代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

4年半ぶりの利根川・江戸川有識者会議の開催について

2012年09月25日 | 利根川・江戸川有識者会議
 昨年12月、藤村官房長官は八ッ場ダム建設の条件として「河川整備計画の策定」とダムが中止になった場合の計画地域の住民の「生活再建支援法の立法化」を条件に掲げた。
 国交省は相当に急いで河川整備計画を策定しようとしている。どうしたことか、私のところに利根川・江戸川有識者会議の委員になって欲しいと国交省から依頼があり、委員を務めることになった。経済産業省の原子力ムラの内部でのインサイダーによる意志決定のあり方に批判が高まる中、同様に「河川ムラ」と批判されてきた国交省としても「八ッ場ダム見直し派」とされる人々を入れざるを得なくなったようなのだ。しかし委員は事務局権限で、すべて国交省が選定する。
 
 本日(9月25日)はその第一回会議であった。
 
 国交省は、あらかじめ座長も宮村忠委員と決めていたが、大熊孝委員から、「座長も委員の互選で新たに選出すべきだ」という動議が入り、大熊候補と宮村候補のあいだで選挙(ただし挙手)になった。結果は大熊委員3票、宮村委員4票で、「ダム見直し派」の大熊委員ではなく、「ダム推進派」と見られている宮村委員が座長に就任した。21人中7人の委員は欠席で、7人の委員はどちらの候補にも手をあげなかった。もしかしたら、無記名の投票方式だったら結果は変わっていたのでは? とすら思われる。無記名投票を主張すべきだったのかも知れないが、慣れない場だったので固まってしまっていた。本当に悔やまれる。

 あらかじめ多数決になれば見直し派が敗北するように委員が選ばれているのだから、この結果は当然である。シナリオはすべて国交省の中で組まれており、国交省の結論は揺るがないようになっているのだ。いったい何のための有識者会議なのだろう? 根本的な疑問がわく。それにしても一票差とはじつに惜しいことで、国交省としても一瞬、「まさか?」と肝を冷やしたかも知れない。いや一票差もシナリオのうちか・・・・。一瞬、お釈迦様の手のひらの中で踊らされている孫悟空を連想してしまった。いやいや、お釈迦様、失礼しました。罰当たりなことだ。

事前に検討する時間を与えない国交省

 会議では、国交省がこの間に行ったパブコメとそれに対する回答が配られ、その場で検討しろという。他の委員には事前に資料が送られてきていたというが、月曜の午前中の段階では私のところには届いていなかった。聞いてみると何と、資料を送ったのが会議2日前の日曜日だという。
 大熊孝委員の手元にも届いていなかったというが、新潟在住の大熊委員は会議前日の月曜日に東京に移動していたので、月曜日にご自宅に届いていたとしても、そもそも見れるわけがないのだった。 
 私は、会議の6日前の9月18日の段階で「事前に資料の配布はないのでしょうか? なるべく早く送って下さるようお願いいたします」と関東地整に伝えていたが、それに対する返信はなく、資料は本日配られたのだ。
 事前に資料を検討する時間的余裕を与えないのも国交省の作戦のうちだと思うが、それにしても、ちょっと露骨すぎやしないだろうか?
 
 次回の会議は間をおかず、10月4日に開きたいらしい。次回の日程がいつか、私は知らされていないのだが、岡本雅美委員には次回の日程が10月4日と伝えられていたという。私には、次回がいつなのかまだ知らされていないので、日程が組めなくて困っている。 

 国交省がこの間行った「目標流量を1万7000立法メートル/秒」と定めることに関するパブコメの結果は本日配られた。ちなみに目標流量は1万6000であれば現在の河道でも流下可能であるが、1万7000だと八ッ場ダムが必要という結論になる。
 
パブコメの大多数は国交省案に否定的

 全部で93通のパブコメが寄せられていたが、ダムという結論を導くために1万7000と設定する国交省の作為に対して、ほとんどのパブコメが否定的な回答をしていた。私がいま見た範囲では、85通は国交省の判断に対して否定的な意見であった。こりゃ、国交省としては、事前に見せたくないわけですね。やれやれ。
 パブコメの中では計算モデルの誤りや、確率論的な誤りを指摘したうえで「過大」という意見もあり、「そもそも安全のために何が必要かを問わず、ただ目標流量の数字のみに対してパブコメを行うというやり方に賛同できない」など国交省の手法そのものに対する反対意見が多かった。

 国交省はそれらを「確かに聞きました」と聞きおいて、でも河川管理者としては1万7000が妥当と考えますという、従来通りの対応だった。

 これだけ否定的な意見が寄せられて、全くそれらの意見が反映されないのなら何のためのパブコメなのだろう?  
 私としては、「目標流量ありき(=ダム計画ありき)で河川整備計画を立てようとする国の姿勢にこれだけ多くの批判が寄せられているのだから、それを聞き置くだけで無視しないでいただきたい。過大な目標流量を定めることが、本当に流域の安全性を高めることにつながるのか、まずそこから議論していただきたい」という趣旨の最低限の要望はしてきた。他にも財政のこと、森林のこと、地質のこといろいろと言ったが、また別途書きたい。

 鷲谷いづみ委員は「安全とは多義的なものであり、各分野の英知を集めて安全性を求めるものではないか。治水安全度という数字だけを追求するのであれば、河川工学の専門家だけいればいい話で、生態学が専門の私などいる必要はないではないか」と、「数字ありき」の議論の進め方そのものに根本的な疑問を投げかけていた。

 次回の会議は、「目標流量ありき(=ダム計画ありき)」の河川整備計画のあり方そのものから議論に入ることを切望する。

 
 


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2 コメント

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有識者会議のやり取りを読んで (yamayosito)
2012-09-28 12:43:04

第5回利根川・江戸川有識者会議について漏れ聞くところ(議事録は未公開)、今までのような形式的な審議でなくかなり緊迫したやり取りがあったようです。誠に結構なことで、先生が委員に就任された意義もあったと言うことでしょう。
さて流量確率1/70~1/80の目標流量17000m3/sが過大であることについて、具体的な意見が提出されていなかったようです。先生は総合確率法に理論的な問題がある、その前提の貯留関数法の流出解析をもっと精度よく実施したらピーク流量群の数値は低下する、そもそも貯留関数法の基本式は物理的な意味がない等の主張をされたようです。
同会議で配布された目標流量に関するパブリックコメントとそれに対する河川管理者の回答も参考にして、私が思うことを以下に述べます。
有識者会議で更に議論を深めれば(議論をしなくとも目標流量決定の間違いを正していけば)、利根川の治水安全度1/200の基本高水流量22000m3/sの根拠はなくなり、治水安全度に見合う適切な基本高水流量を決定したら、河川整備計画でダムと代替案の比較検討の前提が変わり、更に治水目的のダムは不要である結論が得られるはずです。

1. 流量確率1/70~1/80の目標流量17000m3/sに限定した議論は不適切である
この意見は河川工学に無縁の学者から出されたものです。確かにその言い分は一理あるのですが、河川整備計画を立案するには目標流量の設定は不可欠なのです。治水対策についてダムによるか堤防強化などの代替案を取るかに関しても、目標流量が決まっていなければその後の検討はできません。目標流量の前提は治水安全度に見合う基本高水流量であることは言うまでもなりません。過去においてダム建設の目的で過大な基本高水流量が決定された経緯は確かにありますが、それで基本高水流量無用論や不信論が出るのは本末転倒だと思います。適切な基本高水流量が決定できたら、代替案がダム建設より優位な選択肢になることや、更にはダムが不要であることもあることを理解すべきです。
したがって治水安全度に見合う適切な基本高水流量の決定は極めて重大な問題であることを理解し、基本高水流量の議論をタブー化することは反省すべきです。

2. 適切な基本高水流量の決定
適切な基本高水流量の決定に関東地方整備局が採用したのが総合確率法です。総合確率法は、計画雨量で発生する沢山のピーク流量群から治水安全度に見合う適切な基本高水流量を決定する方法で、貯留関数法のような流出解析法ではありません。流出解析法であると誤解されることがあります。
したがって前提としての貯留関数法のような流出解析は必要です。いままで過大な基本高水流量が決定された原因として、貯留関数法の信頼性を問題視しすぎた傾向があります。その際たるものは貯留量と流出量の関係式が間違いであるとの主張です。S=KQ^Pの式で左右の値の次元が異なっているので物理的な意味がないとの言い分です。ところが定数のKとPは無次元ではなく、Kの次元は[L]^3でPの次元は[T]で、結果的に左右の次元は同じになります。式の対数表示をすれば明らかです。図でLogKは切片、LogPは勾配になります。
また貯留関数法は雨量と実測流量の関係から得られた飽和雨量をはじめとするパラメータを使って雨量と計算流量の関係を議論する(たとえば感度分析)には適していますが、雨量から流量を推定する際には平均的な飽和雨量を採用しても計算流量の精度はよくないのです。これは貯留関数法に限らずその他の流量計算法でも同じ傾向を示し、分布定数系モデルで一つのパラメータセットで雨量から計算された流量が精度よく求められたとの学術報告も見られますが、一般的ではありません。現在のところ雨量から流量を推定する際に精度よく利用できる流出解析の方法はないと思うのが現実的です。
したがってカスリーン台風のピーク流量の計算流量を求めることについては、単一の洪水が対象なので精度よい結果が得られる保証はありません。勿論実測流量が得られているとしても信頼性に問題があるので、カスリーン台風のピーク流量について真実に近い値が得られる背景はありません。そもそも治水安全度1/200の基本高水流量を求めるのであって、過去の検討においてカスリーン台風の降雨は318mm/3日で当時の計画雨量319mm/3日にほぼ同じであったが、見直し作業では308.6mm/3日で計画雨量336mm/3日より大幅に低下しています。せいぜい過去最大のピーク流量と位置づけられるだけです。
つまりカスリーン台風のピーク流量を議論しても結果的には重要な結論がでてきません。せいぜい現行の貯留関数法の飽和雨量を含めたパラメータの見直しが必要であるとの主張を裏付ける程度でしょう。その場合重要な割り切りは現行のピーク流量群の値は上限値であるとの受け取りです。上限値を採用してもダムは不要であるとの結論が得られたら、それで十分な結果だと考えます。
適切な基本高水流量を決定するのは、総合確率法を正しく適用することです。関東地方整備局は利根川においては、任意の流量における雨量群の年超過確率の平均値をその流量の年超過確率であるとしています。数式表現をすると、P(Qp)= ΣP(Ri)/nで定義しています。その定義によれば雨量の年超過確率は流量の年超過確率に等しいことになり、全域でそのような関係を想定しているので、雨量確率と流量確率は1:1に対応する仮定を採用していることになります。そのような仮定をおくと同じ雨量から計算された流量は、本来の雨量と流量の回帰式から計算あれた流量より大きくなります。
私がパブリックコメントでそのような意見を提出したとこころ、河川管理者は日本学術会議分科会の総合確率法の説明を引用してごまかしをしました。分科会の説明は利根川で採用された総合確率法ではなく、相模川で採用された総合確率法についての説明でした。しかも降雨波形の生起確率なる測定もできない、数値表現もできない値を利用して計算するとする分科会の間違いをそのまま引用しています。分科会の説明による方法でも雨量確率と流量確率1:1で対応する仮定をおいているのです。したがって分科会の方法にしたがっても基本高水流量は過大になります。
K委員は分科会の回答にしたがって計算したのでそのまま受け取るべきと発言したようです。あの回答を読み通して間違いに気がつく一般市民がいるとは思われません。河川工学専門の学者でも総合確率法を正しく認識しているとは思われません。
総合確率法を採用してなぜ過大な基本高水流量が得られてしまうのか理由は明白です。それは一定流量おける雨量群を対象に計算を実施しているからで、一定雨量におけるピーク流量を対象に計算を実施すればよいのです。
具体的には計画雨量336mm/3日まで引き伸ばした対象降雨からのピーク流量群の平均値を基本高水流量に決定し、その治水安全度は雨量確率と同じ1/200とすればよいのです。難しい計算をするなら任意の雨量におけるピーク流量群の超過確率を求め、その雨量確率と超過確率をかけた値(同時確率)を雨量に関して積分して流量確率を求めたらよいのです。
私が関東地方整備局により総合確率法で採用された62洪水の雨量と計算流量の散布図から読み取った雨量336mm/3日のピーク流量群の中央値(ピーク流量のスケールアウトがあり平均値は計算不能)は19000m3/s程度でした。以前に八ツ場ダムの洪水調節量の推定を31洪水で実施した結果では、計画雨量319mm/3日まで引き伸ばした対象降雨からのピーク流量群の平均値は18000m3/s程度でした。計画雨量での調整をすると、18000 x (336/319) = 18960m3/sになり整合性は十分です。

3. 治水安全度1/200の基本高水流量が19000m3/程度であれば
治水安全度1/200の基本高水流量が19000m3/s程度であるとしたら、ダムは不要の結論がでます。最近の既設ダムの洪水調節量の平均値はピーク流量17000m3/sで3000m3/s程度とされています(塩川議員 質問主意書 答弁112号)。八斗島の流下能力が16500m3/sになっているので、16500+3000>19000m3/sで八斗島下流に関してダムは不要になります。問題の八斗島上流の流下能力との関係は今後の検討問題になるかも知れません。
一方流量確率1/70~1/80の目標流量は14500m3/s程度になります。17000m3/sに比較すると大幅な低下で、ダムと代替案の検討の見直しが必要でしょう。

4. 今後の検討方向
カスリーン台風のピーク流量を対象にする貯留関数法の飽和雨量やfsaの見直しはとりあえず横において、総合確率法の問題点を追求し正しく適用したら治水安全度に見合う適切な基本高水流量が決定できることに理解を示すべきです。
貯留関数法のファインチューニングはいずれ必要だとしても、当面は現在計算されたピーク流量群は上限値であると割り切って、それでもダムは不要であるとの結論に達する途を選ぶべきと思います。
蔵治先生の報告は、狭い範囲(14ヘクタール 380m x 380m程度)の東大愛知演習林の結論と受け取られるでしょう。もっと沢山の事例が現れることを期待します。

以上
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訂正 (yamayosito)
2012-09-29 12:42:20

「有識者会議のやり取りを読んで」の「2.適切な基本高水流量の決定」11行目のLogPはPの間違いにつき、訂正させていただきます。
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