代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

専門家のタコツボ化とアマチュア研究者のブレークスルー

2014年06月26日 | 学問・研究
 当ブログのコメント欄で、複雑系経済学のパイオニアである塩沢由典先生と珪藻類研究者であるたんさいぼう影の会長さんが、すばらしい議論を展開してくださっています。コメント欄に留めておくのはあまりにももったいないので再掲させていただきます。
 細分化・硬直化・タコツボ化した専門家が業界の既得権益にしばられて自由な発想も妨げられる傾向もある中で、その停滞を打開するためのアマチュア研究者ないしアマチュア精神の役割が論じられております。

 なお、文中に出てくる本は、塩沢先生が出版された大著『リカード貿易問題の最終解決 ―国際価値論の復権』(岩波書店)です。リカードが『経済学および課税の原理』を著したのが約200年前の1817年。塩沢先生の大著は、リカードが提起して以来200年間未解決だった国際価値論を解明した画期的な著作です。この本の紹介は、追って行いたいと思います。

 


***以下、当ブログのコメント欄より引用****

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/7cd9cc964ea35a2e409f2571f9830ac6

『リカード貿易問題の最終解決』追伸 (塩沢由典)2014-06-20 01:32:28

 アメーバブログの「秋山のブログ」(注)に『リカード貿易問題の最終解決』に関する最初の本格な紹介が出ています(6月9日)。秋山先生は、どこかの公立病院の副院長さんだそうですが、たぶん1ヶ月近くも掛けて読んでくれたようです。医学が専門で経済学は素人のはずですが、ひとりでもこのようにきちんと読んでくれる人が出たことは、著者としてたいへんうれしくありがたいことです。2回目(6月16日)には、TPP問題に関するわたしの意見が紹介されています。第3回目もあるかもしれません。

(注)秋山先生のブログは以下のサイト
http://ameblo.jp/chichukai/entry-11874155582.html
http://ameblo.jp/chichukai/entry-11877367944.html
http://ameblo.jp/chichukai/entry-11878656204.html

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塩沢由典先生 (関)2014-06-21 13:32:26 

 秋山先生のブログのご紹介ありがとうございました。秋山先生、以前に私の『自由貿易神話解体新書』もブログで紹介してくださっておりました。
 病院の副院長先生が、あそこまで真剣に経済学の勉強をしておられることに本当に敬意を抱きます。
 TPPが医療関係者に与えた衝撃が、関係者を経済学の勉強に向かわせているのでしょうか。
 私も最近、信州の長寿の原因は佐久病院の若月俊一先生の「予防は治療に勝る」という哲学にあるのではないかと考え、若月先生の本など再読しておりました。詐欺まがいの新薬やワクチンによる薬害が増え、医療費も激増して財政を圧迫する中、医療費を下げながら長寿社会を実現できる若月先生の哲学はあらためて再評価されなければならないと思います。

 経済学者以外のアマチュア経済研究家が増えると、とくに新古典派経済学者はうかうかして子供だましのデマを流せなくなるでしょうから、すばらしいことだと思います。 
 私も追って、私のブログでも『リカード貿易問題の最終解決』を紹介させていただきたいと存じます。
 今年は週に9コマも授業を担当させられていて、授業準備でアップアップしておりました。前期が終わるまで少々お待ちください。

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若月先生のこと、秋山先生のこと (塩沢由典)2014-06-24 11:55:11

わたしも長野県出身ですので、若月先生のことはよく知っています。わたしがまだ就職浪人をしているころ、すでになくなった母が若月先生のことを大変尊敬して話していたことを思い出します。

医療経済は、今後の日本経済を考えるにはたいへん重要な分野ですし、経済学者も真剣に勉強なしければなりませんね。現実には、なかなかそうはできませんが、秋山先生のような存在を知ると、やはり経済学者ももっとがんばらなければと思います。

『リカード貿易問題の最終解決』、ちかく紹介してくださるとのこと、ありがとうございます。たのしみにしております。もちろん、学期中はなかなかむりでしょう。

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アマチュア経済学者 (たんさいぼう影の会長)2014-06-24 19:55:02

 以前、うちの元同僚の社会学者(大学は経済学部)に、なぜアマチュアの社会学者・経済学者はほとんどいないのか、という疑問をぶつけたことがあります。
彼の回答は以下のようなものでした。「社会学者・経済学者はともに、体制の理論づけ、あるいはオルタナティブの提起のために研究を行っているので、アマチュアの研究サークルのようなものが成立しにくい。アマチュア研究者の域に達している人たちは、たいてい何らかの「活動家」だ。」

 そして私は別の元同僚の社会学者に、「アマチュア社会学者」だと言われたことがあります。どういうことだ?
それはさておき、「アマチュア社会学者」「アマチュア経済学者」のたまり場をおおっぴらに確保できるのは、大学と博物館くらいです。随所に「研究会」がつくられ、そこからプロの牙城を脅かすようなアマチュア研究者が育ってくるようになれば、面白いですね。

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アマチュア経済学 (塩沢由典)2014-06-25 22:30:26

「たんさいぼう影の会」会長さま

アマチュア経済学者は、現在あまりいないだけで、経済学で大きなブレークスルを成し遂げた経済学者には、けっこうアマチュアがいます。20世紀で有名な人といえば、カレツキでしょう。いちおうイギリスにきて、LSEやケンブリッジ、オクスフォードに席を置いていますが、もともとポランドでは工学を専攻し、正規に経済学を学んだことはないようです。

ツガン=バラノフスキやローザ・ルクセンブルグなど異端の人たちの本を読んで経済学に入門しました。イギリスに来る前にポーランドで本を出しますが、そこには後の主な思想はすべて含まれているといいます。しかし、ケンブリッジでは、カーンやロビンソンに研究奨学金の延長を渋られ、やむなくオクスフォードに移っています。

いまではケインズ以前にケインズ経済学を発見したとか、ポスト・ケインジアンの3つの流れの一つの源流に数えられたりしていますが、1930年代は冷遇されていたというべきでしょう。

19世紀に入れば、ジェヴォンズとかパレートなどはエンジニアでしたし、リカードはもともとは株のブローカー、みなアマチュア経済学者です。もともと、1903年になるまでケンブリッジ大学には経済学のトライポス(卒業試験)もなかったのですから、それ以前の経済学者が経済学部出身でないのはほとんど必然です。

アマチュア経済学が素人考えであってよいということを言わなければ、専門が細分化されすぎて、理論の大きな枠組みをほとんど疑うことのなくなった今日、経済学を立て直すのは真剣に考えるアマチュア経済学者かもしけません。

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アマチュア研究者の復権を目指して (たんさいぼう影の会長)2014-06-26 21:45:07

塩沢由典先生

 コメントありがとうございます。
 19世紀の経済学が他分野の研究者・技術者によって築かれたものという話は何かの本で読んだことがあります。20世紀に入っても優れたアマチュア研究者がいたことについては、今回のコメントで知ることができました。たいへん勉強になりました。
 問題は、いよいよ学問が蛸壺化する昨今、いよいよアマチュア研究者の突破力が必要とされているのに、そういう余裕と情熱を持つ人が少なくなっていることです。
 幸いにしてこのブログには、そのような希少な人たちを引き寄せる吸引力があるようです。ぜひともこれと言った人たちにはアドバイスを頂ければ幸いです。

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ブレークスルーのために (塩澤由典)2014-06-26 23:17:55

 いま経済学は危機あるいは転換期にあるのだとわたしは考えています。同じことは1970年代の初めにも、多くの経済学者が言っていたのですが、1980年代にはほとんど忘れられてしまいました。

 リーマン・ショックでもういちど、いまのままの経済学でいいかという反省が再び出てきました。しかし、ここ数年、世界経済が落ち着いてくると、またぞろ「経済学の危機はなかった」という人たちが出てきています。こういう議論は、学問の危機と経済の危機を混同しています。経済学の危機は、それほど底の浅いものではないと考えます。

 ただ、危機を乗り越え、転換を成し遂げるにはブレークスルーが必要です。いまの学問の状況を見ると、アマチュア経済学者だけでは、ブレークスルーは無理でしょう。しかし、高い専門家能力とともにアマチュア精神(愛好家精神)は必要です。

 わたしが書物や論文によく引用している本に市川惇信長先生の『ブレークスルーのために』という小さな本があります。これは主として理系・工学系の研究所や大学でブレークスルーを目指す組織風土をつくりだすために、なにが必要かということを合衆国のCOEの実地調査をもとにまとめたものです。その中で、市川先生は、専門の異なる研究者の組合せが必要だと強調されています。

 異なる分野の専門家が話しあうためには、専門分野を越える知的好奇心が必要です。それがアマチュア精神でしょう。そうしたことを考えると、いまこそアマチュア研究者が必要だと思われます。


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 さらに別の記事のコメント欄で、たんさいぼう影の会長さんと薩長州公英陰謀論者さんの赤松小三郎論に関して、以下のようなすばらしいやりとりもなされています。紹介させていただきます。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/dc79258fffc940d937834114e0c550a2

大胆な仮説には (たんさいぼう影の会長)2014-06-24 21:20:58

 薩長公英陰謀論者さんは、しきり「素人」であることを遠慮された書き方をしていますが、このトピックでも関さんに称賛されている通り、仮説構築力には自信を持って良いと思います。
仮説を検証、反証、あるいは改良することには、もちろんその分野の知識にも、研究時間にも恵まれている「学者」の方が優れているでしょう。
  
 しかし、新しい仮説を立てる発想力については、その学問体系の外部からやってきた「アマチュア研究者」の方が優れていることが多々あります。今ある学問体系の内部に安住し、その改良に腐心する者に、発想の女神は(めったに)微笑まないのです。

 ならばどうするか。「素人」の発想の面白さを買ってくれる専門家を探して、議論の詰めをさせ、共著で論文を公表していくのです。

 私は自分の専門の「珪藻」で、その寸法で業績を稼いでいます。異分野からやってきたアマチュア研究者を主著者とする共著論文を、すでに10本以上書いています。
 実は私自身がだんだん議論についていけなくなってきたので、一度議論を整理し直して細部を詰めたものを読んでみたいというのも、こうして論文執筆をたきつける動機です。

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たんさいぼう影の会長様、ありがとうございます。お名前が体するものが何か、よく分かりました。 (薩長公英陰謀論者)2014-06-25 09:08:04

 たんさいぼう影の会長様、なるほどそのような、驚くべき珪藻の大家でいらっしゃるのかと、お名前を含めて得心いたしました。そのような方に身に余るお言葉をいただきまことに恐縮いたしております。
 考えますと「そういえば長らくつきあっている分野において(たんなる実務のですが)、そのようなことに通じるようなことがある」と思いあたり、気持ちがおちつきました。ありがとうございます。免罪符やセーフ・ハーバー、言い訳プロテクションのように素人を連呼いたしまして申しわけありませんでした。自重いたします。

 おっしゃっていただいたように、有為ないわゆる若手の方でそのような、奇特な方がいらっしゃれば本当にさいわいです。
 その方のヒントや素材の一つにしていただいて、所論に多少なりと利用いただくとか、ある部分の「隠し味」に使っていただくとか、そのようなことで「影の協力」をすることができればと存じます(むろん惜しみなく)。
 「ゆらぎ」の誘因の一つになる陰謀論者に徹したいと思う方が、むしろあつかましくて無責任なのでしょうか。臨機応変、状況に応じて(?)であるべきなのでしょうか。 

 たんさいぼう影の会長様には、ジャズやロックのジャム・セッションのような「陰謀論的提起の同心円的連鎖(のつもりなのですが)」を我慢づよくトレースし続けていただき、心から感謝しております。いささか度をすごしまして申しわけありません。
 「細部を詰めたもの」ということには、はるかに力およびませんが(「神は細部に宿る」という言葉がさらにプレッシャーに・・)腹案にありますものを含めて論点を整理構成し、まとめて報告いたします。どうかご容赦ください。
 これからちょっと遠方に出かけることがあり、また、いま一応の担当分野(実務のですが)で「仮説」を取りまとめることに難儀しておりまして、いささか時間を頂戴いたしたく、よろしくお願いいたします。

    ☆☆☆

 あ、「ど・アマチュア社会&経済学者」またはその取り巻きにはなりたいと思います(従前からの問題意識またはテーマがありまして)。夢のような話です。卒論を含めて論文を書く訓練をまったく欠いておりますし。

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PS 追記(6月29日)

 塩沢先生からアメリカの偉大なアマチュア経済学者についての追記として、ジェイコブスについての加筆をいただきました。この記事と連続した話しですので、追記させていただきます。


ジェイン・ジェイゴブズ (塩沢由典)2014-06-28 17:37:44


別の日(2014年3月31日)の記事に何回かコメントしました。それに対し、たんさいぼう影の会長さんが「社会学・経済学にはアマチュア研究者がなぜほとんどいないのか」という(質問を出された)というコメントを載せられました。


 20世紀の偉大なアマチュア経済学者としてカレツキーを上げましたが、もうひとり重要な(私にとってはもっとも重要な)ひとりを忘れていました。

ジェイン・ジェイコブズです。ジェイコブズは、20世紀第3四半世紀に都市計画思想を転換させた批評家として有名ですが、経済発展の考え方については、わたしはシェイコブズからもっとも大きな影響を受けました。

ジェイコブズは、1930年代の大変な時期に青春期を過ごしたので、正規の大学教育を受けることなく、雑誌編集の手伝いをしながら、自己教育で偉大な思想家になりました。夫が都市計画家であったこともあるかも知れませんが、基本的にはニューヨーク市の乱暴な都市開発に反対する運動に参加する中から、なにがおかしいのか自己学習し、それを『アメりカ大都市の死と生』にまとめました。長いあいだ黒川紀章訳がありましたが、あまり訳が良くないのと、半分しか翻訳されていないという不運な状況にありました。黒川さんがなくなって、201年にようやく山形浩生による完訳がでしまた。

経済学者としてのジェイン・ジェイコブズは、その後に書いた2冊の本(The Economy of Cities と Cities and Wealth of Nations)で、経済発展のメカニズムについて、これまでほとんど誰も言ってきていなかった考察を展開しています。ただ、経済学の主流からは、ほとんどは無視されました。都市経済学などで多様性の集積の効果をジェイコブズ効果などという程度です。それでも、R. ルーカスやR.フロリダなどにとっては大きなヒントになっています。

山形さんの新訳とほぼ同時にでたわたしの『関西経済論/原理と議題』も、その骨子はジェイコブズです。ただ、Cities and Wealth of Nations のジェコブズでは「輸入置換」を発展の一般形態としていて、新しい商品がいかに生まれるかあたりの説明が明確でないと思っています。その点をどう考えるかについて、『関西経済論』では新しい仮説を提起しています(第2章第8節)。

ところで上で本のタイトルを英語のままにしているのは、英語と日本語ですこしややこしい関係にあるからです。

The Economy of Cities 
『都市の原理』

Cities and Wealth of Nations 
旧訳『都市の経済学』 

この新訳が『発展する地域・衰退する地域』という表題で筑摩学芸文庫からでました。わたしも解説のひとつを書いています。もう一人の解説者は、もと鳥取県知事の片山善博さんです。これはよく売れているようです。

半分わたのし宣伝が入ってしまいましたが、20世紀後半のアマチュア経済学者としては、ジェイン・ジェイコブズが最大でしょう。

偉大なアマチュア経済学者を忘れていたので、追記させていただきました。


********

 ジェイコブスは、私は不覚にもちゃんと読んだことがなかったのですが、宇沢弘文先生がジェイコブスの都市論を非常に高く評価していて、たえずル・コルビジュの都市論を批判しながらジェイコブスを評価しておられます。それで宇沢先生からお話しを聞いて、間接的な情報のみもっていました。自分でもちゃんと読まねばなりません。ご紹介ありがとうございました。
 宇沢先生からコルビュジュの話を聞きながら勝手にイメージしていたのが千里ニュータウンや多摩ニュータウンで、ジェイコブスの話しを聞きながらイメージしていたのが浅草や下北沢や高円寺あたりです。



 

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2 コメント

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何よりすばらしいのは (たんさいぼう影の会長)
2014-06-27 21:07:07
何よりすばらしいのは、このブログにおける関さんの問題提起のありようだと思います。
このブログは、議論の相手を求めていた高レベルのアマチュアや、自分野の学問がこのままではいけないという危機感をもつ専門家や、私のような単なる言いたがりの野次馬まで、さまざまなタイプの知識人(広義の)を呼び寄せ、同じ土台の上で議論することを可能にします。
その結果、個々人が単独で考えうる以上の言説や見解が、随所に表れてきます。そして関さんがそれをすかさず拾い上げ、新しいトピックにまとめます。
これは、様々な人たちの協働によって今ある限界を超えていくという、社会教育学における1つの理想的な学びの形かもしれません。エンゲストロームの「拡張による学習」を思い出しました。エンゲストロームも弁証法の人なので、関さんの方法論と親和性が高いのだと思われます。
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弁証法の効用 ()
2014-06-28 11:50:25
たんさいぼう影の会長さま

 過分なお褒めのお言葉をいただき恐縮しております。お恥ずかしながらエンゲストロ-ムの「拡張による学習」は読んだことがありませんでした。
 ウェルナー・ハイゼンベルクも「科学は対話によって発展する」と述べていますが、弁証法こそが、1+1を2以上のものにしてブレークスルーを引き起こすというのは、私の変わらぬ信念です。
 日本の科学水準を発展させようと思ったら、弁証法的空間を随所につくればよいだけなのですが、おカミは閉鎖的インサイダー集団をつくるのは熱心で、学問研究の発展をひたすら阻害しているようにしか見えません・・・・・。
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