久しぶりに勝目梓の小説を読んだ。
「あしあと」(文藝春秋 刊)には、次の10の短編が収められている。
「万年筆」「記憶」「ひとつだけ」「人形の恋」「秘儀」「橋」「一夜」「影」「封印」「あしあと」
「万年筆」
大手の倉庫会社に勤めながら小説も書いている兼業作家の話。
男は小説のアイディアはまったく浮かばなかった。
妻の頭の中に浮かぶ恐ろしい夢の断片のようなものを、ホラー趣向の短編小説のネタにしている。
これまで妻の奇異な力に助けられながら五編の短編を書いてきた。
あとひとつ作品ができたら単行本にすると出版社からいわれる。
しかし、妻に“夢の断片”がなかなか浮かばなかった。
「記憶」
終バスの時刻は過ぎてタクシーを待っている男が、
何人かうしろに並んでいる女が新橋の同じビルで働いていることに気づく。
男はそのビルで歯科医院を開業している。
女は、5階の法律事務所で事務の仕事をしていた。
話はしたことはないが、顔だけはお互いすっかり馴染んだ間柄になったいた。
家のある方向が同じなので一緒のタクシーに乗る。
ふたりが男と女の関係になるのに時間はかからなかった。
「ひとつだけ」
梅子は92歳になっている。
養護老人ホームで暮らし昔を振り返る。
梅子は19で見合いをして邦夫の嫁になった。
2番めの子が生まれたひと月後に邦夫に赤紙が来た。
邦夫の戦死の公報が届いたのは、昭和19年9月11日だった。
小さな骨箱の中には、遺骨の代わりの南の島の砂と小石が入っていただけだった。
二十歳になったばかりの義弟の清二に赤紙が来た。
出征の前日の夜中に清二が夜這いをかけてきた。
戦争が終わって復員してきた清二が、梅子と結婚したいという。
舅と姑は賛成した。
それから2年近くが過ぎた9月11日に、邦夫がなんの前触れもなしに復員してきた。
梅子は、清二と夫婦になって子どもまで産んでしまったことを、身を揉む思いで悔やんだ。
夜はささやかなご馳走で、邦夫の無事の帰りをみんなで祝った
子どもたちが2階に寝に行くのを待って、舅が清二と梅子のことを邦夫に話した。
そのあと邦夫と清二が、海に向かって堤防に並んで坐っているのが見えた。
その夜、暗い部屋の梅子の寝床に入ってきたのは、清二ではなく邦夫だとすぐにわかった。
<私はこの小説が一番よかった>
「人形の恋」
創作人形作家の女性と、そのひとの仕事も生活もささえた女性の話。
「秘儀」
27年前の真夏の午後、長野の田舎町の伯母の家で中学生の久美子は従兄弟の靖夫に犯された。
大学を出た靖夫は家業を継いで、いまは酒造会社の社長に納まり、
妻子を得て一家の主となり、市会議員も務めていた。
久美子は3人の男に恋をしたがうまくいかずに41歳になっても独り身でいた。
15歳の夏のあの厭わしい記憶が、どうしても越えられない障壁になっている。
彼女は42歳のときに、靖夫の断罪を胸に誓った。
「橋」
会社が年末年始の休みに入って2日目に成瀬伸行は、郵便物を受け取った。
伸行と母親を棄てて行った父親の最後を見とった永井順子の実の妹からだった。
高校生のときに伸行は、順子と1週間毎日会い、別れる最後の日にセックスをした。
その順子が、伸行の父親と暮らし、死ぬまでの13年間いっしょに暮らしたという。
「一夜」
6年前に不倫関係にあった画家と死に別れた数学教師の節子と、
6年前に膵臓癌で妻を亡くした須藤が、友人のはからいで付き合うことになった。
ある日、2人は群馬のほうへドライブに行く。
節子の母の実家の永泉寺にお墓参りによる。
そのお寺は、節子の伯母が住職をしていた。
須藤は32年前に、東京から草津までサイクリングをしたことを思い出す。
その日は朝から空模様が怪しかった。
午後になってから雨になり、小雨から本降りになった。
あるお寺で雨宿りをしていたら、尼僧から泊まっていくようにいわれる。
その夜、・・・。
全部のあらすじを書こうと思いましたが「影」「封印」「あしあと」はやめます。
あらすじを書くことは難しいです。疲れました。
私は、勝目梓の小説が好きです。