何棟あるのか。国土交通省の「建築着工統計調査」によると、2011年から2018年7月までに建てられたのは、およそ14万棟。09と10年はデータが無いが、この10年を見れば、どの年も最低でも年間15000棟は建設されているから、10年間で15万棟以上が建設されていると思われる。
それだけの数が全国にあるのだから、仮に、構造スリットに対する認識が高まり、見直しが進めば、事業主の負担は今後、膨れ上がる可能性がある。
築10年以内の調査を
今もなお、欠陥が隠れているのは「ゼネコンがコンクリート打設後にろくにチェックしないから」(都甲氏)。本来スリットがあるべき箇所になかったり、突貫工事で施工が悪くコンクリートの圧力で中のスリット材がねじれたりする(画像(2)参照)。そして、地震など有事の際に建物が破損して、ようやく問題が発覚するのが隠れた欠陥とされるゆえんだ。しかし、今や事前調査は「判定期間が2日間あれば十分」(都甲氏)なのだ。
さらに、「構造スリットに住民が興味を持たない」(同)のも問題だ。区分所有者は、「住宅品質確保促進法」(品確法)で保護されており、事業主が瑕疵担保責任を負う時効は新築から10年。そのため、10年以内に調査もせず、ぼんやりしていると、自分の資産価値が毀損している可能性にすら気付かない。
一方で、管理会社も事業主に負担をかけないように、被害さえなければ10年を過ぎてから大規模修繕で対処しようとする。「修繕積立金で新築時の不具合を直す必要はありません。事業主に負担させるべきです」(同)。
構造スリットの有無は構造図で確認できる。「自分たちの建物は大丈夫だと、住民が人ごとなのが最大の落とし穴です」と都甲氏は警鐘を鳴らす。みすみすチャンスを逃さないよう、10年以内にチェックする価値は十分にある。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)