先週の7月6日(土)のラジオ文芸館(NHK第一 8:05~8:45)は、
角田光代の小説「誕生日休暇」(「だれかのいとしいひと」文春文庫所収)だった。
この日私は、出勤のために9時に家を出なければならなかった。
午後出勤のときはのんびり聴けるのだが、そんなわけで忙しかった。
朝食の用意をして食べながらラジオを聴いていた。
それでも朗読がしっかり頭に入ってきた。
何もしないで寝て聴いていても、まったくストーリーが理解出来ないものもあります。
私の理解力がなさ過ぎるのかも知れません。
そういう日のラジオ文芸館のことは九想話に書いていません。
「誕生日休暇」はよかった。
角田光代という作家の小説は、読んだものは全部好きです。
(これからは「誕生日休暇」の粗筋を書きます。小説を読むつもりの方は読まないで下さい)
主人公の「私」が勤める会社には、「誕生日休暇」がある。
休みをとる気がなかった主人公だったが、
連続6日間の休みをひとりでハワイ島の小さな町で過ごすことになってしまう。
その小さな町のホテルのバーのカウンターで1人で飲んでいると、
「ここに坐っていいですか?」と、ある日本人の男性が話しかけてきた。
男は隣に坐り、「明日、町の教会で結婚式を挙げるので、よかったら来てくれませんか」という。
「バカみたいな話をしていいですか?」といって、結婚するまでのことなどを話し始めた。
去年の年末、10年つきあってきた女性にプロポーズしようと思い、
指輪を買って、新宿駅南口の待ち合わせの場所に行こうとした。
ところが地下鉄で人身事故があり、電車が遅れてしまう。
恋人に、「人身事故があり遅れる」と連絡した。
そこで待っていた彼女が偶然に、10年前までつきあっていた“もとカレ”に出会ってしまう。
彼女は、恋人とはまた会えるが、“もとカレ”にはもう会えないと思い、男のケータイにメッセージを入れる。
「友だちのところに行く」と小さなウソを。
遅れて待ち合わせ場所に着いた男は、そのとき恋人からの留守電に気づいて聴く。
恋人の友だちとは、中野にいる女性だった。
普通の日だったら男はそのまま家に帰っただろうが、その日はプロポーズをするために指輪を持っていた。
恋人の友だちの家にタクシーで行く。
新宿から中野まではすぐそこだ。
彼女を自分の家に連れて行って、プロポーズをしようと考えた。
当然そこには恋人はいない。
恋人の親友は、その日結婚記念日だった。
ご馳走を作って旦那を待っていたが、帰ってこない。
そのうち「仕事で帰れない」と旦那から電話が来る。
恋人の友だちは、「この料理を一緒にやっつけてくれません」と男にいう。
この女性が明日、男が教会で結婚する女性です。
あの日、いろんなことがあった。
その1つひとつの“こと”がなかったら、男は明日結婚式を挙げない。
あの日、地下鉄の人身事故がなかったら。
恋人が“もとカレ”に会っていなかったら。
恋人の親友が結婚記念日じゃなかったら。
親友の家が中野じゃなかったら。
恋人の親友の旦那が家に帰って来ていたら。
それらが1つでもなかったら、明日、男はハワイで結婚式を挙げない。
現実って、そんなもんですよね。