東京電力福島第1原発事故に伴う福島県の帰還困難区域内で、2012年以降にモミの木の生育異常が増加しているとの調査結果を、放射線医学総合研究所の渡辺嘉人主任研究員らが28日、英科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。放射線量が高い場所ほど異常な木の割合が高く、放射線の影響の可能性がある。チームは「放射線との因果関係やメカニズムを解明するにはさらに研究が必要だ」としている。

 ◇幹の先端、芽が出ず

 チームは大熊町と浪江町の計3カ所と、比較対象として茨城県北茨城市でそれぞれ111〜202本のモミの木を調べた。その結果、放射線量が最も高い大熊町の調査地(毎時33.9マイクロシーベルト)では97.6%で、幹の先端の「主幹」と呼ばれる芽がなかった。主幹がないと生育が止まる。放射線量が同19・6マイクロシーベルトと同6.85マイクロシーベルトの浪江町の2カ所の調査地では、それぞれ43.5%と27%に異常が見られた。一方、北茨城市(同0.13マイクロシーベルト)では5.8%にとどまった。

 環境省が11年度から実施している野生動植物調査では、約80種を調べた結果、モミ以外で異常は見られないという。針葉樹は放射線の影響を受けやすいことが知られており、旧ソ連・チェルノブイリ原発事故後には、ヨーロッパアカマツなどで異常が出たという報告がある。メカニズムは分かっていない。

 チェルノブイリ事故の環境影響に詳しい笠井篤・元日本原子力研究所研究室長は「チェルノブイリで木に影響が出た地域の線量は今回の調査地点よりけた違いに高い。気象条件など自然環境要因も考慮し、慎重に原因を調べる必要がある」と指摘する。【渡辺諒】