日本人は薬を飲みすぎ! 充実した保険と「念のため」の弊害か 記事NEWSポストセブン2019年03月20日
《4剤以上飲まされている患者は、医学の知識が及ばない危険な状態にある》。
これはアメリカの医師が新人ドクターに向けて医師が持つべき心得を書いた『ドクターズルール425 医師の心得集』という本からの抜粋だ。
「アメリカにおいても実際にどの薬を使うかは医師の判断に一任されているうえ、減薬を義務づける法律があるわけではない。しかし、高齢者の多剤併用は社会問題化しており、避けるための動きが活発化しています」
そう語るのは、アメリカ在住の医師・大西睦子さん。複数の薬を服用する多剤併用を避けるための動きの1つが、併用すると悪影響が出る薬をまとめた「ビアーズリスト」という一覧だ。大西さんが解説する。
「アメリカでは1991年、老年病専門医のマーク・ビアーズ博士が、併用すると不適切な薬のリストを作成しました。これを『ビアーズリスト』といい、リストの中には降圧剤や睡眠薬など、高齢者が多剤併用しやすい薬と、その危険性が記されており、たびたび更新されています」
医療大国であるドイツでも単価が高いゆえ、余計な薬はのまない傾向にある。
その一方で、日本では多剤併用が問題化している。どうして、日本だけがこんなにも多くの薬をのみ続けているのか。在宅医療や訪問診療に取り組むたかせクリニック院長の高瀬義昌さんは「日本は国民皆保険で医療費の自己負担額が低いことが大きな理由」と指摘する。
「特に抗不安薬の処方が他の国に比べてダントツに多い。高齢者では転倒やせん妄を発症するリスクも高いのに、いまだに漫然と投与されています」
“とりあえず”、“念のため”の弊害
医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さんは「“よかれと思って”が裏目に出た結果」だと言う。
「基本的に医療費は3割負担であるうえ、高齢者になると定額になったり乳幼児は一部自治体で無料になったりするゆえに、医師も“とりあえず”“念のため”の感覚で薬を出しやすい。医師は悪気なくよかれと思ってやっているし、患者も安いからもらえるものはもらっておこう、という気持ちでいる面は大きい」
しかし「とりあえずもらっておこう」とのみ始めた薬が原因で病気になったら目も当てられない。無駄な薬をのまないようにするためには、どうしたらいいのか。
新田クリニック院長の新田國夫医師は「前提として、薬を減らす場合は必ず医師に相談してほしい」と話す。
「自己判断で勝手に減らした結果、重篤な状態に陥った人もいます。必要がない薬だと自己判断せずに、必ず医師と相談しながら減らすようにしてください」
画像の処方箋をご覧いただきたい。2枚にわたってびっしり薬の名前が書かれている。これは医師の高瀬さんが診察した80代の女性が持っていたものだ。当初、3つの医療機関から20種類以上の薬を処方されていた。
「この患者さんは、頻尿改善を期待して抗うつ剤の『アミトリプチリン塩酸塩』が処方されていた。泌尿器科で処方されることが多い薬ですが、アルツハイマー型認知症の症状を悪化させる抗コリン系作用のある薬であるため、高齢者はのまない方がいい。大病院の泌尿器科の先生ですら、高齢者に出すのは危険だと知らなかったようです。同じく腎機能が低下した高齢者には副作用が心配な酸化マグネシウムも出ているうえ、痛み止めも数種類出ています」(高瀬さん)
高瀬さんは一つひとつ必要性を吟味し、16種類の薬を減薬した。画像で薬名に線が引いてあるものが減薬した薬である。
実際に在宅や訪問診療を行っていると、同様のケースは決して珍しくないという。
「患者さんも多すぎる薬に不信感を持っていて、ご自宅に行くと、外来では『のんでいます』と言っていた薬も、のまずに隠していたりする。のんでいないから、症状がよくならず、薬の量が増えていることもある。たくさんの薬を1つずつ、今の状態を診察しながら、本当に患者さんにとって必要なのかを見直し、減薬していきます」(高瀬さん)
高瀬さんは「生活習慣の見直しや周囲のサポートによって、薬を減らせることも多い」と話す。
「認知症で糖尿病も患っている男性の患者さんが、毎日コーヒー1杯に砂糖をスプーン5、6杯も入れていました。これを低糖質の人工甘味料に置き換えることで、糖尿病の薬を減らすことに成功しました」
ほかにも日中の活動を増やして睡眠薬を減らす、家族や友人とのコミュニケーションを増やして抗うつ薬を減らすなどのケースがある。 ※女性セブン2019年3月28日・4月4日号