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見送りに来てくれてありがとう。
みんなで送れないのが残念ね。
駅の舎内に鐘の音が響き、列車が入ってくる。
ホームに立っているふたり。
忘れ物はない?
ないと思うけど、あればまた連絡する・・。
楽しい生活が送れるといいわね。
不安はあるけど、がんばってみるから・・。
誰だってそうよ。最初はつらいことも多いけど、そのうち楽しいことを見つけやすくなるわ。
孫がおばあちゃんの腕をつかむ。
しっかりやってきなさい。お星様はどこにいてもあなたを見守ってくれるから。
孫はうなずき。
おばあちゃんと一緒にいられないのが淋しい・・。
あら、あなた時計は?
いらない。携帯もあるし、どこにでも時間はわかるから。
おばあちゃんがコートのポケットに手を入れて、小さな黒い時計をとりだす。
持っていきなさい。わたしからのお守り。
いいわ。なんだか悲しくなっちゃうから。
車掌が発車をつげる鐘をならす。
じゃあ、行ってくるから。
ふたりは抱き合い。
心配いらない。素敵な生活があなたを待っているから。
ありがとう。
孫は列車に乗り込み、座席の方へ。そして、窓をあけて。
やっぱり時計持っていくわ。むこうで大切につけるから。
おばあちゃんは時計を渡して。
むかしおじいちゃんと一緒のものを持っていたのよ。
遠くに行く時はいつもお互いに身につけていたものなの。
これでおじいちゃんといつもつながっていたのよ。
そんな大切なもの、いいの?
だから、これはお守りになるの。
むこうに行ってもまた連絡する。
いろいろあるかもしれないけれど、お星様はいつも輝いているわ。気持ちはどこにいても通じ合えるから。
うん、がんばってくる。
そう、その調子。いい女になりなさい。
車掌のかけ声がホームに響き、列車が動きはじめる。
孫はうつむいて、黒い時計をにぎりしめている。
しばらくすると、窓の向こうに目をやってみる。褐色の空にいくつかの輝きを見て。
これからはよろしくお願いしますと笑みをつくってみた。
すると、気持ちがふっと軽くなって、おばあちゃんのささやく声がいつまでも耳の中に響いていた。