代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

緑のダム論争の背景

2005年01月16日 | 治水と緑のダム
 いま「緑のダム」論争が面白い。ここ数年、吉野川可動堰や川辺川ダムの建設計画といった国政の焦点にもなっている公共事業計画において、反対派住民が代替案として、放置人工林の適正間伐による森林保水力の向上(=緑のダム)を掲げるようになった。森林のダム代替効果が定量的に明らかにされた場合、国交省が執行している治水ダム建設予算は、林野庁や各都道府県の森林整備予算へと転用すべきだという議論が正当性を持つことになる。国交省にとっては死活問題であり、必死に反論を試みている。論争がヒートアップするのも当然の成り行きであった。

 現在、森林整備による洪水緩和効果を定量的に把握しようと最も熱心に研究しているのは、行政でも大学でもなく市民である。徳島では、市民自らが吉野川可動堰計画への代替案を提起しようと、「緑のダム」の検証作業を行った。行政もプロの研究者もタブーのように触りたがらない研究課題ならば、市民が研究予算をかき集めてでもやるしかない。NPO法人・吉野川みんなの会は、多分野の研究者で学際的に構成される「吉野川流域ビジョン21委員会(委員長・中根周歩広島大学教授)」に委託し、3200万円の研究費用と3年の月日を費やして研究を行った。延べ数百人の市民が、手弁当で流域の土壌浸透能調査に参加した。
 私も吉野川の緑のダム調査には、2回ほど参加したが、多くの市民が研究内容に関心を持って、ボランティアで研究を支えている姿には、本当に感動させられた。
 吉野川流域ビジョン21委員会の研究成果は昨年3月にまとめられて公表された。その骨子は以下のようなものである。
 国土交通省が150年に一度の豪雨の際に想定する洪水ピーク流量(基本高水流量)は、拡大造林が盛んに行われ、流域の森林がもっとも悪化していた1970年代の洪水実績から計算されており、森林の現状を反映していない。人工林の成長に伴って、現在では基本高水流量自体が14%ほど低減している。また、流域の放置人工林を適正に間伐することによって追加的に10%程度のピーク流量のカットが可能である。将来的な森林整備によって、基本高水流量自体が、新たなダム建設を必要としない数値にまで下がる。

 そして、こうした研究結果を報告しているのは市民だけではない。
 じつは、行政側からも同様な研究が出ている。脱ダムを行った長野県の林務部は、県のダム計画における基本高水流量は流域の森林の状態を織り込んで計算されておらず、森林の現状を反映させて貯留関数法のパラメーターを改定すると、基本高水流量はダムを必要としない数値にまで下がっているという試算値を示した。今後ますます論議を呼びそうな点である。

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2 コメント

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Unknown (kame)
2005-02-01 00:21:50
はじめまして。

先程、TBさせていただきました。

岐阜で長良川の自然保護を考えている者です。自分のブログを書いたあと関連したブログはないか捜していましたら、このブログを見つけました。

 昨年10月に私の所属する長良川水系・水を守る会でシンポジウムを行った際、吉野川の姫野さんに来ていただき「緑のダム」について話していただきました。

 緑のダムが拡がることを願っています。
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TBありがとうございました (関良基)
2005-02-02 12:08:12
 このブログの作成者の関と申します。東京在住ですが、吉野川みんなの会の会員でもあります。

 姫野さんのブログに触発されて作り始めてみたものの、まだ作り方の方針が定まらず、文体も統一されていません。それで誰にも宣伝していなかったのですが、さっそく見つけてトラックバックしていただいて本当に光栄に存じております。

 じつは専攻が林学なもので、民主党の緑のダム構想が出るより以前から「間伐や枝打ちで、ダムに替わる治水対策と、失業対策、そして温暖化対策の一石三鳥を実現させよう」と主張していました。それで、吉野川みんなの会が「緑のダム」の研究を始めたときから参加しています。

 緑のダムに関しては、まだまだ山のように書きたいことがあるので、これからも書いていきます。よろしくお願いいたします。

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