河井克行元法相による二〇一九年参院選広島選挙区の買収事件で検事が地元議員らに供述の誘導をした疑いが浮上した。不起訴を持ちかける「裏取引」をしたなら言語道断だ。徹底検証を求める。
選挙に絡んだカネは配った側ももらった側も罰せられる。だが、元法相(懲役三年の刑で服役中)の公職選挙法違反事件では、現金を受け取った地元議員ら百人を当初、検察は全員不起訴とした。
検察審査会が三十五人を起訴相当と議決。後に九人が在宅起訴、二十五人が略式起訴になった。既に公判が始まっている。
その中で検事による供述誘導の疑いが発覚した。ある元市議は九回の事情聴取を受けたが、自分で三回計約七時間の録音をした。そこで検事が「全面的に認めて、反省していることを出してもらいたい」「不起訴であったり、なるべく軽い処分にしたい」と発言したとされる。
検察側が期待する供述をしたなら、起訴しないニュアンスが十分うかがえる。利益誘導と言わざるを得まい。他の元県議・元市議らも同様の誘導を受けたようだ。調書の訂正を求めても検察が応じなかった。いずれも正しい供述調書にならず不当といえよう。
この聴取は任意段階なので、検察側の録音・録画の対象外だ。そこで事実上の取り調べが行われているのなら、現行の録音・録画の制度も当然、任意段階にも拡大しないと意味をなさない。適切な取り調べが行われているかチェックするのが趣旨だからである。
法廷証言でも利益誘導があったとみられる。証人尋問前の「証人テスト」の場で検察側に有利な証言をするよう求めたやりとりが、やはり録音データに残る。
証人テストは証人尋問前に、証人の記憶を呼び起こし、限られた時間内で証言するために事実関係を確認する手続きである。そこでも証人に検察が圧力をかけたり誘導したりすれば、刑事裁判自体の公正さが失われてしまう。
供述は任意性が大事だ。しかし検察は描いた構図に沿った供述を強い、証拠とする体質がある。
それでは真の事件解明にはならない。元厚生労働省の村木厚子さんが冤罪(えんざい)に巻き込まれたのも同じ原因からだ。その反省から「検察改革」がなされたはずだ。今後の検察当局の調査次第では「再改革」が必要になろう。
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