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二重、三重の罠によって日本の経済成長は難しい・・・「経済成長幻想」を捨てよ

2014-11-10 10:27:00 | 時事/金融危機
 

■ 実質3%成長が現在の日本に可能か? ■

本日の池田信夫氏のブログに面白いデータが出ていたので拝借します。

<池田信夫blog より引用>

成長だけで1000兆円の借金は減らせない:こういうとき、よくあるのが「増税を延期して名目成長率が上がったら税収も上がる」という話だが、プライマリーバランスを黒字にするには、小黒一正氏と小林慶一郎氏によれば、次のような条件が必要だ。

 a. 実質成長率0%:インフレ率19.7%
 b. 実質成長率1%:インフレ率13.8%
 c. 実質成長率2%:インフレ率7.8%
 d. 実質成長率3%:インフレ率1.8%

ここ20年の平均実質成長率は0.9%なので、bのケースが現実的だと思われるが、その場合は13.8%のインフレ率が必要だ。日銀の目標とする2%のインフレに近いdのケースでは、実質成長率が3%になる必要があるが、上にもみたように延期しても成長率は上がらない。実質成長率3%というのは、バブル最盛期の1980年代の数字である。

<引用終わり>



少子高齢化の進行する日本でプラスの成長率を継続する事は難しく、技術的なイノベーションが起きたり、規制緩和によて生産性が飛躍的に改善しない限り、将来的には成長率がマイナスになる可能性は低くは有りません。

確かに異次元緩和の様に通貨の価値を意図的に毀損する政策を実行すれば、インフレ率だけを高める事は容易ですが、「成長無きインフレ」は単純なインフレやデフレよりも庶民の生活を苦しくします。


■ 既に完全雇用に近い日本で、肉体労働を敢えて選ぶ理由が無い ■

三橋貴明氏の信望者の主張で姑息なのは「経済成長すれば財政赤字は解消するのだから、リフレ政策と財政出動で先ずデフレを脱却して経済成長してから増税すれば良い」と言う主張です。

しかし、アベノミクスが明らかにした事の一つに、「日本のデフレギャップは既にゼロになっているのではないか?」という点が挙げられます。日銀の異次元緩和にも関わらずインフレ率2%の達成が極めて困難になっています。

1) 少子高齢化の影響で需要自体が縮小している
2) 少子高齢化で労働力は不足気味で労働力の供給制約が発生している

三橋氏達は、アベノミクスの初期に「国土強靭化」などというバカげた政策の実行を主張していましたが、これは現場で働く人が減っているという「労働力の供給制約」によって実現が難しい事が明らかになっています。

「労働人口の減少」により若者達は、賃金が安く過酷な労働を強いられる職種を敬遠し、多少賃金が安くても楽な仕事を選ぶ傾向が高まっています。

建築作業現場で炎天下に汗だくになって働くよりも、クーラーの効いた綺麗なショップで店員をしている方が良いと判断しているのです。これは日本に限った事では無く、ヨーロッパでもアジアの国々でも、肉体労働は敬遠され、移民や外国人労働者の仕事となっています。

日本の失業率は既に3%台ですから、自然失業率に近く、政府が公共事業を増発しても労働者が足りなければ工事を勧める事は出来ません。

■ リストラと人出不足が共存する日本 ■


ケインズ経済学では、「物価が上昇すれば、人件費がそれに連動して上昇する」事を前提としています。高度成長期の日本では、需要が十分に存在したので、先ず物価が先行して上昇し、労働争議などの結果として賃金が上昇しました。

しかし、現在の日本においては「労働力不足」の一方で、大企業などはリストラを進めています。所得の高い労働力が余っているのです。結果的に失業率が低下と、失業率の低下が同時に発生しています。これは「雇用のミスマッチ」が解消するまで続きます。

■ 雇用のミスマッチは産業形態の変化によって生じている ■

高度成長期に人々の所得が上昇した理由は、労働生産性が高まったからだと考えられます。

1) 輸出企業の利益上昇が労働者に還元された
2) 貿易黒字や形状利益の拡大は国富の拡大なので内需産業に還元される

高度成長期の成長の原動力は輸出産業(製造業)でした。日本の製品が高性能になるにつれて、高い値段で海外に輸出できる様になります。加工貿易の日本では、付加価値が高くなる程、経常利益を押し上げます。

これらの製造業の利益や所得の拡大が、消費や税金を通して内需に還元され、日本全体の所得を押し上げたのが高度成長時代です。これらの製造業の多くは依然として巨大企業ですが、製造設備も市場も海外の比重が増えています。日本国内で雇用を維持する必要が無いのです。

過去には繊維産業が衰退し、続いて石油化学産業などが衰退しました。現在は家電産業が衰退の一途を辿っており、この先、自動車産業や、部品素材産業が衰退して行くはずです。同じ性能の製品ならば、価格の競争が優先されるのは資本主義の原則なので、日本人の賃金が新興工業国と同等になるまでは、製造業の海外流出は止まりません。

一方、日本人が国内で生活している以上、ある程度の内需産業は維持されます。但し、内需産業の多くはサービス業で生産性の低い産業です。国内の競争も過剰になっているので、賃金は抑制されます。少子化によってこれらのサービス業は人手不足が発生し始めています。

日本では雇用のミスマッチが解消されるまで、輸出産業を中心にリストラが続き、賃金の安いサービス業では人出不足が続きます。

■ 過剰なサービス業が淘汰されるまで賃金も業績も向上しない ■

サービス業の賃金の低い理由は、「過剰競争」にあります。

少子高齢化によって需要が縮小する日本では、コンビニもスーパーも不動産も既に余り初めています。

市場が縮小する中で、多くのライバルが経費を必死に削りながら利益を生み出そうとするので、企業業績は低迷し、賃金も低下します。そして低賃金のブラック企業化して行きます。

安倍政権は企業に賃上げを迫っていますが、過剰な競争を続ける企業が賃上げする事は自殺行為です。資本主義の原則として、競争による淘汰が達成されてから(市場の寡占化)初めて賃金が上昇しますが、労働力が余っているので賃金の上昇は限定的です。

■ イギリスやアメリカは金融によって衰退を食い止めている ■


一方、現代の日本は、製造業が新興国との競争に敗れて衰退しました。これはイギリスでもアメリカでも起きた事ですが、両国は金融を通して新興国の富を吸い上げるシステムを発展させる事に成功しています。

アメリカは基軸通貨であるドルを上手く活用し、イギリスは資本関係によってアメリカの利益を吸い上げるシステムを構築しています。

一方で日本は、米国債や金融市場を通してアメリカに利益を供与する立場に甘んじています。

■ 個人の利益は拡大は、国民の利益の拡大を阻害する ■

金融の発達は個人の利益の拡大に大きく貢献します。お金を持た人達は、キャッシュフローを運用する事で効率的に資産を拡大出来る様になりました。この様な人々や企業は国家に対しても影響力が大きいので、国家はこれらの人や企業の利益を徴税して庶民に還元する事はしません。いえ、むしろ消費税を増税して法人性を減税するなど、格差拡大に余念が有りません。

一方で、製造業に従事していた豊な中間層が消滅した日本では、消費を支える事が出来なくなっています。富が富裕層や高齢者に集中しても、消費に回る量は限定的だからです。

そして最大の問題は、金融市場で運用される資金は、金利差に吸い寄せられて海外で運用されてしまう事です。老人が老後の生活の為に消費を控えてコツコツと溜めた資金は、投資信託などを通して海外で運用されます。

この様に、個人の利益の最適化は、必ずしも国家の利益に拡大に繋がらないのが現在の日本であり世界です。

■ 三重の罠によって、日本の経済成長は難しい ■

少子高齢化のに日本は基本的に長期的な経済成長は難しくなっています。
さらに、労働生産性の高い製造業の衰退で、個人所得も頭打ちです。
そして、金融市場によって日本の国富が海外に吸い出されています。

これらの事が解消しなければ、日本の経済成長は困難です。

実質成長率1%程度の日本で財政赤字を解消する為には13.8%のインフレ率が必要になります。

達成は至って簡単で、通貨の信用を棄損すれば良いのです。異次元緩和とはその為の手法で、初期は金融抑圧によって日本の財政を延命させますが、最終的には円の価値を毀損する事で、銀行預金の多く価値を大きく減らします。結果的に国家がインフレ税によって財政を一気にバランスさせるのです。


但し、日本が財政破綻する状況では米国債の売却が必須になりますから、その前に世界は既に崩壊しているのでしょう。日本が異次元緩和で必死に延命する一方で、世界のどこかに巨大な歪が溜まり続けているのでしょう。

「リーマンショックは過去のものだ」・・・・これこそが現代最大の妄想なのでは?