1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。
日銀が不可思議な説明を繰り出している。先月下旬の金融政策決定会合で、異次元緩和策の柱である「イールドカーブ・コントロール(YCC)」の修正を決定。長期金利の上限を「0.5%程度」から1.0%に引き上げました。
金利の上限を大幅に引き上げたわけですが、植田総裁は異次元緩和策からの正常化を否定し「YCCの持続性を高める動きだ」と説明。金利の上限を上げたのに「金融緩和を維持する」というのは、おかしな理屈です。
そんなつじつまの合わない説明をせざるを得ないくらい、日銀は追い込まれているということでしょう。現状、物価は高騰し、賃金も上がってきています。欧米は金利上昇が一服しつつありますが、また上昇局面が訪れる可能性もある。すると、欧米との金利差から、輸入物価高騰の原因である円安を招きかねない。端的に言って、今は緩和策を続ける理由がない状況です。日銀が金利の目標水準を上げながら「緩和を継続する」と苦しい説明をするのは、緩和策終了を印象付けてしまえば国債の利回り上昇を招き、政府が財政不安に陥りかねないからでしょう。
そもそも、安倍政権時の黒田日銀のもとで始まった異次元緩和とは、物価目標を掲げていたものの、実態は政府発行の国債を日銀が引き受ける「財政ファイナンス」だった。植田総裁は本音では「今どき、こんな緩和策を続けている場合じゃない」と考えていると思います。それでも不可思議な説明をせざるを得ないのは、黒田日銀時代に理屈に合わない「財政ファイナンス」を始めてしまった結果です。
理屈に合わないことをやるからこうなるわけで、「ざまあみろ」と言いたくなるけれど、打撃を受けるのは国民ですから、そうも言ってはいられない。この際、日銀にはこれまでの政策を猛省してもらい、次の危機には思い切って「もう理屈に合わないことはやめます」「だから政府も覚悟してください」と、中央銀行らしい気概を示してもらいたいものです。
しかし、いまの日銀からはそうした気骨は感じられず、態度はムニュムニュとしたもの。今は亡き「アホノミクス」の大将である安倍元首相は、かつて公然と「日銀は政府の子会社」と言い放っていた。そういうスタンスの政府に対し、日銀は「その通りでございます」という態度を貫いているのです。
その関係は、アホノミクスを丸パクリし「アホダノミクス」を続ける岸田政権になっても変わっていません。岸田首相も「財政ファイナンス」してもらわないと困ると考えているのは明らかです。大軍拡予算を組み、その一部を建設国債で賄う。バラマキにしか見えない異次元の少子化対策だって財源が曖昧な状態です。そんな中での国債の利払い負担増は、どうしても避けたいということなのでしょう。
岸田氏には、安倍氏のように「日銀は子会社だ」と言い放つ勇気はないのかもしれませんが、両者のスタンスは全く同じ。日銀を“打ち出の小づち”扱いするなど、決して許されません。植田日銀にも、金融政策の総括責任者としての義務をキチンと果たしてもらいたい。
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