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異次元緩和を継続するとどうなるか・・・池の中のクジラ

2014-11-13 12:17:00 | 時事/金融危機
 

■ 異次元緩和っていつ終わるの? ■



<ロイターより>
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0IQ07B20141106


ロイターの記事のグラフが面白いので紹介します。

異次元緩和は2013年の4月に開始した時点では「2年間で2%のインフレ率の達成を目指す」とされていました。しかし、現在日銀はこの目標達成がほぼ不可能になった事を受け、「2%に達するまで異次元緩和を継続する」という終了時期を明確にしない方針に切り替えています。さらには、追加緩和に踏み切るなど、異次元緩和は逆テーパリング状態になりつつあります。

異次元緩和を現在の規模で継続した場合どうなるかというのが上のグラフです。2020年には既発国債の50%を日銀が保有する事に成る様です。

■ 金利上昇リスクを日銀に肩代わりさせる異次元緩和 ■

1) 追加緩和で日銀は長期国債の買い入れ枠を拡大
2) メガバンクは既に国債の残存期間を3年程度に圧縮している
3) 生保や地銀、信金、ゆうちょ、かんぽなどが長期国債を保有
4) 生保は満期保有前提なので問題無い(有るけど)
5) 地銀、信金、ゆうちょなどは、長期金利の上昇で損失が発生する
6) これらの金融機関の長期国債保有比率を下げる事が課題となっている
7) 金融庁は国債偏重を改善する様に指導している
8) これらの金融機関の国債売却の受け皿を日銀がはたしている

異次元緩和で日銀が長期国債を中心に購入している理由は、低金利で残存年数の長い国債は金利上昇時に暴落する危険性が高いので、金利上昇リスクを金融機関から日銀に移しているとも言えます。

■ 市場から国債が消えて行く ■

冒頭のグラフからも分かる様に、新発国債の9割に当たる額を買い入れる異次元緩和を継続してゆけば、行く行くは国債が市場から消えて行きます。日銀が国債売却をすれば市場が暴落しますから、日銀は国債を満期まで手放しませんし、満期で買い替えを繰り返して、市場の国債の供給量を抑え込むはずです。(FRBはそうする予定と発表)

■ 「池の中のクジラ」が抑制する金利 ■

市場を寡占するプレーヤーを「池の中のクジラ」と呼びます。市場の価格決定権はクジラに握られていますので、市場参加者は自由な価格変動で利益を上げる事が難しくなります。

この様な市場は流動性が欠如して価格変動がピーキーになります。異次元緩和直後の日本国債市場の激しい値動きがこれに当たります。

しかし、クジラが金利や価格を安定させる事が周知されれば、価格変動は収束して行きます。現在の日銀は国債金利の上昇を抑制していますので、市場はクジラに合わせて国債金利が低い状態で歩調を合わせます。「中央銀行には逆らうな」という格言の通り、巨大なプレーヤーに対しては逆張りよりは、順張りが有効です。

■ 市場の魅力が薄れて行くが、安定もしている ■

日本国債の海外保有比率は2012年頃には8%を超えていましたが、現在では4%台です。円安が進行し、為替差損が発生し易い事も原因ですが、日銀が価格コントロールする市場は利幅が少なく魅力に乏しいからでしょう。

現在、日銀に喧嘩を売る様な金融機関は存在せず、日銀の国債買取情報に合わせて金融機関は粛々と国債を買い入れ、そして日銀に売却しています。

儲からない日本国債は日銀に売却して他で運用する選択も有りますが、バーセル3の自己資本の運用の中で、安全資産とさせれる国債をポートフォーリオから完全に外す事は出来ません。こうして、日本国債市場は、クジラとしての日銀と、空気を読んだ金融機関によって低金利で安定した市場を形成しています。

■ 国債発行で儲かる? ■

このまま異次元緩和が継続すれば、長期国債の保有者はほぼ日銀になる可能性も有ります。「日銀は国債を売らない」という暗黙の了解の上において、政府は非常に低い金利コストで国債を発行する事が可能になっています。

さらには短期国債にいたってはマイナス金利も一瞬ですが出現しており、政府は国債を発行して金利収益を上げる事態に至っています。これが金融抑圧が良好に機能している状況です。

■ 金利上昇は起こらないのか? ■

なんだか、三橋貴明氏の言うように「自国通貨建ての内国債で国債暴落は起こらない」様な気がしてきました。

しかし、現在の国債の需給を支えているのは、日銀の当座預金にブタ積された金融機関の資金です。これらの資金が当座預金にブタ積されている理由は、預金金利が低く、それより高い金利が当座預金に付くからです。利幅は小さいですが、安全で楽に金利収益が稼げます。

預金金利がほぼゼロに近い状態で安定しているのは、日本の経済が低調だからです。資金需要が低いので、お金は低い金利でも預金に集まって来ます。

しかし、何等かの切っ掛けで景気回復が本格化すれば、資金需要が高まり預金金利も上昇を始めます。預金を引き出して投資に回したり、あるいは内外(日米)金利差が拡大すれば、海外投資も盛んになります。

1)景気回復で資金需要がある時点まで高まると、日銀の当座預金は取り崩される
2)日銀の当座預金は日本国債で運用されている
3)当座預金引き出しに際して日銀は日本国債を売却する必要がある
4)日銀が国債を売却した時市中金利が上昇していれば国債金利もそれに合わせて上昇する
5)長期国債は景気の先行きが金利に影響を与えるので、景気回復が予測されれば金利が上がる

問題は金利の上昇巾ですが、従来の会計法では国債は時価評価されましたので、金利上昇で日銀は含み損を抱えます。しかし2015年の会計法から時価評価が停止されるので、金利上昇で日銀が債務超過に陥る恐れは解消します。


ウーン、景気回復から一気に国債暴落に至る事は無さそうです・・・。

■ 新発国債金利が上昇し、予算の中の金利負担が上昇する ■

問題は新発国債の金利が上昇する事にあります。クジラである日銀が売り手となった市場で
金融機関は新発国債を購入しにくい状況になります。当然金利は上昇します。

多分、現在の財政状態で10年債金利が3%を超える事があれば市場は動揺し始め、金利はジリジリと上昇し始めます。

ただ、この様な事態が生じれば、将来的な財政破綻が意識されるので、資産市場を始めとしてリスク市場が下落し、実体経済も減速するはずです。ある程度までこれが進むとリスクオフとして日本国債が買われ、金利が下降に転じる可能性は小さくありません。

■ 資金の海外逃避が起きると手に負えない ■

ここで見落としていけないのが、資金に国境が無いという事です。

財政破綻という文字がチラつけば、金融機関や個人が資金を海外に移転する可能性が高くなります。多分、一時的に米国債に逃避するはずです。この流れが加速すると一気に円安が進み、資金流出が拡大します。

多分、この時点でゲームオーバーでは無いでしょうか?
何等かの超法規的処置でも行わなければ、人々は銀行に殺到して預金を下ろす行動に出るはずです。

■ 景気のブレーキとして優秀な消費税増税 ■

日本の成長率は少子高齢化の進行と共に低下して行きますから、日銀が意図的に通貨の価値を毀損しなければインフレ率は1%以上にはなかなかならないハズです。

ただ、東京オリンピック特需などがある事を考えると、一次的に金利上昇局面もあるかも知れません。これをどう冷却して、安定的な金利状況を維持するのか、日銀は微妙なかじ取りを迫られています。

消費税増税はブレーキとしては即効性た高く、また持続性も十分に長い。
財務省はこの奥の手を、景気が減速している時では無く、加速する時に使いたいハズです。


「安倍総理が財務省の裏をかいて、増税を延する」という意見が多く見られますが、私は財務省と安倍総理の息はピッタリ合っていると思います。


■ 最後は日銀ばかりが日本国債を保有する事になる? ■

仮に異次元緩和が10年続くとすれば、日本国債の7割とか8割を日銀が保有する状態になります。

もうそれは「政府通貨」と何ら変わらない状況です。どこかの時点で円が240円/ドルなどという相場になり、輸入物価が高騰して、何れにしても異次元緩和は継続不可能になるはずです。こででオシマイ。


現状だけ見れば、非常に優れた政策に見える「異次元緩和と金融抑圧」ですが、結局どこかでツケは払わざるを得ないのでしょう。