代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ウソの上にウソを積み重ねる国交省官僚たち

2011年02月23日 | 治水と緑のダム
 先週(2月15日)、河野太郎議員がブログに投稿された「くそったれ大臣」という記事が話題になっている。八ッ場ダム建設の根拠となる利根川の基本高水22000トン/秒に関して、河野議員が提出した「第四紀火山岩層の影響に関する質問主意書」に対して、国土交通省は「調査に時間を要するため、お答えするのは困難である」という実質ゼロ回答をしてきたという内容だ。

 政治主導を掲げる政権の大臣だったら当然、「では早急に調査せよ。こんな回答で国民が納得すると思っているのか!」と一喝してしかるべきだろう。しかるに、国交大臣は官僚たちのゼロ回答をそのまま承認して河野議員に返してきたのだという。ちなみに質問主意書に対する答弁は閣議決定の上、内閣総理大臣の責任で提出される。首相もこの答弁を承認したということなのだ。

 河野議員がこれだけ怒っているのだから一体どんな答弁をしてきたのだろうと思っていた。本日確認したらようやく答弁書が衆議院のホームページにアップされていた。リンクさせていただく。

「第四紀火山岩層の影響に関する質問主意書」 平成23年2月2日 提出者 河野太郎
同質問への答弁書

「複数ピーク洪水での流出計算に関する質問主意書」 平成23年2月2日 提出者 河野太郎
同質問への答弁書

「利根川水系の基本高水に関する質問主意書」 平成23年2月2日 提出者 河野太郎
同質問への答弁書

 「お尋ねについては、調査に時間を要するため、お答えすることは困難である」
 本当にゼロ回答である。このような回答になっていないふざけたシロモノを堂々と閣議「決定(=官僚文学を追認するだけ)」して提出できる内閣はすでに機能停止状態にある。もう終わった。国民を無視して暴走を続ける国交省は断末魔の醜悪さだ。

 ここで「いったい第四紀火山岩層の影響とは何のことだ??」と思う方が多いだろう。そこで私なりに解説させていただく。

 国土交通省は利根川上流の飽和雨量(降雨量のうちいったん土壌中に貯えられすぐには河川に流出しないもの)の値が、近年では100mm以上になっていることを実質的に把握しながら、飽和雨量は48mmとウソをついて基本高水を決定してきたという事実は、このブログで繰り返し書いてきたとおり。河野議員は、昨年(2010年)10月12日に国会でこの問題を質問し、馬淵前大臣は徹底的に官僚に事実関係を調べさせ、ついに前大臣は謝罪して利根川の洪水計算の不適切さを認めたのだった。これらの事実は当ブログで書いてきたとおりである。

 私は昨年9月、国交省はウソをついて飽和雨量が48mmと強弁してきたことを明らかにした意見書を東京高裁に提出した。その上で、飽和雨量は100mm以上が適切であり、100mm以上の値で再計算すれば「国交省の想定する200年に一度の洪水の際の治水基準点のピーク流量(=基本高水)は15~25%低くなる」と結論づけている。(東京高裁提出の意見書より

 昨年10月12日の国会答弁で馬淵前大臣も、飽和雨量が実際には48mmではなく平成10年洪水では125mmと認めたことから、河野議員はその答弁を受けた質問主意書で「では飽和雨量を48mmから125mmに上昇させたら基本高水の計算値はどう変化するのだ」と問い詰めた。国交省の答えは、「計算に時間がかかる」とのことだった。そんな計算は一瞬でできるはずなのだが、数か月も回答を先延ばしした。その挙句に出してきた回答は、「飽和雨量を48から125mmに上げても基本高水は3%しか下がらない」という恐るべきウソであった。開いた口がふさがらないとはまさにこのことだった。

 国交省は数か月も回答を先延ばしする間に、悪知恵の限りを尽くしたようである。ここで用いたトリックが「第四紀火山岩層」であった。国交省は利根川上流域を「第四紀火山岩層」と「それ以外」に分け、第四紀火山岩層では「土壌は飽和状態に達しない」という仮定を置いたのだ。よって、第四紀火山岩層で飽和雨量を上昇させても、基本高水は計算上減らないように見せかけることができるというわけである。
 こんないい加減な話があるだろうか。計算の前提を「後出しジャンケン」で変えて出すことができるのなら、いくらでも計算値など恣意的に、都合よく変えられるのだ。国交省は22000を定めた昭和55年の資料が「残っていない」と強弁しているから、この「後だしジャンケンの前提」と昭和55年当時の計算の前提を比較しようもない。ウソがばれるから昔の資料は捨てたのではないのか? 国民を愚弄するのもいい加減にしてくれ。
 
 八ッ場ダム裁判の原告側が情報開示請求によって国交省から得た資料では、利根川上流のパラメータはすべての流域で飽和雨量48mmで統一されていた。第四紀火山岩層では「飽和雨量は無限大」などという但し書きはどこにもついていなかったのだ。初めから第四紀火山岩層の前提で計算していたのなら、なぜ、その資料を出さなかったのだ?

 私どもは、第四紀火山岩層の仮定は知る由もなかった。そして「第四紀火山岩」を想定しない48mmパラメータの前提によって、確かに、森林の荒れていた昭和33年、34年の洪水は再現計算できたのである。つまり、国交省も昭和33年、34年洪水での再現計算では第四紀火山岩層の前提など置いていないはずなのである。こちらで第四紀火山岩層の前提を入れて計算すると、昭和33年、34年洪水は再現できない。国交省はここでもウソをついている。

 今回、国交省は計算の前提を変えて、「第四紀火山岩層は飽和しない」という仮定で計算して「3%しか下がらない」と主張してきた。破廉恥極まりない。
  
 次の疑問が生じる。「いったい国交省はいつの時点で第四紀火山岩層という計算の前提を導入したのか?」。利根川でこの計算の前提を導入しているとしたら、当然他の河川でも第四紀火山岩の影響を考慮して計算せねばならない。そこで「他の河川でも第四紀火山岩の影響を考慮そして計算しているのか否か?」だ。河野議員の質問はまさにこの点を問いただしたののだ。

 国交省の回答は「調査に時間がかかるので答えられない」というものだった。そんなバカなことがあるか!!! 

 国交省は、ダム建設の根拠となる利根川の基本高水22000トン/秒を定めた昭和55年当時の資料が紛失してしまって存在しないと主張する。馬淵大臣の当時、ウソがバレて都合が悪くなったので破棄してしまったというのが真相ではないのか。天はすべてを知っている。ウソの上にウソを積み重ねて逃げ切れると思ったら大間違いだ。

 ちなみに第四紀火山岩層の前提を置いても、なおかつ3%は少なすぎる。国交省が提示した計算の前提を見ても利根川上流の第四紀火山岩層の面積比は全体の30%ほどだからである。他の70%はそれ以外の地質である。

 私たちは、国交省の設定した第四紀火山岩層の前提を受け入れて再計算を実施したが、それでも基本高水は9%減少した。利根川上流がほぼ第四紀火山岩層で覆い尽くされてでもいない限り、3%しか減少しないなんてことは全くあり得ないのである。
 この私たちの再計算結果は東京新聞の1月24日付け朝刊の一面および特報面で詳細に報道された。(この記事

 さらに付言すれば、国交省が利根川の基本高水計算で用いるのは昭和22年のカスリーン台風の降雨量である。このカスリーン台風は二山ピーク洪水である。二山ピーク洪水は貯留関数法では正しく計算できない。実際の自然では、飽和雨量が上昇すれば(=森林の保水力が回復すれば)、ピーク流量は9%以上に減少する。しかし、貯留関数法では9%しか減少しないように見かけ上計算されるだけである。これは貯留関数法の欠陥なのだ。
 河野議員は、河川工学の教科書を引用しながら、複数ピーク洪水(二山ピーク洪水)は、貯留関数法で正しく計算できないという問題も問いただしている。しかし国交省はこの質問に対してもゼロ回答であった。

 国交省だって、もうこの国がダム建設の巨大な負担に、財政的にも環境的にも耐え切れないことはわかるでしょう。納税者とそして子孫たちに巨大なツケを押し付けるのは、もうこの辺でおしまいにしましょう。あなた方は、省益を優先させた挙句、国を破り、そのうえ山河を滅ぼそうとしている。あなた方の真の省益は、国民の未来と結びつく、河川環境の再生と緑のダムの整備にこそあるのではないでしょうか?


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3 コメント

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本当にそうなのでしょうか。 (mirai)
2011-02-24 00:46:41
いつも楽しく拝見しています。
少し気になるところがありはじめて投稿します。
今回、国交省が「第四期火山岩層」を持ち込んだとされていますが、本当に大丈夫でしょうか。
利根川上流の地層が複雑なのは私の知識ではそれなりに有名だと思います。確か、東京高裁提出の意見書で資料3とされているものでも第四期火山岩層に触れられていた気がします。
国交省を弁護する気はさらさらありませんが、ちょっと論理が飛躍していて、気になりました。
返信する
miraiさま (Seki)
2011-02-24 09:17:25
 コメントありがとうございました。

>今回、国交省が「第四期火山岩層」を持ち込んだとされていますが、本当に大丈夫でしょうか。
 
 2000年に国会議員の情報開示請求を通して、旧建設省が開示した資料では、利根川の54分割流域のすべての流域面積が記され、それと並列して、すべての流域で飽和雨量48㎜、一次流失率0.5と表記されています。
 もし、第4紀火山岩層の影響を考慮していたとするのであれば、54流域をそれぞれ第4紀層とそれ以外に分けて表示し、前者は「飽和雨量無限大」、後者は「48mm」と分けて記述すべきです。
 国交省が、これを怠ったということは国会議員にウソの回答をしていたということになります。河野太郎議員が昨年、検証計算の際のパラメータをすべて問いただした際も、飽和雨量の値は、昭和57年洪水で115mm、平成10年洪水で125mmと一律に回答してきました。「ただし第四紀火山岩では飽和雨量は異なる」といった但し書きがどこにもついておりません。これもウソと言えます。

 私は裁判には関わっていませんが、裁判の場でも、「すべての流域で飽和雨量は48mm」という自らの立場を追認していたはずです。第4紀層で48mmでないのなら、そう言わねばならないはずです。裁判の場で偽証していたとすれば事は重大です。
 
 国交省がこれまで公開した資料の中で、「第四紀火山岩層では飽和雨量は無限大」と書かれた資料はどこかにありますでしょうか?
 あるのならあるで良いのですが(私は知りませんでした)、国会議員の質問に対してそう回答してこなかったウソは重大であることに変わりはないと思います。
 
 また、これほど重大な事実であるにも関わらず、「いつから第4紀層ではパラメータが異なるという計算の前提を導入したのか」「他の河川でも導入しているのか」という単純な質問に「回答できない」というのは、あまりにもひどい話しだと思われませんでしょうか? 

 この分野、ご専門のようですので、ぜひ今後ともアドバイスをよろしくお願いいたします。良識ある専門家の方々が声をあげて下さらないことには、この問題、どうにもなりません。私ごときではあまりにも無力です。
返信する
国交省河川局に握りつぶされたパブリックコメント(八ッ場ダムを含む) (拓大の地形・地質屋さん)
2011-02-24 11:08:34
私事でこの場をお借りすることをご容赦ください。
 以下は、私が提出したパブリックコメントです。当初は、そんな物は届いていないと言われ、厳重抗議をしました。それでも調べようとしないので、議員の名前と報道機関に通報することを伝えると慌てて調べると言われました。後日、電話があり、「締め切りに届いていなかった。締め切り後に届いたため、取り扱わない保管箱から見つかった。」と再び偽りを言われました。河川局に葬り去られたものです。

 全国の報道機関の皆様、この問題に関心のある皆様、河川局は、過去に決定した八ッ場ダム計画については政権が変わろうともつくり続ける為なら何でもする組織です。
 馬淵前大臣が基本高水の問題点を整理するよう指示しましたが、これもブログに書かれているとおり風前の灯です。尖閣問題を口実に問責決議を出して辞任に追い込み、国会でダム推進の質問をした党の「古参議員らと既得権益を守ろうとする人たち」のやり方です。

国交省のダム工事事務所が、今月に入って川原湯温泉協会に今まで支払っていた区費が支払えなくなったと通告し、その理由が「政権交代のためだ」と伝えるなど、政権の弱体化を見越して人心を離れさせるための、事務方の嫌がらせとわかる酷い行動も見受けられます。もし、この口述が本当なら、去年はなぜ支払ったのでしょうか?

 大畠大臣の視察も、川原湯温泉街の住民と顔だけでも合わせたい考えや思いを無視して、都合のいい完成工事現場だけを視察をさせてから、また同じ知事らとの会合をセットしたのでしょうか。ダム推進を考えている河川局・既得権益にしがみつく人たちの仕業でしょう。
皆さんが考えている以上に、既得権益の壁は厚く巧妙な手口で妨害が日常的に行われていることを、報道機関の方、ジャーナリストの方々に知っていただきたいものです。

● 国交省河川局が握りつぶし、有識者会議の目にも触れられず、12月の一般公開でも扱われなかったコメントです。ご一読ください。●

【8月14日午前引受、その際に郵便局にて15日ひ必着を再確認してからレターパックにて投函、同日14日午後銀座支店に到着確認済】

●国交省河川局河川計画課によれば、締め切りの8月15日(日曜日)休日の場合、文書課の決まりで、翌16日(月曜日)午前中に届いたものまでは、前の週末に届いた扱いにしているそうです。●


今後の治水のあり方について 中間取りまとめ案に関する意見書
個別ダムの検証のありかたについて(参考資料1~3)
河川の流量問題中心だけの議論では、真の治水・利水対策にはなりえません。
A 個別ダム建設地の地質評価は、過去においても「作ることが大前提で評価されたもの」が中心であったことは、仕事の経験からわかっております。私自身、電力会社や建設会社から受注を受けた系列の地質コンサルタントで調査報告に参加しましたが、建設後の危険性のリスクが高い可能性を示唆するデータがでたことを報告すると、発注者側から作るための報告書への書き直しを命じられ、このまま報告をあげると、今後仕事は回さないという圧力を受けた経験が何度もありました。まず、情報の透明性・客観性・公平性の確保が不十分であったことを改善すべきです。
B 各河川流域で河床の上昇をもたらす土砂供給の観点と評価が欠落していますので、全国のダムの評価では、地域地質(とりわけ気候変動・環境変動に詳しい第四紀地質や地質災害)に詳しい研究者の参加を義務付けてください。
C 国が整備した国土基本図などが災害リスクの公表を含めて、全国の行政でも全く生かされてこなかった事実は重く受け止めるべきです

火山・第四紀の地形地質研究者の立場から実施した「八ッ場ダム」の検証結果から見えてきたもの
D このダムも前記事項に示したとおり、地質条件の評価が180度異なる結果が出ています(別添資料・③および④発表要旨参照)。同時に、建設工事中に出現した問題点の評価を含め工事現場の管理にも多くの問題を抱えていることを速やかに公表することが大切です。
E ダム建設には適さない地盤条件にあること、ダム上流に日本でも有数の活動的火山を2つも持つこと、火山体の大規模崩壊の堆積物の存在が、当初の目的である治水利水に大きく影響するだけ出なく、協力された住民の移転先の安全性確保も不十分であることを含めて、下流域の住民の皆さんへの洪水や土砂災害リスクを高めてしまう可能性があることなどを明らかにすべきではないでしょうか。
F 日本列島の脊梁部には数多くの火山がありますが、今回の浅間火山の事例検証調査でわかったことは、火山の大規模崩壊が流域に大きな影響を与えている事実と、このような堆積物が分布する領域では、ダムを作ることが逆に洪水や土砂災害リスクを高めてしまう可能性が高いという視点で、個別のダムについて評価していただきたい。
洪水対策=ダム建設が主軸とする考え方は、自然はコントロールできるというスタンスにほかなりません。洪水が起きることを前提として、これを軽減する立場で議論と政策の立案を進めてください。地震に対する免震と同じです。評価においてダムに重点を置きすぎないことが大前提です。流域全体で応分の負担をすることです。具体例は、参考資料に出ていたものをフル活用することですが地道で長期的ですが森林整備のウェートを高くすることが雇用とコストの面で重要と思います。

八斗島の基本水位に関するものとして、河床上昇をもたらす土砂供給源と時代の変遷を表した図(① p361、②p508)と編年表(① p357、②p513)などをまとめた自著の論文を参考に添付しておきます。詳細については、別の機会が設けられればお答えいたします。

文献・資料類は省略
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