代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

文科系の学生に自然科学を教えるという挑戦

2007年07月19日 | 教育
 近況報告です(何故最近あまりブログの更新ができないかの言い分け)。大学で教え始めて3ヶ月半。ようやく前期の授業が終了しました。今まで非常勤講師しかやったことがなかったので、いきなり週6コマの授業をもつのは結構キツかった・・・。気づいてみたら天下分け目の参院選。最近、時事問題について何も書けずに申し訳ございませんでした。公示日を過ぎたので選挙については何も書けませんね。皆さん、とにかく投票に行きましょう。
  
 さて、私は環境系の科目を担当しています。環境問題というのは周知のように、自然科学の知識から社会科学の知識まで総動員せねば対処不可能な学際的な研究分野です。
 私は、専門科目では環境政策論という社会科学系の科目を担当しているのですが、教養科目では自然科学の科目も担当するという「二足のわらじ」に挑戦しています。私は理系学部出身で、大学院になってから社会科学系の研究に転じたという経緯があり、両方担当しているわけです。

 というわけで教養課程では、文科系の学生に対し、環境問題に関連した自然科学の素養を身につけさせることに挑戦しています。環境問題のメカニズムを理解するために必要な、生態学や物理学、化学、さらに地学分野の知識を身につけようというわけです。半年やってみて、文科系の学生に自然科学を教えることは結構大変であると痛感しています。

 前期は生態学の初歩の講義をしました。その中で、生物群集は環境のキャパシティーの範囲内でしか個体数を増加させることができないこと(人間も同じ)、環境キャパシティーそのものを壊して無理に成長しようとすると個体数(=人口)はいずれ激減せざるを得ないこと(ローマ・クラブの『成長の限界』の中の悲観シナリオ)なども教えました。
 さて、以上のような生態学の個体群動学の理論を教えようとすると、若干の微分・積分の知識が必要になります。しかし、文科系の学生にどうやったら教えられるのだろう、と相当に苦しみました。
 試みに積分記号を使ってみたら、「何それ? 初めて見た」という学生が結構いました。そうか最近は、微分・積分は文科系の学生には必修じゃないんだと知ったわけです。
 とりあえず微分記号を使って解説してみました(一応分かりやすく説明したつもり)。授業が終わったら、学生から「先生、今日の授業は最初から最後まで何を言っているのかサッパリ分かりませんでした」と言われてしまったのです。ちなみにその彼は、数学を使わないふだんの授業はすごく熱心に聴いている優秀な学生です。

 ああ、大反省・・・・。

 これからしばらく、文科系の学生にいかに自然科学に馴染んでもらうか、楽しい、面白いものだと感じてもらえるか、試行錯誤の挑戦が続きそうです。
 
  

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7 コメント

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面白い授業 (Cru)
2007-07-21 12:25:52
学生の学力低下が話題になって結構経ちますが、
文科系だからといって微積分程度を省略しちゃう指導要領のありかたにもずいぶん問題がありそうですね。

私見ですが、高校までの授業って、何に役立つものを教えてるのかというモチベーションの観点が抜け落ちてる気がします。それ自体が面白がれる「特殊」な生徒なら良いですが(笑)。

みんなの大好きなビデオゲームの描画プログラミングにだって、幾何はもちろん、空間操作のための線形代数や、物理シミュレーション(微積は差分近似ですが)が必須です。
日々の生活でも、仮説検定が判らなければTV番組で紹介される納豆の健康への寄与度の情報の信頼性が判断できないし(笑)、牛肉の大腸がん発ガンリスクと週末のドライブの交通事故リスクが比較できない(そんなもんを比較するほうがどうかしてるというのは措いておいて)

将来の職業を特定しない高校の「普通」科の授業に具体的モチベーションの導入は難しそうですが…。

※本当は、人間誰しも、新しいことが本当に理解できるというそのこと自体が喜びになるように出来てるんだと思いますが。そもそもそういう期待が授業に持てないと授業に前向きに取り組めず、前向きに取り組めないと本来の理解力が発揮されず、従って、せいぜいあやふやな理解にとどまり、従って授業に前向きに取り組めない…

それはともあれ、
数学知識の無い文科系学生にも自然科学的思考の面白さと大切さが伝えられれば最高ですね。
ブログの更新が少ないと少しさびしいですが、がんばってください。
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cruさま ()
2007-07-22 11:42:31
>文科系だからといって微積分程度を省略しちゃう指
>導要領のありかたにもずいぶん問題がありそうですね。

 ホントですね。
 だいたい微積の教科書そのものが、生徒にとって徹底的につまらなくなるように、つまらなくなるように教えていますから・・・・。あれじゃ、微積分が実社会にどのように役に立つのかサッパリ分かりません。活きた知識になりません。何とかして欲しいです。
 微積分はそもそもニュートンが力学を構築するために考案したものなのですから、力学と絡めて教えなければその必要性を理解できないと思います。

>私見ですが、高校までの授業って、何に役立つもの
>を教えてるのかというモチベーションの観点が抜け
>落ちてる気がします。それ自体が面白がれる「特
>殊」な生徒なら良いですが(笑)。

 これも本当にその通りだと思います。
 多分、私の場合は「特殊」な生徒でした。普通科の高校の授業はサッパリ興味を持てず、あまりにもアホらしいので受験勉強そのものを放棄していました。でも、天文少年だったので、惑星の運動を理解するために図書館の本を借りてきて独学で微積分を勉強したのです。だから活きた知識になりました(笑)。

>※本当は、人間誰しも、新しいことが本当に理解で
>きるというそのこと自体が喜びになるように出来てるんだと思いますが。

 その意味で、普通科の受験教育は最悪だと思います。受験問題を解くこと自体が面白いなんていう受験エリートは、社会にろくに役に立たないと思います。霞ヶ関官僚の劣化がそれを物語っています。宇沢弘文先生は、共通一次試験(センター試験)の導入が日本をダメにした、とおっしゃっていますが、全くその通りだと思います。

 商業高校や工業高校の教程は、その知識が実社会でどのように役に立つのかということと結びついていますので、すごく興味を持てます。僕は高校のとき、受験教育がつくづくイヤになっていましたが、工業高校の友達の教科書を見て、「これが本当の学問だ」と思ったものでした。
   
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Unknown (Cru)
2007-07-22 22:35:17
「これが本当の学問だ」>
何度か電子工学系の新卒に接する機会があって、「使える」新人は高専出身の子が多いなあという印象を持ってます。

徹底的につまらなくなるように、つまらなくなるように>
いやほんとうに、そう思います。
高校数学については、私が3年間受け続けた担任教師との相性が悪くて挫折した経験があるんで、ちょっと恨み節交じりw (理数科だったので担任が3年間持ち上がりで、かつ担任が数学担当だった。クラス担任としては良い先生でしたが)
なぜ(私の脳みそで無く)相性が悪かったと思ったかというと、3年生のときの受験数学(w)担当教師の授業は(私にとっては)理路整然としていて非常に判りやすかったので。
私の場合は、活きた知識としての数学知識が得られたのは、やっと就職してからですねえ。うらやましいです。
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コメントさせていただきました。 (本多俊貴)
2007-07-23 17:26:40
自然科学の側面からの勉強は私も興味のあるので、後期にもし授業時間の調整がついたら聴講させてください。

微分積分を「何それ?」というのは、必修科目未履修問題の被害者でもない限り勉強不足だと思います。
今でも、多くの高校が2年生までは数学を履修させていますし、少なくとも1年生の間は専門には分かれていないはずです。

最も、私も微分積分は全く記憶していませんが…(笑)
というより、理系自体が忘れ去られた学問になっているような…。

私の場合は完全な不真面目高校生だったためです!
睡眠学習の効果が得られず、テストで微分積分に泣かされた覚えがあります(笑)
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cruさま ()
2007-07-24 07:07:09
>何度か電子工学系の新卒に接する機会があって、
>「使える」新人は高専出身の子が多いなあという印象を持ってます。

 うーん、やっぱりそうですか。モノづくり立国を目指さねばならない日本なのに、普通高校があれだけつまらない、役に立たない「受験教育」に血道をあげ、結果として「使えない」社会人を大量生産しているというのは、由々しき事態ですね。何とかせねば・・・。

 世間で言われているところの「エリート大学」なんて、ろくに能力もないのに、他に自慢できることがないのか何なのか、高校時代の偏差値がどうだったとか、そんなことを鼻にかけて自慢するイヤミな人間が多くて辟易します。くだらない受験教育を何の疑問も思わず、忠実にこなせた受験「エリート」なんて、概して社会に出てもクリエイティビティは発揮できないのだと思います。

 こういう何か勘違いした連中が官僚になって、偏差値が高かったことを終生鼻にかけながら、庶民をバカにして威張り散らしているのですから、日本は救われないわけですよね。
 私もこのブログに「教育」のカテゴリーを作りたいと思います。
 「新しい理数系教科書を作る会」でも立ち上げましょうか(笑)。

 だいたい教科書検定なんて、文科省自体だって、社会科教科書以外にはあまりやる必要を感じていないのでしょう。だったら、社会科以外の教科から先に検定制度を廃止するというのはどうでしょう。

 だいたい、あのつまらない高校の数学教育が日本のガンです。自然科学と結びつけて数学を活きた知識として教える必要があります。それが何の役に立つのか分からないのに、「公式覚えろ」と言われても、「何だそりゃ」という感じですよね。

PS それからcruさんの言った「特殊な」という意味を間違えていました。つまらないものを、先生に言われるがまま忠実にこなせる受験エリートを「特殊」といったのですね。
 私は、面白くなければやる気がしなかったので「普通」の学生でした。
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本多くん ()
2007-07-24 07:19:45
>自然科学の側面からの勉強は私も興味のあるので、
>後期にもし授業時間の調整がついたら聴講させてください。

 もちろんどうぞ。

>微分積分を「何それ?」というのは、必修科目未履
>修問題の被害者でもない限り勉強不足だと思います。

 何でも「数学2」という教科(私たちの時代にはなかった教科)で、はじめて微積が出るそうですが、高校によっては文系の学生に「数学2」を必修にさせていないのだとか・・・。
 
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そうなんですか…。 (本多俊貴)
2007-07-25 16:38:50
それは初耳でした。
確かに、2年間かけて数1・Aを教える学校もあると聞いたことがあります。

後期になると更に厳しくなりそうですね。。。

「分野外の科目は、事例資料や図表、漫画をメインに使うのが効果的」と私の両親は話していました。

大学生に効果があるのかは分かりませんが…。

暇を作って参加させていただきます!
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