自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、通常国会では「政治とカネ」の問題が最大の焦点となったが、実態解明は進まず、法改正も中途半端に終わるなど、消化不良のまま事実上閉幕となった。国民の政治不信は収まらず、内閣支持率が低迷する岸田文雄首相に自民議員から公然と批判が相次ぐ。求心力が低下した首相は、電気・ガス料金の支援策など追加の経済対策で政権浮揚を図る考えだが、9月の党総裁選での再選には厳しい見方が広がる。(大杉はるか、近藤統義)
◆「不十分という指摘は受け止めたい」
「政治改革に終わりはない。真摯(しんし)に議論を続け、不断の改革に取り組んでいく」。首相は21日の記者会見でこう強調した。
通常国会が開幕した1月、裏金事件で現職議員の逮捕者も出る中、首相は施政方針演説で「政治の信頼回復に向け、先頭に立って必ず実行する」と訴えていた。だが、ふたを開けてみれば、裏金事件の真相究明に後ろ向きで、首相自身の処分も見送り、政治資金規正法も小手先の抜け穴だらけの見直しにとどまり、会見で「不十分という指摘は謙虚に受け止めたい」と釈明せざるを得なかった。
◆物価高の中「議員特権」に怒り充満
毎年10億円の政策活動費を使っても「政治活動の自由」を理由に使い道は非公開で、政治資金パーティーで多額の収入を得ても原則非課税、議員が自らの政党支部に寄付して所得税控除を受けるなど、庶民感覚とはかけ離れた「議員特権」も浮き彫りになった。
一方で、国民生活は円安などによる物価高が続き、実質賃金は過去最長の25カ月連続マイナス。電気・ガス代補助金も5月分で打ち切られ、65歳以上が支払う介護保険料も上がり、国民は不満と不信を募らせる。
首相の肝いりで6月から実施する一人4万円の定額減税は、実務を担う自治体や企業の負担が重く、不興を買っている。会見では、ガソリンや灯油の補助金、年金世帯や低所得者への給付金といった家計支援策の検討を次々と表明。あの手この手で支持回復に躍起になっている。
◆代議士会で批判浴び…「迷惑かけた」
自民党内には、政治資金規正法を巡り、公明党や日本維新の会と修正協議を独断で進めた首相への不信が渦巻く。20日の内閣不信任決議案採決を前にした自民党代議士会では中堅議員が公然と首相を批判した。
首相は21日の代議士会に出席して「議論を進める中で、混乱、迷惑をかけた」と陳謝して「自民党を守るために総裁として決断した」と理解を求めた。それでも、党内に不満がくすぶり、首相周辺から「いよいよ党内政局だ。これからいろいろな動きが出てくる」との声が漏れる。
総裁選を前に厳しい状況に立たされている首相。会見で再選を目指すか質問されたが、最後まで立候補を明言することはなかった。
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◆自民には政治改革を担う存在が見えない
東京大先端科学技術研究センターの牧原出教授(行政学)の話 政治資金規正法改正が実現しない展開もあり得た中、とりあえず制度化への道ができたのは前進だ。ただ、2年後の施行に向け細かい制度設計が必要で、まだ道半ばだ。
裏金事件は日本政治の影として現れた。公明党や日本維新の会の要求で自民党案が修正された一連の過程は、世論を強く意識した政党間の取引だった。少子高齢化による高負担社会に身構える国民が政治家のお金の使い方に憤るのは当然であり、不透明さを残したままでは国民に負担をかける新たな政策展開に取り組めない。
今回の問題は2012年から続く強力な自民党体制の終焉(しゅうえん)を告げた。与野党が拮抗(きっこう)し、政権交代を語れる政党間競争が本格的に始まる条件が整ってきたと見ていい。深刻なのは、自民党内で岸田文雄首相以外に政治改革を担う存在が全く見えなかったことだ。党の改革も派閥もうやむやで、新たなガバナンスに切り替わっていない。9月の総裁選は誰が出ても厳しい目が向けられるだろう。
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