代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ダム治水からの脱却を

2018年07月15日 | 治水と緑のダム

 地球温暖化によって海洋から水蒸気の蒸発量が増大し、雨雲の発達を促し、今回の西日本豪雨のような規模の豪雨は今後も頻発するとしか思えない。根本的な解決策は、温暖化対策を加速させ、一刻も早く化石燃料依存から脱却し、大気中のCO2濃度を安定化させることしかないだろう。
 しかしながら、今世紀後半で温室効果ガスの純排出量をゼロにするというパリ協定の目標が達成されたとしても、今後の半世紀を要する大事業であり、その間、CO2濃度は増加し続ける。今世紀中は、集中豪雨がさらに強度を増しつつ、頻繁に襲ってくるという事態を覚悟しながら生きていくしかないだろう。

 その上で、たとえ今回のような豪雨になっても死者が出ないよう、減災の努力をしなければならない。治水に関する従来の施策を抜本的に改める必要がある。まず、ダムで洪水を抑制しようという試みは限界であり、ダム依存から脱却する必要があるということだ。

ダム治水の限界

 一昨日の7月13日の東京新聞の特報面がそのことを明快に伝えていたので紹介したい。「西日本豪雨に見るダムの限界」「想定外雨量で満水『お手上げ状態』」「治水にはマイナスに?」という以下の記事。
 

『東京新聞』2018年7月13日朝刊 特報面記事 

 西日本豪雨でも、真備町上流の高梁川の河本ダムが満水となって緊急放流。1965年にダムが完成して以降初のことだという。7日の半日間、ダムは貯水能力を失って緊急放流を続けたため、高梁川から支流の小田川にバックウォーター現象が発生し、小田川の堤防が決壊した。
 愛媛県の肱川上流の野村ダムや鹿野川ダムも緊急放流を実施し、肱川が氾濫、5人の死者が出た。野村ダムでは緊急放流により、一気に7倍の水量を放流したという。放水によって突然に7倍の水量が襲えば、かえって被害を拡大してしまうことにもつながる。一気に7倍を放流されるくらいなら、ダムなどなく自然変動による増水に任せていたほうが、まだマシといえるだろう。 

 東京新聞の記事では、嶋津暉之氏が「(ダム放流は)鉄砲水を人為的につくるのと同じ。むしろダムがあることが大きなマイナスになる」と語る。
 また河川工学者の今本博健先生(京大名誉教授)は緊急放流するくらいなら、何も操作せず、ダム湖から自然に越水するに任せたほうがよいとし、「仮に越水しても、異常時の放水よりも緩やかな流量になるはずだ」と語る。
 同じく河川工学者の大熊孝先生(新潟大名誉教授)は、「河川があふれても堤防を決壊させず、床上浸水を防ぐことが大事。堤防の土に5%程度のセメントを混ぜることで強度を増す工法を積極的に進めていくべき」と語る。
  
 溢れても破堤しないという「耐越水堤防」を造ることは、大熊先生も言うように、技術的に可能であり、そのためのオプションはいくつもある。(ソイルセメントを混ぜる工法もその一つ)
 しかし、水害はあくまでダムで防ぐべきという「哲学」を堅持し、堤防強化技術の導入をサボタージュしてきたのは他でもない、国交省である。

なぜ耐越水堤防を造らないのか?

 この事情、以前、このブログの以下の記事で、元国交省官僚の宮本博司さんの証言として紹介したことがあった。その主な論点を再掲する。
 https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/703e411542c706d70e7f05b82ed9e38d

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*堤防は、計画高水流量というラインの流量を超えると簡単に破堤するように造られている。

*越流しても簡単には破堤しない堤防を造ることは技術的に可能である。(堤体全体を遮水シートで被うアーマーレビー工法、鋼矢板を堤体地下の非液状化層まで打ち込んで堤防を強化する工法・・・など)

*国交省は、計画高水流量までは遮水、ブロックを貼るなどして破堤しないように工事しているが、計画高水を超えると簡単に破堤するような構造のまま放置しておく。

*なぜか。ダムの費用対効果を高く見せるためだ。
 ダムは想定される洪水流量(=基本高水流量)を計画高水流量以下に下げるためにつくる。ダムで下がる水位はたかだか十数センチ程度。しかし、その十数センチによって想定洪水を計画高水以下に下げるという計算をする。
 それによって、ダムがなければ全面破堤で膨大な被害が生じ、ダムがあれば無破堤で被害額はゼロという計算をすることができ、ダムの費用対効果を高く見せることが可能になる。

*このようなダム建設の理屈は、国民に向けてつくったのではない。公共事業に費用対効果の計算を求められ、大蔵省を説得するためにつくった理屈である。

*淀川水系では越流しても破堤しない耐越水堤防の整備を最優先に掲げたが、潰されてしまった。

*国交省は平成10年度の重点施策として耐越水堤防を掲げたが、ダムの必要性を担保するためにこれをやめた。耐越水堤防によって川辺川ダムが不要となるという調査結果が出たため、ダム建設の口実ために耐越水堤防の整備を止めた。

**********

 結論として、国交省はこれを契機に考えを改めるべきである。今からでも遅くはない。雨がダムの治水容量の収まるというこれまでの想定を超える豪雨が頻発すれば、片端から堤防など破堤していく。ダムに予算を投じるのではなく、それを、越水しても簡単には破堤しない堤防(耐越水堤防)に改修する予算に転用すべきなのだ。
 越水することを前提に治水計画を立てる。越水させるとしても、水田地帯などで堤防をわざと低くするなどして、被害の少ないところで意図的に溢れさせるよう計画する。
 これはじつは武田信玄や加藤清正が治水で実施した霞堤の知恵である。温暖化時代の洪水対策として、我々は武田信玄や加藤清正の400年前の知恵を復活させねばならない。

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1 コメント

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Unknown (被本塁打大王)
2018-08-24 20:19:58
やはり、田中康夫氏の「脱ダム宣言」は正しかった。

田中氏が今も長野県の知事であったなら…orz

なお、田中氏は今も「巨大ダム反対、ダムに頼らない治水を!」と主張しております。
http://tanakayasuo.me/forest

なお、水源連もブログ主や田中氏に近い主張をしております。
http://suigenren.jp/

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