■ 竜巻の様な台風 ■
南房総市に住む娘の職場の先輩は、今回の台風についてこう語ったそうです。
「倉庫吹っ飛んでどっかに行ったー。
バイクが2台吹っ飛んでどっかに行ったー。
車のガラス割れたー。
窓ガラスを突き破って瓦が飛んできて、指に当たって骨折したー。
あれ、台風じゃなくて竜巻だったって皆言ってる。」
今回の台風の強烈な風の体験談です。
■ 風速40mで建築物は壊れる? ■
ウェザーニュースより
上の図の赤い地域は、台風15号で最大瞬間風速40mを記録した地域です。三浦半島と房総半島の東部に集中しています。千葉市で記録された最大瞬間風速は57.5mでした。今回は伊豆諸島や房総半島南部で強風により建物に大きな被害が出ています。
住宅などの建物、電柱や道路照明などは、40m/s以上の強風に耐えられないのでしょうか?
建物の風に対する強度は建築基準法によって定められています。
風の強さは地域によって違いがあります。台風が勢力を保ったまま上陸する沖縄や太平洋沿岸地域と、日本海側では最大風速に差が有ります。
そこで、建築基準法では、「基準風速」というのもを定めています。基準風速とは、地域別に定められた建物が耐えなければいけない風速で、その地域で想定される最大風速の10分間の平均値で示されます。
但し、沿岸部(海岸から1km以内)や、13m以上の高い建物、山の稜線などの近くは、強い風が吹きやすいので、基準風速に1.2倍を掛けた風速を用います。
今回、大きな被害を被っ千葉県南部の基準風速は38m/sです。これは10分間の平均風速ですから、最大瞬間風速40m/sでも、建築基準法に準拠した建築物は壊れませし、窓ガラスも割れません。
■ 窓や壁が壊れると、屋根が吹き飛ぶ ■
今回、被災地を巡ってみて、屋根が飛ぶなどの被害の大きな建物は、だいたい壁か窓ガラスが破壊されています。大きな窓面を持つ、観光施設に被害が大きいのも、窓が割れた為だと思われます。
私の高校時代の教師に高知県出身の方がいらっしゃいました。彼が語る台風の話は面白かった。
「大きな台風が来る前には、天戸に外から板を打ち付けて、天戸が飛ばない様にするんだよ。だけど、それでも天戸が外れそうな時は、竹を室内側に渡して、家族全員で一晩中、天戸を部屋の中から押さえるんだ。もし、天戸が外れて室内に風が吹き込んだら、屋根が飛ばされるから」
今回の台風の被害地域を観察すると、同じエリアで屋根などが損壊する重大な被害が出ている家と、比較的無事な家が隣り合っていたります。古い家が必ずしも壊れている訳ではありませ。だいたい、窓や壁が破壊された家の被害が大きい。
この事から、建築基準法を満たした建物であっても、高速で飛来する瓦や木の枝などの飛来物に窓ガラスや外壁を壊されると、基準風速以下の風であっても建物が破壊される事が分かります。
台風で強烈な風が吹く沖縄では、瓦は漆喰で固定されています。瓦が飛散して悲惨な結果を生まない生活の知恵なのでしょう。
■ 電柱やポール照明(街路灯)は、基部の腐食や劣化によって倒れる ■
電柱や街路灯(道路照明)などは、基準風速40m/Sで設計されています。ですから普通は最大瞬間風速が40m/sを越えても倒れません。(基準風速は10分間の平均)
ただ、これが瞬間的に風速60m/sが吹く様なケースでは、倒壊の危険が有ります。風には通り道があって、ビル風の様に局所的に風速が高まる場所も存在します。今回も電柱が2本、3本とまとめて倒れている場所が多く見られるので、局所的な強風が吹いた可能性が高い。
さらに、強風で煽られた樹木が倒れ掛かって来たり、風で飛んで来た屋根が直撃あされたりと、様々な不測の事態で倒れた電柱も有ります。
こうして、2000本程度の電柱が倒壊した様ですが、東電の予想を遥かに上回ったものです。
今回の台風の被害は甚大ですが、電柱の基準風速を高く改正するのか・・・経済性を考えると、難しい問題です。
それは東京電力がコストダウンの為に勝手に緩めた基準ですね。
正規の基準は
コンクリート柱は約1.2トンの横曲げ強度(設置時におよそ風速60メートル程度の風圧に相当)に破壊されないよう設計されている。
設計風速は、基礎のサイズや使用材料、市街地状況を考慮して条件が緩和される場合もあります。
具体的には、条件によっては道路灯50m/s、公園灯40m/sが可能です。
L1003:2009では、設計風速は次のように定められています。
設計風速(Vcr)はVcr=60m/s とする。
地域、設置条件などにより設計者または製作者と、使用者又は設置者間で設計風速について取り決めがある場合は、それを採用する。
沖縄、九州の一部及び離島に設置される場合で、一般に比較して明らかに強風が吹く地域と判断される場合は、建築基準法施行例、建築物荷重指針などを参照し、地表面の状況により速度圧の割増しを行うことが望ましい。
橋梁又は高架部で設置高さが高い場合は、同様に速度圧の割増しを行うことが望ましい。
ただし、その際の速度圧は、設計風速60m/sによって計算した値を下限値とする。
附属物を含めポールの高さが6m以下のものについては設計風速40m/sを採用してもよい。
ただし、道路に設置する場合は設計風速50m/sを下限とし、建物の屋上、山稜、高架、橋梁及び沿岸部などに設置される場合は60m/sとする
40m/sの基準は「経済産業省の『電気設備に関する技術基準を定める省令』」によって定められた基準です。
ただ、基準策定に当たっては、電力会社の意向も当然反映されていると思います。
東電は40m/sにある程度の安全率を見た強度が有るとしていますが、街路灯などでは沿岸地域で強風が予想される地域では60m/sを基準としていますので、電柱も同様かと。
ただ、コンクリートポールはアルカリ骨材反応などで劣化します。クラックから水が浸透して、鉄筋に錆が生じると、コンクリートが中性化して強度が失われます。
電力会社は電柱の目視点検を行っており、規定以上の損傷のある電柱は随時交換していますが、これがどこまで徹底されているか・・・確かに爆裂の様な形跡の見られる電柱も見かける事が在ります。
山中などで絶えず水に晒されれ様な環境でも、電柱の寿命は短くなると思われます。
ただ、こんなに電柱が倒壊した台風被害は過去に例が無く(四国や紀伊半島においても)、東電がこの被害を予想し得たと考える事は難しいと思われます。
政府が電柱の強度の再検証を言い出した様ですが、借りに強度アップが決定されても、建築物同様に新設される電柱にのみ適応されるハズです。