ピアノの前にすわり、鍵盤もさわらずに男はなにかを口ずさんでいます。
時折指でリズムを刻みながら・・。
誰もいない部屋。すこしして、男はしずかに話しはじめます。
"世界にはいろいろな考えがあふれている。だが、自分に合うものは結局なにひとつなかった。
今のわたしになにが必要なのか、それがわかるまでどれだけの時間を費やしたことだろう。
自分に語りかけていくことだけが唯一の方法だと、今は言える。
孤独というほどひとりで生きてきたわけじゃないし、だが、たえずまわりの人はいても、自分の置かれた境遇は自分で解決していくしかない。
いつも心から呼びかけられてきたことは、ただただ真摯に生き、愛とともにあることを知りなさいという言葉。
支えはいつも胸にあり、この先の道さえ整えてくれるのだからと。
美しい花の道を歩む時もあれば、イバラの覆う暗がりを行く時もある。
大切なのは、自分の中にある愛に気づいているかということ。
大いなる失望は自分を愛せなくなった時に起こるもの。愛を尊ぶことができなくなった時に、つらさや冷たさはやってくる。
たとえすべてを失ったとしても、いまだこの胸の中に愛があることに気づいているなら、この先足をくじかれることはない。
そして、頭上に日は明るんでくれる。
「ありがとう」とただただ魔法の言葉をつぶやいて、自分の心に帰っていけば、かならず見つかるはず。
今自分が見失っているなにかを・・。"
男は静かに鍵盤に指をおき、音色を奏ではじめます。
シンプルな旋律、愛の曲を。
とてもあたたかみに満ちた、どこかで聞いたことがあるような日だまりの歌。自らの中に宿る愛の歌を。
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