切れるような三日月の下で・・。
夜の深い森に迷い込んだ白馬の男。
馬のいななきとともにさらに森の奥の方へと進んでいくのです。
すると、どこからか美しいハープの音が響いてきました。
馬を止め、男は下りてあたりをうかがってみます。
すると、木々の向こうにほんのりと明るみがあるのに気づくのです。
男は手綱をにぎりその方へと歩いていきます。
そこには湖が広がっていたのです。
湖畔の小さな道を歩きながら、男はハープの美しい音色を探すのです。
すると、"この湖に何の用で訪れたのですか?"
木々のどこからか美しい声が聞こえました。
男はあたりを見回しますが、人らしい姿はありません。
"誰がいるのです? わたしはこの森に迷い込んだ者・・"
"では、この湖畔の道を行くのが良いでしょう。この先には森を抜ける道があります"
"あなたは誰なのです?"
男の声が湖畔に響きます。
"わたしはこの森に住む者です"
男の後ろ、木の影から美しい女性があらわれました。白いドレスのようなものをまとって、手には小さなハープが・・。
"あなたでしたか・・。先ほどの美しい音色は・・"
"夜の慰めを弾いていたのです。心傷ついたものを癒す音色を・・。"
"なぜこのような深い森に住んでいるのです?"
"あなたはなぜこの場所に?"
"わたしは女王様の使いで森にやってきたのです。
女王様はこの森の木の実をいたく気に入っておられる・・"
"あなたは無断でこの森の財をとっていくのですか?"
男は驚きながらも、申し訳なさそうに、
"これは失礼なことをしました。この馬の背には今もたくさんの木の実がのっています。この森の財である・・。"
"木の実は森の入口あたりでもたくさんとれるはずです。あなたはなぜこのような深いところまで?"
"それは・・、"
男は口ごもりますが、女の澄んだまなざしの前に意を決して、
"胸の高鳴りを感じたのです。そして、このあたりに誘われるようにやってきたのです。
あなたの美しい音色を耳にしたのはその後です。不思議なことですが、迷うのを承知の上でここに来たのかもしれません・・・"
女はゆっくりと湖畔に向かいながら、
"ここのことは誰にも言わないでほしいのです。森の静けさ。あたりの財を人に荒らされたくはないのです"
"それはわかりました。ただ、ひとつお願いがあるのです。
その美しいハープの音色をもう一度聞かせては下さらないか?"
女は湖を見つめながら、
"良いですが、音色には魔が働くことがあるのです。
あなたの身に魔がとりつくことも・・。"
"どうしてもあの音色になにか感じるものがあるのです。このまま引き返すことは、わたしにはできない・・。"
"どうしてもとおっしゃられるのなら・・、聞かせてあげましょう。あの岩場に腰かけて・・"
ふたりは湖畔にある一枚岩に腰かけて、
"もし、わたしの身になにかあったら・・。あの馬だけはお城へお帰し下さらないか。女王様が森の木の実を心待ちにしているのです・・"
女はうなづいて、
"森の歌は誰にも聞かせたことがありません。
たとえ魔がさしたとしても、それを払うものを用意はしています。
わたしも一度は聞いてもらいたかったのです。誰かに・・。わたしの奏でるものを・・"
男の見つめる中、女はハープを弾きはじめます。
静かな湖畔。切れるような三日月。深い森。白馬もうっとりとその美しい音色に耳を傾けています。
しばらくして、女は弾く手をとめて、
"あなたは奇跡というものを信じていますか?"
男は顔をうつむけて、
"わたしは一度生命を落としかけた者なのです。それを女王様から救っていただいたのです。
だから、この生命はもうわたしのものではない・・。しかし、それは邪険にあつかうというものではないのです。
こうしてヒカリを感じる方へ自らを向かわせる、そんな人生にしているのです。"
女は男を見つめて、
"あなたのような方が本当に生きている人なのでしょう。
奇跡はいつもあなたとともにあるような気がします。そして、ここにきたことも・・。
わたしのこの音色はどうですか?"
"なにか不思議なものを感じるのです。ずっと昔から聞き知っていたような・・"
美しいハープの演奏はそれからも続きました。
千年生きる女の生命がともに生きる生命を見つけた、そんな奇跡の夜だったのです。
ふたりはやがて結ばれることを、ふたりともが感じながらも、なにか不思議な感覚の前にただなすすべなく、ともにいた夜だったのです。
夜の深い森に迷い込んだ白馬の男。
馬のいななきとともにさらに森の奥の方へと進んでいくのです。
すると、どこからか美しいハープの音が響いてきました。
馬を止め、男は下りてあたりをうかがってみます。
すると、木々の向こうにほんのりと明るみがあるのに気づくのです。
男は手綱をにぎりその方へと歩いていきます。
そこには湖が広がっていたのです。
湖畔の小さな道を歩きながら、男はハープの美しい音色を探すのです。
すると、"この湖に何の用で訪れたのですか?"
木々のどこからか美しい声が聞こえました。
男はあたりを見回しますが、人らしい姿はありません。
"誰がいるのです? わたしはこの森に迷い込んだ者・・"
"では、この湖畔の道を行くのが良いでしょう。この先には森を抜ける道があります"
"あなたは誰なのです?"
男の声が湖畔に響きます。
"わたしはこの森に住む者です"
男の後ろ、木の影から美しい女性があらわれました。白いドレスのようなものをまとって、手には小さなハープが・・。
"あなたでしたか・・。先ほどの美しい音色は・・"
"夜の慰めを弾いていたのです。心傷ついたものを癒す音色を・・。"
"なぜこのような深い森に住んでいるのです?"
"あなたはなぜこの場所に?"
"わたしは女王様の使いで森にやってきたのです。
女王様はこの森の木の実をいたく気に入っておられる・・"
"あなたは無断でこの森の財をとっていくのですか?"
男は驚きながらも、申し訳なさそうに、
"これは失礼なことをしました。この馬の背には今もたくさんの木の実がのっています。この森の財である・・。"
"木の実は森の入口あたりでもたくさんとれるはずです。あなたはなぜこのような深いところまで?"
"それは・・、"
男は口ごもりますが、女の澄んだまなざしの前に意を決して、
"胸の高鳴りを感じたのです。そして、このあたりに誘われるようにやってきたのです。
あなたの美しい音色を耳にしたのはその後です。不思議なことですが、迷うのを承知の上でここに来たのかもしれません・・・"
女はゆっくりと湖畔に向かいながら、
"ここのことは誰にも言わないでほしいのです。森の静けさ。あたりの財を人に荒らされたくはないのです"
"それはわかりました。ただ、ひとつお願いがあるのです。
その美しいハープの音色をもう一度聞かせては下さらないか?"
女は湖を見つめながら、
"良いですが、音色には魔が働くことがあるのです。
あなたの身に魔がとりつくことも・・。"
"どうしてもあの音色になにか感じるものがあるのです。このまま引き返すことは、わたしにはできない・・。"
"どうしてもとおっしゃられるのなら・・、聞かせてあげましょう。あの岩場に腰かけて・・"
ふたりは湖畔にある一枚岩に腰かけて、
"もし、わたしの身になにかあったら・・。あの馬だけはお城へお帰し下さらないか。女王様が森の木の実を心待ちにしているのです・・"
女はうなづいて、
"森の歌は誰にも聞かせたことがありません。
たとえ魔がさしたとしても、それを払うものを用意はしています。
わたしも一度は聞いてもらいたかったのです。誰かに・・。わたしの奏でるものを・・"
男の見つめる中、女はハープを弾きはじめます。
静かな湖畔。切れるような三日月。深い森。白馬もうっとりとその美しい音色に耳を傾けています。
しばらくして、女は弾く手をとめて、
"あなたは奇跡というものを信じていますか?"
男は顔をうつむけて、
"わたしは一度生命を落としかけた者なのです。それを女王様から救っていただいたのです。
だから、この生命はもうわたしのものではない・・。しかし、それは邪険にあつかうというものではないのです。
こうしてヒカリを感じる方へ自らを向かわせる、そんな人生にしているのです。"
女は男を見つめて、
"あなたのような方が本当に生きている人なのでしょう。
奇跡はいつもあなたとともにあるような気がします。そして、ここにきたことも・・。
わたしのこの音色はどうですか?"
"なにか不思議なものを感じるのです。ずっと昔から聞き知っていたような・・"
美しいハープの演奏はそれからも続きました。
千年生きる女の生命がともに生きる生命を見つけた、そんな奇跡の夜だったのです。
ふたりはやがて結ばれることを、ふたりともが感じながらも、なにか不思議な感覚の前にただなすすべなく、ともにいた夜だったのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます