未来をつくる人たちへ あすは成人の日
「大人たちだけが住む世界じゃない」-。暖冬の街で若者たちが心の声をしぼり出す。先月六日、浜松市の浜松開誠館中学・高校生が繰り広げた「グローバル気候マーチ」です。遠くスペイン・マドリードでは、温暖化対策の国際会議「COP25」が開催中でした。十七歳になったばかりの少女、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが二年前、たった一人で始めた「気候のための学校ストライキ」に共鳴し、世界中に広がった若者たちの抗議行動。開誠館の生徒にとっては昨年の九月に続いて二度目の試みです。
約四百人が参加して「気候危機」の切実さを訴えました。
地球を守れ、未来を守れ
横断幕を先頭に、市街地を約一時間。整然と行進しながら「地球を守れ」「未来を守れ」と声を上げました。
中心になったのは「環境」や「貧困」「平和」といった国際社会の課題を学ぶ「グローバルコース」の生徒たち。
学習を進めるうちに、気候危機の深刻さに気づき、考え、グレタさんのことも知り、生徒会を巻き込んで「グローバル気候マーチに参加したい」と、高橋千広校長に直訴しました。
高橋校長も以前からグレタさんに共感を覚えており、グレタさんのように、自らの意思で一歩前へ踏み出そうとしている生徒たちを見て、「腹をくくって」応援することにしたそうです。
生徒たちは、あと二つ、学校に「お願い」をしています。
一つは、気候危機に関する意見広告を出したいと。
農家出身の高林一文理事長は、温暖化の進行による田畑の荒廃、食料不足、ひいては飢餓の到来を常々憂慮していたといい、「生徒募集の広告を出す代わりに」と、これを承諾。「グローバル気候マーチ参加生徒一同」の<大人の皆さん、今を生きる者の責任と行動で地球の未来を救ってください。未来を生きていく私たちの切実な想(おも)いに耳を傾けてくださり、ありがとうございました>という訴えが、地元紙に掲載されました。
もう一つは「RE100プロジェクト」への参加です。
「RE100」とは「事業運営を100%再生可能エネルギーで行います」という、目標を掲げること。学校側は「大人としての責任だから」とこれも受け入れ、建設中の新体育館の電力をすべて太陽光で賄えるよう、設計図を書き換えることになりました。
今やるべきことをやる
校長と理事長に、ベタな「突っ込み」を入れてみました。
「大人としての責任って、何でしょう」
高橋校長の答えは明快でした。
「今、私たちがやるべきことをやるということ」
生徒たちが共感を寄せたグレタさん、世上言われているような「怒りの子」ではありません。
彼女はしばしば、このような言葉を口にします。
<二〇三〇年、私は二十六歳になります。(中略)素晴らしい時期だと聞いています。まだ先に人生がたっぷり残っている年代だと。でも、私たちにとって、そんな素晴らしい時期になるのか、あまり確信が持てません>(「グレタ たったひとりのストライキ」)
十年後にも不可逆的な異常気象の連鎖が起こると予測する、国連「気候変動のための政府間パネル」(IPCC)のリポートを真摯(しんし)に受け止めているからです。
彼女はきっと、おびえています。見えない未来を恐れています。
こんなことも言っています。
<たったいま、あなたたちのしていること、あるいはしていないことの結果を、私たちの世代が将来、帳消しにすることはできないのです>(同)。自らの無力を嘆き、いら立ち、そして<これは助けを求める叫びです>(同)などと、懇願し続けているのです。
子どもは大人の希望であるという前に、大人こそ、子どもたちの希望であり続けるべきではないのかと-。
大人になる、成人するということは、グレタさんとともに叫ぶ人から、彼女の叫びを受け取る人へ、小さな一歩を踏み出すことかもしれません。新成人の皆さんは、受け取る人になるわけです。
まだ見ぬ豊かな選択肢
大手自動車メーカーの社長が自社のCMで「未来のことは私にはわからない。それを決めていくのは未来を生きていかれる人だし。(私は)チョイス(できる環境)を与えたい」と語っています。
皆さんもいわば選択肢をつくる人、未来というフィールドを耕す人になるわけです。責任は重いし、面倒も多い。
でも、未来をつくる人になるって結構、おもしろそうだと思いませんか。だから新成人、おめでとうございます。
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