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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

「おさな馴染みのマジ切れ」というアニメ市場に残る名シーン・・・『異能バトルは日常系の中で』

2014-11-22 03:42:00 | アニメ
 



■ 今期アニメのダークホース『異能バトルは日常系の中に』 ■

私程の重度のオタクになると、放送開始前に話題にもなっていあないアニメからいち早く面白い作品を探す事が何よりの楽しみになります。そこで今期のダークホースですが『異能バトルは日常系の中で』がイチオシです。

肌合いとしては大沼心監督の『六畳間の侵略者!?』に一番近いでしょうか。どうしようも無い設定を、丁寧に描きこむ事で、だんだんと視聴者を作品世界に引きずり込むタイプの演出方法です。

重度の中二病患者の主人公と、文芸部の4人の女の子達が突然異能の力に目覚めてしまうという、何ともラノベらしいベタな設定ですが、異能バトルを部活動の中に限定した所がミソ。世界を自在に創造したり、時間を止めたり、壊れた物を元の姿に戻したりする、使い方によっては絶大な力にもなり得る異能を、単なる遊びに使う事で物語は主人公の間だけに限定されます。

一見、「広がりを欠く」様にも思える設定ですが、『六畳間の侵略者』同様に、無駄な人物が登場しない事で、個人の関係を丁寧に描く事に成功しています。

■ 醒めた視点 ■

普通に見たら単なるオタクアニメに過ぎませんが、ガイナックスOBの会社の制作する作品だけに、第一話目からどことなく引っ掛かるものが有ります。外側の醒めた視点が常に存在するのです。

若者の、若者による、若者の為のアニメが氾濫し、その多くの作品がまったりとした支持を集める中で、『俺の青春ラブコメはまちがっている』や『六畳間の侵略者』や『異能バトルは日常系の中で』といった作品は、どこか醒めた視点を持っています。作中の人物達の行動を興味深く観察する視点が働いている様に感じられます。

これらの作品はラノベ原作ですが、製作者は作品の中にある「醒めた視点」に注目してアニメ化を手掛けている様に感じられます。

■ 閉鎖空間による関係性の濃密化 ■

それぞれ原作は未読なので、これからの考察は憶測に過ぎませ。

オタク文化は今では若者文化として市民権を獲得しました。ですからかつて程閉鎖的では有りませんが、ただ、若者主体の文化だけに社会との繋がりは希薄です。

作品の舞台の多くは学校であり、登場する人物も同世代。当然若い作者が多いので人生経験も限定的です。その様なサークルの中で作品が再生産を続けた結果、ライトノベルの諸作はかなりテンプレート化が進行しています。

当然、少ないポケットの中でバリエーションを生み出す為に、さまざまな工夫が凝らされます。その一つがテンプレ化されたキャラを徹底的に深化させるという試みが有るかと思われます。

そもそもアニメやラノベの登場する様なキャラクターは現実には存在しませんが、それがあたかも実在したらどうなるのかをシミュレーションする様な作品が上に上げた諸作の様な気がします。

あまり世界を広げてしまうと、リアルの壁が高くなるので、六畳間とか文芸部に世界を限定する事で、テンプレキャラが普通に存在する閉鎖空間を先ず作ります。これで、「こんなヤツいる訳無いだろう」という突っ込みを一時停止させます。

その上でキャラクターに若干のリアルな味付けをして行きます。閉鎖された環境での登場人物達の関係は嫌が上にも濃密になります。その上で登場人物達の行動や心の動きを冷静にシミュレートションして行きます。

■ 「おさな馴染みのマジ切れ」というアニメ市場に残る名シーン ■

『異能バトルは日常系の中で』は6話目までは、たまに登場するちょっとシリアスなシーンがスパイスの良作でした。しかし7話目は、昨今のアニメの中でも突出した回となっています。

中二病を患う主人公には幼馴染の鳩子がいつも側に居ます。鳩子は主人公が大好きなので、主人公の中二病に根気強く付き合っています。ところが、主人公は彼女が無理をしている事に全く気付かず、むしろ「鳩子に言っても分からないから」などと鳩子の努力には全く気付いていません。

そんな鳩子が、嫉妬から長年のストレスを爆発させます。

<引用開始>

「寿君の言ってること何もわかんないよ!」

「寿君の言ってることは一つもわかんないよ!」

「寿君の良いって言ってるもの、何がいいのかわかんない!
 わかんない! 私にはわかんないよ!!」

「ブラッディって何がカッコイイの? 
 血なんて痛いだけだよ!」

「黒のどこがカッコイイの?
 クレイジーのどこが良いのかわかんない!」

「罪深いってなんなの?
 罪の何が良いの?
 犯罪者がカッコイイの?」

「そもそも混沌って何?
 カオス?だからなんなの?」

「闇って何?
 暗ければ良いの?」

「正義と悪だとなんで悪がいいの?
 なんで悪い方がいいの?
 悪いから悪なんじゃないの?」

「右腕がうずくと何がカッコイイの?
 自分の力を制御できない感じがカッコイイって、
 なにそれ、ただのマヌケな人じゃん!
 ちゃんと制御できるほうがかっこいいよ!
 立派だよ!」

「普段は力を隠していると何がカッコイイの?
 そんなのただの手抜きだよ!
 隠さず全力出せる方がかっこいいよ」

「どうして二つ名とか異名とかいっぱいつけるの?
 いっぱい呼び名があったってわかりにくいだけじゃん。」

「英語でもなんでもカタカナつけないでよ。
 覚えられないんだよ」

「鎮魂歌って書いてレクイエムって読まないでよ」

「禁忌って書いてタブーって読まないでよ」

「聖戦って書いてジハードって読まないでよ」
 
「ギリシャ神話とか聖書とか、北欧神話とかちょっと調べただけでそういう話しないでよ」

「お願いだから私が分かる言葉で話してよ!!わかんない!!」

「内容もちゃんと教えてくれなきゃ意味が分からないよ!教えるならちゃんと教えてよ!」

「神話に出てくる武器の説明されても楽しくないよ!」

「グングニルもロンギヌスもエクスカリバーもデュランダルも天叢雲剣も意味不明だよ!」

「何がカッコイイのか全っ然わかんない!」

「他の用語も謎なんだよ!」

「わかんないわかんないわかんああああああああああああああああい」

「原罪とか十戒とか創世記とか黙示録とかアルマゲドンとか…
 名前がいいだろってどういうこと!?」

「雰囲気で感じろとか言われても無理だよ!!」

「相対性理論とかシュレディンガーの猫とか万有引力とか、
 ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ!」

「中途半端に説明されてもちっとも分からないんだよ!!」

「ニーチェとかゲーテの言葉引用しないでよ!」

「知らない人の言葉使われても何が言いたいのか全然わかんないんだよ!
 自分の言葉で語ってよ!」

「お願いだから私が分かる事話してよ!」

「中二ってなんなの!?
 中二ってどういうことなの!?」

「分かんない分かんない分かんない分かんない分かんない!!」

「寿くんの言う事は昔から何1つ、これっぽちも分かんないんだよ!」


<引用終わり>

痛い、心にグサグサと突き刺さります・・・。

言葉をそれぞれ「金融緩和」とか「金融抑圧」に変えて行くと、私のブログ活動も中二病の延長に過ぎない事が露呈します。上のセリフ、家内に言われている様な感じがして、私としては全く他人事ではありません。


考えて見れば、昔の若者が得意気にニーチェやゲーテを語るのも中二病に過ぎないのかも知れません。中二病はいつの時代にも存在し、男という生き物は、中二病を患ったまま大人になって、政治や経済や社会を中二病のネタに変えて行くだけなのかも知れません。そして女性はいつも大きな包容力でそれを見守っている・・・。

食卓で安倍政権の突然の解散に怒りを露わにするアナタを、奥さんは優しく見守っていますが、心中は「この中二病野郎、政治家の悪口言う前にテメエが選挙に出てみろよ!!」って思っているのかも知れません。

(このシーンを一気に演じる声優さんの演技・・・本当にスバラシイ。)

■ 「リアリティーの追求 ■

7話目の前半、文芸部の今日の活動は「ライトノベル」がテーマ。

そこで鳩子がテーマにしたのは「リアリティーの追求」
そして部長のテーマは「中二病」・・・・。

これがこの作品のテーマなのでしょう。

ある意味、ライトノベルやアニメのリアリティーの追及は、「箱庭の中でリアルを模索」する様な矛盾を内包しています。ライトノベル的リアルであり、アニメ的リアルに過ぎないのかも知れません。

ただ、バットマンがバットマン的リアルを追及した結果『ダークナイト ライジング』に到達した様に、アニメ的(ラノベ的)リアリティーの追求も、いつかは現実世界とリンクする時が来るのかも知れません。



とにかく、ここ数年のアニメのシーンの中で、鳩子ちゃんのマジ切れシーンが突出している事は・・・見なくては分からないですよね・・・。

「地方再生」どころか「維持」すら難しい・・・財政破綻で大逆転の地方?

2014-11-19 16:06:00 | 時事/金融危機
 

■ 既に日本は過疎地域のインフラを維持出来ない ■

前回の記事で、「通貨に換算されない価値」が地方に有ると書きましたが、それでも地方経済は衰退し続けています。

地方経済が衰退するのには理由が有ります。

地方は大都市圏に比べて密度が低く、労働生産性も高くは有りません。しかし、地方に分散したインフラ建設や維持に掛かるのコストは都市部と大して変わりません。

1日に車が100台しか通らない地方の高規格道路も、何万台が通過する首都高も土地収用コストを無視すれば建設コストも維持コストも大して変わりません。

結局、上下水道や送電設備を含め、地方のインフラのコストパフォーマンスは極めて低いのです。私は自転車で房総の山奥に行く事が多いのですが、県道ですらがけ崩れで半年以上通行止めが続いていたりします。亀山ダムには何十という橋が掛かっていますが、老朽化によって大型車両が通行出来ない橋も出て来ました。トンネル内部の老朽化も進んでいます。

この様に地方経済を維持するコストパフォーマンスは非常に低く、マイナス成長が常態化する今後の日本においては、限界集落から徐々に人が住めない場所が増えて来るでしょう。

■ 金融機関を通して地方のお金は東京や海外に流出する ■

地方経済が衰退する理由の一つに、金融機関の存在が有ります。税金は地方交付税という形で都市部から地方に再配分されますが、金融システムが発達した現在においては、資金は有効に地方で活用されずに、日本国債になったり、或いは他の投資に化けてしまいます。経済が停滞する地方よりも、都市部の方が投資収益は高く、又、海外の金融商品の方が収益性が勝ります。

農林中金などはアメリカのフレディーマックやファニーメイの発行した債券や、アメリカの地方自治体の債権を元にした金融商品をしこたま持っていたのではないかと記憶していますが(ちょっとアヤフヤ)、さらには農林中金が様々な海外債権や海外株式を組み込んだファンドを売り込んだりしています。

http://www.ja-asset.co.jp/fund/140822/pdf/pdfy140822.pdf

地方経済が低迷すればする程、金融機関を通して資金は流出して行きます。これは金融の正常な作用なので、一概には非難する事は出来ません。しかし、地方の人々の「得をしたい」という行動は、結果的には地方経済の活性を奪っています。

ノーベル経済学賞を受賞した「グラミン銀行」は貧困層がローンを利用出来る「マイクロファイナンス」というシステムを考案します。一人の債務者に対してて4人の共同債務者をグループ化する事で貸し倒れリスクを軽減し、これまでお金が借りれなかった途上国の貧困層でもお金を借りられる様にしたのです。

一見、素晴らしい試みですが、貧困層がお金を返せるハズが無く、結果的に共同債務者達からチビリ、チビリとお金を吸い上げる事となりました。これによって農村のコミュニテーが破壊されるケースの出ています。

この様に、本来、自給自足が成り立つ農村に、貨幣経済が浸透する事で、農村は豊になるどころかむしろ貧しくなります。


■ 気になる地銀の再編 ■

金融庁を地方銀行の再編を促しています。地方銀行の多くが経営基盤が脆弱で、運用ノウハウも高く無いので、日本国債運用に偏重した運用をしています。特に中長期の国債を多く保有しています。

今までは銀行が買い支えていた日本国債ですが、現在は日銀が買い支えています。多分、将来的に日本国債の金利が上昇すると多くの地方銀行が経営破綻の危機が生じるでしょう。この様な事を防ぐ為に、金融庁は地方銀行の国債保有を減らすと共に、地方銀行同士の合併によって経営体質の強化を図る様に指導しています。

地方銀行は地方に住む人達の預金を、地方経済に還元する働きを担っています。しかし、統廃合が進み、経営効率が優先される様になれば、収益率の低い地方経済よりも、海外投資を選択する銀行も現れるはずです。

例えば、リスクを取らないで米国債投資をした方が、地域の企業に貸し出すよりも確実に儲かるならば、米国債投資を選択する様になるかも知れません。

■ アメリカの地銀の寄せ集めがバンクオブアメリカに成長した ■

実は日本の先んじて地銀の統合が起きたのがアメリカです。バンクオブアメリカは一地方銀行に過ぎませんでしたが、積極的な買収戦略で地方銀行をどんどん吸収して巨大銀行に成長しました。

田舎の街で細々と運用されていた資金は、バンクオブアメリカを通して世界市場で運用される様になったのです。

ところが、巨大銀行になったバンクオブアメリカはMBSの損失は莫大に抱えたメリルリンチを押し付けられ、さらにはメリルリンチが組成したMBSを巡って莫大な損害賠償金まで支払うハメになりました。アメリカ国民がせっせと働いて溜めたお金を、金融資本家達がガッポリと横取りしてしまたのです。

日本の地方銀行で同じ事が起こらないとも限りません。地銀の統合が加速して、「大きくなければ生き残れない」なんてブームになって、3つか4つの銀行に統合されたとします。この巨大な資金を金融資本家が指を咥えて見ているとは思えません。

こうして、日本国民の税金によって地方経済に還元されたお金は、金融機関を通して、地域から東京へ、そして世界(アメリカ)へと流出してしまうのでしょう。

■ 財政破綻すれば地方の魅力は高まる ■

いろいろと、困難が待ち受ける地方ですが、私は地方がダメだとは思っていません。

例えば仮に日本が財政破綻して公共のサービスの質が低下したとします。年金難民、生活保護難民が数百万規模で発生した場合、都会で70歳以上の老人が安い年金で暮らす事は不可能です。

しかし、農村ではそれが可能です。現在でも農村の老人は、自給自足に近い生活が可能ですが、年金を貰える様になってから老人が畑に出て来ないと田舎の人が言っていました。要は、今でも農村は自給自足社会も戻る事が出来るのです。

戦後、多くの人達が都会から農村に買い出しに出かけました。戦後、日本の食糧生産が減少したとの記述は多いのですが、実は運搬手段が寸断された為、農村には作物が余っていたのです。

私は財政破綻などという極端なバッドケースまで想定した場合は、地方の魅力は決して低くは無いと思っています。

■ 行政は地方の最低限のインフラ整備に専念すべき ■

「地方再生」の掛け声の元、巨額な国費が地方にばら撒かれ様としています。統一地方選挙を控え、自民党のバラマキは拡大するでしょう。

一方で、国の補助金で作られた施設のほとんどが赤字経営で、むしろ地方の財政を圧迫しています。張り巡らされた高規格道路も、いずれはメンテナンス費用で赤字の山を築きます。そのしわ寄せは、生活道路のメンテナンスなどに現れます。

山間部の道の多くは、急な斜面をコンクリートで固めて作られています。近年、コンクリートの劣化で、斜面の崩落が多く発生しています。路盤毎崩落するケースも有り、この様な場所の復旧には時間とコストが掛かります。

今後、戦後に作られた山間部の道路は次々と老朽化して行くので、段々とメンテナンスコストが建設予算に占める割合のほとんどを占める様になります。

■ 確かに「今のうちに」という考え方は合理的かも知れない・・・ ■

将来的な財政破綻を考えれば、「作れる今の内に整備してしまおう!!」という考え方にも合理性が有ります。ただ、その場合は優先順位の高い物から更新すべきで、不要な物を作るべきでは有りません。

新しいプロジェクトは政治家の実績になります。一方、メンテナンスは国交省の役人が粛々と仕事を進めれば滞りなく進んで行きます。

高度成長期には地方のインフラ整備は経済に貢献しました。政治家の利益誘導もある程度の合理性が有りました。しかし、メンテナンスが主流になるこれからの日本においては、政治的介入は合理的な予算の再配分の妨げにこそなり、利する事は有りません。

少子高齢化によって縮小して行く日本に不要なのは、実は政治家達なのかも知れません。成長によって隠されていた民主主義の不効率性が、今後日本の社会や経済を蝕んで行くでしょう。

実は日本人の本当の敵は、「見せかけの民主主義」そのものなのかも知れません。



本日は妄想にもならないタワゴトを垂れ流してしまいました。地方にお住まいの方は、「とんでも無い」と思っていらっしゃる事でしょう。尤も、私はどうにかして地方に移住出来無ないかと妄想する毎日です。

内需の限界・・・「豊さの幻想」からの脱却

2014-11-17 11:29:00 | 時事/金融危機
 

■ 「潜在需要」を前提とした経済学 ■

ケインズ経済学にしても、新古典派にしても、経済学は一時的需要の低下を克服する為の理論です。ケインズは「財政出動によって需要不足を一時的に補えば景気はやがては回復する」と主張し、新古典派は「不景気時には人件費の低下によってバランスが回復し、自然に景気は回復する」と主張します。このどちらの理論も、「潜在需要が十分に有る」事を前提にしています。

日銀の異次元緩和の支えとなるリフレ論も、過剰な資金供給によって実質金利をマイナスにする事で潜在需要を刺激する事を目的としています。

しかし、異次元緩和が明らかにした事は、現在の日本において「需給ギャップは既に存在しない」という事実でした。「需要」が不足しているから日本は不景気だというのがリフレ論者の主張でしたが、実は毎年1%ずつ労働人口が減少する日本では、事業を拡大したくても労働者が集まらないという「供給制約」が既に発生していたのです。

現在の日本の失業率は「自然失業率」に達しており、これ以上は政策によって失業率を低下さる事は難しい状況です。これはアメリカも同様です。

失業率がこれ以上改善しないのであれば、現状が日本やアメリカの需給の均衡点なのでしょうか?

■ 労働生産性のピーク ■

日本やアメリカで共通しているのは労働市場の質の低下です。日本もアメリカも既に自然失業率を達成しつつありますが、多くの労働者が「もっと高い賃金」を目標とし、「もっと豊な生活」を望んでいます。

「賃金」は「労働生産性」に比例するので、「労働生産性」を高めたり、それが高い仕事に転職すれば賃金は上昇します。

高度成長期の日本では「輸出産業」が高い労働生産性を達成していました。特に機械化と自動化による生産性の飛躍的向上は、製造業に携わる人達の賃金を通して、日本が豊かになる事に大きく貢献しました。

「公共事業」や「建設業」も、それによって作られるインフラや施設が、効率的に活用される事で経済発展に貢献していました。

近年では、IT化の影響で事務経費や物流コストは大幅に改善しています。

しかし、製造業の労働生産性は既にピークに近く、これを劇的に改善する事は、技術的イノベーション無くしては達成出来ません。建設業の生産性は、インフラ整備がほぼ終了してメンテナンスの時代に突入した日本においてはマイナスになります。

皮肉な事に製造の自動化や、事務の効率化が進めば進む程、人手は要らなくなります。現在は経験やノウハウが必要とされる分野でも、技術革新によって将来的には人手が不要になります。

結局、企業が労働生産性を高める程に労働者は余ります。この様な過剰な労働者の受け皿になっているのがサービス業です。サービス業は労働生産性が高くありません。例えば、ファーストフードの店員が一人で対応できる客の数は限られており、これを下手に向上させようとするとサービスの低下を招きます。

牛丼チェーンの「すき家」が、人件費を削減する為に「ワンオペ」と呼ばれる店員一人で店を営業するシフトを組んだ所、サービスの低下で客離れが発生し、さらにはアルバイトが激務に耐えかねて集団で辞めてしまいました。

サービス業で労働生産性を追求すると、「ユニクロ」や「わたみ」の様に、低賃金の長時間動労を強いる事になり、「ブラック企業のレッテル」が貼られます。

失業率の高い時はそれでも人が集まりますが、失業率の低下した現在では労働条件を改善しなければ従業員を集める事が難しくなります。結局、どんなに効率化を実現してもサービス業の労働生産性は製造業には及びません。

■ 「貧しくても」ほどほどで「満足」する若者 ■

労働生産性のピークの原因は労働者側にも存在します。

例えば、工事現場での肉体労働は過酷ですが報酬は高めに設定されています。ファーストフードでアルバイトするよりも、肉体労働の方が儲かるのです。しかし、近年、建築作業の現場には若者が集まりません。真夏の炎天下に力仕事をするよりも、クーラーの効いたファーストフードの店でキレイな若い娘達とアルバイトをする方を選ぶのです。

労働市場全体を俯瞰しても同様の傾向があるかも知れません。大企業に入って沢山給料をもらう為には、相当な実力を要求されます。特に製造業などでは新興国との競争が熾烈なので、昔の様に楽をして高給を貰う事は不可能です。工場の人件費は既に国際競争にさらされていますが、開発や事務に携わるホワイトカラーも、企業の国際化の影響を免れ得ません。アジアの優秀な人材が日本人より安い賃金で働くならば、企業はこちらを選択します。逆に日本人は英語が苦手というハンデーを負っています。

結局、個人の労働生産性の向上は個人の努力無くしては達成出来ませんが、どこまで努力するかは個人の裁量に任されています。現在の日本ではアルバイトでも、実家暮らしならばそこそ生活が出来るので、若者達は無理して正社員になる事を避け、非正規雇用でそこそこの生活を選択します。

当然、収入は低いので、「もっと豊な暮らしをしたい」と望みますが、豊な暮らしは実現せず、日本の需要は低下し続けます。

■ 内需産業は過剰競争を避けられない ■

「景気回復の為には内需を拡大すべき」との意見は昔から聞かれます。しかし、少子高齢化で需要が減少する日本において内需は縮小こそすれ拡大はしません。

限られたパイを皆で争いう訳ですから当然過剰な競争が発生します。

例えばコンビ業界では、1地域に他社の店が有る場合、同じ地域にフランチャイズ店舗を2店舗、3店舗と出店します。当然客は限られるので、敵対する店舗は利益が減少し撤退します。その後で自社の3店舗を2店舗に整理すれば、その商圏は独り占めできます。

スーパーのイオンが同一商圏に複数出店して利益を減らしていると言われていますが、同業他社も同様に利益を減らすので、最終的に生き残ればその商圏を独占出来ます。但し、有利子負債を拡大しながらの経営には限界が有りますので、生き残るのがイオンだとは限りません。

セブン&アイ・ホールディングスはコンビニチェーンの寡占を目指し、イオンはスーパー業界の寡占で生き残りを賭けています。当然、しわ寄せはフランチャイズの経営や、スーパーの店員の賃金として現れます。

内需産業の過剰競争は、淘汰が終了するまで続きますが、少子高齢化で需要も減少するので、バランスするのは相当先の事となります。

■ 内需を規制する外需の縮小 ■

日本の現在の豊な暮らしは、輸入品に支えられています。

経済の実質的な規模(豊かさ)が消費の量と等価であるならば、日本の国内の1次産品(農林水産業や資源生産)で実現できる豊かさは明治時代とあまり変わりません。

確かに化学肥料や農薬の普及や、品種改良によって農業生産効率は高まっていますが、反面、農業機械を動かすには燃料が必要になり、農薬や肥料も石油を原料にしているものが多く、結果的に日本の農業は世界的にみても石油への依存度が高く、それがコストに反映しています。

私達の豊な暮らしは、輸入品に支えられていますが、その輸入を可能にするのは私達が稼いだ外貨である事は、富国強兵政策の明治時代も今も変わりません。外貨を稼ぐ方法には、従来の加工貿易の様な外需産業に頼る方法と、金融を巧みに利用して海外から金利収益を得る方法が有ります。近年日本は外需産業が衰退して貿易赤字が常態化していますが、所得収支がそれを補う形で、経常収支の赤字化を抑制しています。

経常収支が赤字になるという事は、日本の外貨が減ると同義であり、外貨が稼げなくなれば輸入による物質的豊かさを継続する事が難しくなります。ただ、海外の生産地もどんどんと製造コストの安い地域に移動しているので、先進国は安い輸入品で生活の質を確保しています。一方で生産コストの高い日本から外需産業は次第に消えて行きます。

■ 内需だけを拡大しても豊にならない ■

ある意味において内需の拡大は無限に可能です。

例えば「スマイル1万円」というサービスが大ヒットしたとします。人々はスマイルされただけで1万円を払い、さらに誰かにスマイルするだけで1万円をゲットできるとします。

これはサービス業の一種ですから、スマイルは「新たに生産されてたサービス」としてGDPの拡大に貢献します。(実際には買ったスマイルが仕入原価になれば、新たなサービスは生み出されませんが・・・)

とにかくスマイル1万円が大ヒットすれば、貨幣は人々の手から手に渡るので、マネーサプライは急拡大します。ただ、それで生活が豊になるかと言えばなりません。(心は豊になるかも知れませんが)

この様に物質的な生産を伴わない経済活動は物質的豊かさの拡大に貢献しません。利益の個人的偏在や時間的偏在は存在するので、サービスを早く始めた人は儲かりますが、後から始めた人は儲かりません。ここら辺はネズミ講と同じです。

結局、サービス業の活性化は通貨の流通速度を高める事で、名目の成長を達成しますが、物質的な価値を生み出さないので、実質成長には長期的には貢献しません。

■ 「物消費から事消費」「物から心」は付加価値の拡大に過ぎない ■

昨今のブームでもある「物から心」というのは、物やサービスに「付加価値」を付ける事で、消費を伸ばしたり、競争に勝つ道具としています。しかし、「付加価値」にお金を払えるのは「余裕」があるからで、余裕が無ければ、人々は「物の価値」にシビアになり、付加価値は評価されなくなります。

要は「スマイル」に一万円払えるかどうかは、懐具合に掛かっているのです。

■ 「貨幣に換算されない豊さ」も存在する ■

実は「貨幣に換算されない豊かさ」も存在します。

地方の豊な自然や、通勤距離の短さなどがこれに相当します。これらのものは、生産性を高めたり儲けを生み出さない限り貨幣に換算できませんが、心の豊かさを実現するものではあります。

地方活性化のプロジェクトの多くが、「貨幣に換算されない豊かさ」を実際の儲けにつなげようと画策して失敗しています。それは「貨幣に換算されない豊かさ」が「不便」とトレードオフの関係にあるからです。

結局「不便」による実質的な損失が「豊かさ」の魅力を相殺して余りあるのです。




この様に少子高齢化以外にも様々な制約によって、日本の経済が成長する事は大変難しい状況です。「個人」などというミクロの単位では成長や成功は可能かも知れませんが、日本全体というマクロな単位では、案易な成長幻想は将来を見誤らせる原因となります。

今、私達に求められているのは、「縮小する経済」を前提とした経済学であり、人生設計なのかも知れません。



異次元緩和を継続するとどうなるか・・・池の中のクジラ

2014-11-13 12:17:00 | 時事/金融危機
 

■ 異次元緩和っていつ終わるの? ■



<ロイターより>
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0IQ07B20141106


ロイターの記事のグラフが面白いので紹介します。

異次元緩和は2013年の4月に開始した時点では「2年間で2%のインフレ率の達成を目指す」とされていました。しかし、現在日銀はこの目標達成がほぼ不可能になった事を受け、「2%に達するまで異次元緩和を継続する」という終了時期を明確にしない方針に切り替えています。さらには、追加緩和に踏み切るなど、異次元緩和は逆テーパリング状態になりつつあります。

異次元緩和を現在の規模で継続した場合どうなるかというのが上のグラフです。2020年には既発国債の50%を日銀が保有する事に成る様です。

■ 金利上昇リスクを日銀に肩代わりさせる異次元緩和 ■

1) 追加緩和で日銀は長期国債の買い入れ枠を拡大
2) メガバンクは既に国債の残存期間を3年程度に圧縮している
3) 生保や地銀、信金、ゆうちょ、かんぽなどが長期国債を保有
4) 生保は満期保有前提なので問題無い(有るけど)
5) 地銀、信金、ゆうちょなどは、長期金利の上昇で損失が発生する
6) これらの金融機関の長期国債保有比率を下げる事が課題となっている
7) 金融庁は国債偏重を改善する様に指導している
8) これらの金融機関の国債売却の受け皿を日銀がはたしている

異次元緩和で日銀が長期国債を中心に購入している理由は、低金利で残存年数の長い国債は金利上昇時に暴落する危険性が高いので、金利上昇リスクを金融機関から日銀に移しているとも言えます。

■ 市場から国債が消えて行く ■

冒頭のグラフからも分かる様に、新発国債の9割に当たる額を買い入れる異次元緩和を継続してゆけば、行く行くは国債が市場から消えて行きます。日銀が国債売却をすれば市場が暴落しますから、日銀は国債を満期まで手放しませんし、満期で買い替えを繰り返して、市場の国債の供給量を抑え込むはずです。(FRBはそうする予定と発表)

■ 「池の中のクジラ」が抑制する金利 ■

市場を寡占するプレーヤーを「池の中のクジラ」と呼びます。市場の価格決定権はクジラに握られていますので、市場参加者は自由な価格変動で利益を上げる事が難しくなります。

この様な市場は流動性が欠如して価格変動がピーキーになります。異次元緩和直後の日本国債市場の激しい値動きがこれに当たります。

しかし、クジラが金利や価格を安定させる事が周知されれば、価格変動は収束して行きます。現在の日銀は国債金利の上昇を抑制していますので、市場はクジラに合わせて国債金利が低い状態で歩調を合わせます。「中央銀行には逆らうな」という格言の通り、巨大なプレーヤーに対しては逆張りよりは、順張りが有効です。

■ 市場の魅力が薄れて行くが、安定もしている ■

日本国債の海外保有比率は2012年頃には8%を超えていましたが、現在では4%台です。円安が進行し、為替差損が発生し易い事も原因ですが、日銀が価格コントロールする市場は利幅が少なく魅力に乏しいからでしょう。

現在、日銀に喧嘩を売る様な金融機関は存在せず、日銀の国債買取情報に合わせて金融機関は粛々と国債を買い入れ、そして日銀に売却しています。

儲からない日本国債は日銀に売却して他で運用する選択も有りますが、バーセル3の自己資本の運用の中で、安全資産とさせれる国債をポートフォーリオから完全に外す事は出来ません。こうして、日本国債市場は、クジラとしての日銀と、空気を読んだ金融機関によって低金利で安定した市場を形成しています。

■ 国債発行で儲かる? ■

このまま異次元緩和が継続すれば、長期国債の保有者はほぼ日銀になる可能性も有ります。「日銀は国債を売らない」という暗黙の了解の上において、政府は非常に低い金利コストで国債を発行する事が可能になっています。

さらには短期国債にいたってはマイナス金利も一瞬ですが出現しており、政府は国債を発行して金利収益を上げる事態に至っています。これが金融抑圧が良好に機能している状況です。

■ 金利上昇は起こらないのか? ■

なんだか、三橋貴明氏の言うように「自国通貨建ての内国債で国債暴落は起こらない」様な気がしてきました。

しかし、現在の国債の需給を支えているのは、日銀の当座預金にブタ積された金融機関の資金です。これらの資金が当座預金にブタ積されている理由は、預金金利が低く、それより高い金利が当座預金に付くからです。利幅は小さいですが、安全で楽に金利収益が稼げます。

預金金利がほぼゼロに近い状態で安定しているのは、日本の経済が低調だからです。資金需要が低いので、お金は低い金利でも預金に集まって来ます。

しかし、何等かの切っ掛けで景気回復が本格化すれば、資金需要が高まり預金金利も上昇を始めます。預金を引き出して投資に回したり、あるいは内外(日米)金利差が拡大すれば、海外投資も盛んになります。

1)景気回復で資金需要がある時点まで高まると、日銀の当座預金は取り崩される
2)日銀の当座預金は日本国債で運用されている
3)当座預金引き出しに際して日銀は日本国債を売却する必要がある
4)日銀が国債を売却した時市中金利が上昇していれば国債金利もそれに合わせて上昇する
5)長期国債は景気の先行きが金利に影響を与えるので、景気回復が予測されれば金利が上がる

問題は金利の上昇巾ですが、従来の会計法では国債は時価評価されましたので、金利上昇で日銀は含み損を抱えます。しかし2015年の会計法から時価評価が停止されるので、金利上昇で日銀が債務超過に陥る恐れは解消します。


ウーン、景気回復から一気に国債暴落に至る事は無さそうです・・・。

■ 新発国債金利が上昇し、予算の中の金利負担が上昇する ■

問題は新発国債の金利が上昇する事にあります。クジラである日銀が売り手となった市場で
金融機関は新発国債を購入しにくい状況になります。当然金利は上昇します。

多分、現在の財政状態で10年債金利が3%を超える事があれば市場は動揺し始め、金利はジリジリと上昇し始めます。

ただ、この様な事態が生じれば、将来的な財政破綻が意識されるので、資産市場を始めとしてリスク市場が下落し、実体経済も減速するはずです。ある程度までこれが進むとリスクオフとして日本国債が買われ、金利が下降に転じる可能性は小さくありません。

■ 資金の海外逃避が起きると手に負えない ■

ここで見落としていけないのが、資金に国境が無いという事です。

財政破綻という文字がチラつけば、金融機関や個人が資金を海外に移転する可能性が高くなります。多分、一時的に米国債に逃避するはずです。この流れが加速すると一気に円安が進み、資金流出が拡大します。

多分、この時点でゲームオーバーでは無いでしょうか?
何等かの超法規的処置でも行わなければ、人々は銀行に殺到して預金を下ろす行動に出るはずです。

■ 景気のブレーキとして優秀な消費税増税 ■

日本の成長率は少子高齢化の進行と共に低下して行きますから、日銀が意図的に通貨の価値を毀損しなければインフレ率は1%以上にはなかなかならないハズです。

ただ、東京オリンピック特需などがある事を考えると、一次的に金利上昇局面もあるかも知れません。これをどう冷却して、安定的な金利状況を維持するのか、日銀は微妙なかじ取りを迫られています。

消費税増税はブレーキとしては即効性た高く、また持続性も十分に長い。
財務省はこの奥の手を、景気が減速している時では無く、加速する時に使いたいハズです。


「安倍総理が財務省の裏をかいて、増税を延する」という意見が多く見られますが、私は財務省と安倍総理の息はピッタリ合っていると思います。


■ 最後は日銀ばかりが日本国債を保有する事になる? ■

仮に異次元緩和が10年続くとすれば、日本国債の7割とか8割を日銀が保有する状態になります。

もうそれは「政府通貨」と何ら変わらない状況です。どこかの時点で円が240円/ドルなどという相場になり、輸入物価が高騰して、何れにしても異次元緩和は継続不可能になるはずです。こででオシマイ。


現状だけ見れば、非常に優れた政策に見える「異次元緩和と金融抑圧」ですが、結局どこかでツケは払わざるを得ないのでしょう。

マッチポンプとはまさにこの事・・・「消費税増税延期」を問う選挙

2014-11-12 06:23:00 | 時事/金融危機
 

■ あっと言う間に既成事実化されてしまった年内解散総選挙 ■

解散総選挙を読売新聞が報道してから、あれよあれよと言う間に既成事実化してしまいました。選挙の目的も「消費税10%増税の延期の信を国民に問う」という、何だか訳の分からない物・・・。

昨日の記事を書いた時点では、「増税の是非を国民に問う選挙」だと思っていましたので、何だか思い切り外してしまった感じです。

しかし、何故今、解散総選挙をしてまで「消費税10%増税の延期」の信を国民に問う必要があるのか・・・完全に目的は別の所に有ります。

■ 民主主義を愚弄する安倍政権 ■

私は民主主義をあまり信じてはいませんが、消費税増税とそれをめぐる衆議院解散の流れに関しては、あまりに民主主義を愚弄しているので怒りを禁じ得ません。

1) 2012年8月に民主・自民・公明の3党合意で消費税増税法案を可決
2) 消費税増税に関しては景気の状況を見て判断するとの条項を加えてある
3) この景気条項には具体的は数値は決められていない
4) 10%増税に関しては今年7-9月のGDPを見て決める事にすると発表

今年7-9月期のGDP速報値は2%のプラスになる様なので「景気は回復している」として消費税増税を強行する事は出来ます。

5) 消費税8%の引き上げ以来景気低迷は顕著
6) 今、消費税を増税すると日本の景気は大幅に失速する事は確実
7) 消費税増税を延期するには法案の改正が必要

ここまでの手順も間違っていません。現在の国家で消費税改正法案を審議すれば、先延ばしは可能です。

8) 消費税増税延期を争点に衆議院を解散して国民の信を問う
9) 安倍政権と自民党は消費税増税延期を支持する
10) 国民は当然、消費税増税の即時決定よりも延期を望む
11) 他の野党も消費税増税延期を支持するに決まっている

あれあれ、仮に衆議院を解散したとしても、選挙の対立軸が存在しません。では、国民は何を基準に投票すれば良いのでしょうか?


<自民党の支持率の推移  時事通信>


12) 国民の多くは民主党よりは自民党がまともに政権運営できると考えている
13) 自民党の支持率は他党に比べて圧倒的に高い
14) 選挙の行方は無党派層が握っている
15) 選挙の対立軸が無いに等しいので投票率は低い事が予想される
16) 投票率が低い場合は、自民公明の組織票が集まる自民党が圧勝する

あれあれ、自民党の議席が増えてしましました!!

本来ならば現在の国会で増税延期を審議すれば良い事なのに「増税延期の信を国民に問う」と、敢えて事を荒立てて選挙に持ち込み、結果的に議席を伸ばす・・・こんな方法が許されるのでしょうか?

これはまさにマッチポンプ。いえ、他人の家に火を着けて火事場泥棒を働く様な、モラルハザードの極みです。


議会制民主主義のルールに則った政治手法ですから当然許されるのでしょうが、そこに国民は不在です。

■ 2年後では選挙を戦えない自民党 ■

前回の衆議院選挙は2012年12月でしたから、任期満了の次回の衆議院選挙は2016年12月になる予定でした。

しかし、アベノミクスの失敗は明確になっているでしょうし、仮に消費税10%増税が延期されても2016年12月は増税の後の可能性が高いので、日本の景気は大きく冷え込んでいるでしょう。その状態では自民党は大敗します。

ですから、自民党は支持率が剥落する前に選挙を済ませてしまい、アワヨクバ議席を増やして政権基盤を盤石なものにしたいと考えている事でしょう。次の選挙で落選する可能性を考えると、自民党の多くの議員は選挙の前倒しに賛成のはずです。

確かにアベノミクスの化けの皮が剥がれ初めていますが、マスコミが情報統制しているので、多くの国民は「アベノミクスは成功している」と信じています。特に、退職後の老人達は景気の動向には鈍感です。年金が滞りなく入金されていれば「世の中は平和」だと信じて疑いません。

自民党が選挙を前倒しするならば、アベノミクスの化けの皮が剥がれる前の今が一番の好機です。

■ 本来、民主党がこのカラクリを指摘すべきですが・・・ ■

こんな簡単なカラクリなのだから、野党である民主党が「解散では無く、本国会で増税延期の審議をするだけで十分だ」と主張しなければなりません。しかし、どうも「政治と金」の問題に争点をすり替えて解散総選挙というカードを引いてしまいそうな感じが漂っています。

自民党の谷垣幹事長が「首相が熟慮して判断する。仮に前へ進むことになれば、大義名分は何かと、きちっとしたスケジュールが必要だ」と発言していますが、この発言は「解散に必要が大義名分が無い」と言っている様に感じられます。

民主党の枝野氏よりも、谷垣氏の方が誠実なのかも知れません。

まあ、民主党政権は菅元首相から後は完全にアメリカの傀儡政権でしたから、自民党VS民主党や、安倍氏VS枝野氏 などという対立構図自体が政治プロレスの作り出した幻想に過ぎません。

むしろ安倍総理の敵は自民党内でポスト安倍を狙う人達ですが、良識的と思われる谷垣氏は幹事長で身動が取れませんし、旧経世会が担ぎ上げる可能性があった小渕氏は既に失脚しています。

■ 財務省は現時点での増税には拘らない ■

多くの経済評論家やブロガーが、「増税をスケジュール通りに推進したい財務省」VS「増税を延期させたい安倍総理」という間違った対立構図を思い描いています。

財務省の現在遂行する「金融抑圧」における消費税増税の目的は、景気抑制による金利の抑圧です。現在の様に消費税8%増税の影響が強く出て景気が低迷している状況で増税を急ぐ必要は有りません。

ただ、追加緩和のプラス影響が予想以上に発揮された場合、将来的に景気が一気に上向く(プチバブル)可能性もあるので、その前に10%増税を敢行して景気回復を抑え込む必要はあります。

■ 与党(自・公)が多数を占めたら、何でもやり放題!! ■

もし解散総選挙が実施されて、自民党が議席を減らしても、自民党と公明党で衆議院で過半数を確保したならば、安倍総理は「国民は安倍政権とアベノミクスを信任した」として、その後の政権運営はかなり強引なものとなるでよう。

TPPでの妥協や、自衛隊法の改正、さらには法人税減税も実施するかも知れません。当然、消費税10%増税も延期した所で実施は選挙で国民が信任した事になります。

さらに自公の大勝となれば、憲法改正が視野に入って来ます。憲法改正は両院の総議員の2/3以上の賛成で発議されます。まさに「戦後レジュームの脱却」の第一歩が踏み出せる訳です。(踏み出す方向はさて置き・・・)

■ 2017年頃に政治的混乱が生じては困る事でも有るのか? ■

各党、色々と思惑が交錯する衆議院解散ですが、自民党の支持率が安定している今、解散が強行されるとなると、やはり不自然な感じが否めません。

2016年末の選挙で自公が破れて、国会運営が難しくなった場合何か大きな問題でも起こるのでしょうか?

可能性としては、世界が再び金融危機に陥るというケースが考えられます。
バブル崩壊はほぼ10年周期で訪れているので、サブプライムショックが2007年でしたから、その10年後は2017年になります。

アメリカは来年利上げに踏み切るでしょうが、これが成功すると一気にバブルが膨らみます。このバブルを支える資金は日銀とECBの緩和資金ですが、ECBは緩和に慎重ですし、日銀も追加緩和を連発する訳には行きません。結局、緩和資金がどこかの時点で減少するはずです。これが2017年前後だとすれば、その頃から金融市場は不安定化し始めるハズです。

特に、日本では日銀の異次元緩和のメリットに疑問が生じ、そのデメリットがクローズアップされて量的緩和が継続出来なくなる可能性は否定出来ません。



我が家にはTVが無いので、衆議院解散を巡る「雰囲気」が良く分かりませんが、色々なニュースを読みかじる限り、今回の解散の正統性はほとんど皆無の様に感じています。むしろ民主主義を愚弄した蛮行であると・・・。


はてさて、国民はどの様な投票行動で安倍政権の暴走行為にブレーキを掛ければ良いのでしょうか・・?

議会製民主主義と小選挙区制の組み合わせは、民意を封殺する最高のセットなのかも知れません。