人生とは連続した時間の積み重ねであり、その結末として誰にでも必ず訪れるのが死だ。であれば、さかのぼって普段の心がけ次第で安らかな最期に近づくことも可能になるはずだ。心筋梗塞やくも膜下出血のように悶絶の痛みと苦しみを伴って亡くなる症状もある。

 日本救急救命士協会会長の鈴木哲司さんは苦しまずに亡くなる人の傾向について、こんな指摘をする。

「直接関係ないように思うかもしれませんが、歯や髪、爪を大切にしている人は苦しまずに亡くなる傾向があるように思えます。特に歯のケアを怠ると心筋梗塞や誤嚥性肺炎、認知症などのリスクが高まりますし、何より、生きざまが歯に表れる。きちんと自己管理ができている人は歯がきれいで、病気にもなりにくいものです」

 髪の毛や爪も同様に、自己管理の状態を如実に示すものであり、自分を大切にしているバロメーターでもあると鈴木さんが言い添える。

「自分自身を愛し、大切にしているからこそ、周囲にも優しくできて人も集まってくる。結果的に多くの人に見守られながら旅立てるのは、こういう人です。普段の行いがこういったところにも表れます」

 さらに、事務的な作業も済ませておかなければ、安心して旅立てない。ポイントは「エンディングノート」だ。山野美容芸術短期大学客員教授で医学博士の中原英臣さんはこう言う。

「相続人のためだけではなく、自分のためにエンディングノートは作っておいた方がいい。『延命治療は拒否します』ときちんと自筆で宣言しておかないと、チューブだらけにされて生かされることになる。家族に口頭で伝えておくだけでは不充分です。臨終が近づくと、普段会わない親族がやって来て『なんで治療しないんだ』などと口を出され、無理な延命をさせられることもあるからです」

 口を酸っぱくして家族に言い含めておいても、「証拠がない」と言われ、ひっくり返されてしまうかもしれないのだ。

 エンディングノートも書いただけで満足してしまう人が多いが、それでは不充分だと語るのは、多くの看取りを行ってきた長尾クリニック院長で医師の長尾和宏さんだ。

「みなさんせっせとエンディングノートに書き込んでいるようですが、肝心な時が近づいた頃には認知症が進んでノートの存在自体を忘れたり、家族が見つけられない場合もある。机にしまい込まず、元気なうちから家族と何度も話し合い、託しておきましょう」

 たしかに、必要な時に意志が伝わらなければ無駄骨に終わってしまう。家族をはじめとする周囲の人と理解し合い、感謝を伝えて旅立てるのがいちばんだろう。終わりよければすべてよし。最期の瞬間に後悔しないために、今から始められることがある」

※女性セブン2019年10月10日号