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『Rekife』・・・坪口 昌恭のサントラが凄い

2016-08-24 06:48:00 | 音楽
 



■ 今期アニメで一番おもしろい『Relife』 ■

今期アニメで一番面白い『Relife』。

ふとした事件を切っ掛けに会社を辞め、半ば引きこもり生活を続ける26才の男性が「人生をやり直せる」という誘いに乗って渡された薬を飲んだら・・・なんと高校生になっていた。(見た目だけ)

「一年間、高校生活を送ったら、就職をお約束します。」という怪しい提案に乗った彼は高校3年生に編入します。26才という少し大人の視点から高校生達を観察し、一緒にもう一度青春を謳歌する・・・。なんだか誰もが心の片隅にひっそりと仕舞っている願望を、見事にエンタテーメントに昇華した夜宵草(やよいそう)さんのマンガ原作のアニメ。

原作は「comico」というマンガ投稿サイトの人気作品で単行本も好調な売れ行き。スマホ用のフォーマットで書かれたマンガは縦スクロールで読める様に工夫されているとか。

これ、先行放送がネットにアップされているので、思わず全話観てしまいました。(アニメ嫌いのカミサンと一緒に)

■ コンテンポラリージャズのショーケースみたいなサントラ ■

アニメとしては「小ネタ」ですが、実のこの作品、サントラは超絶スゴイ。もう最初の一音から、「現代ジャズ(コンテンポラリー・ジャズ)」のエッセンスが詰まっています。

作曲は坪口 昌恭(つぼぐち まさやす)。この名前でピンと来た方は相当の音楽通。菊池成孔が好きな人ならば『東京ザビヌル・バッハ』のキーボードだと直ぐに思い当たるかも。

坪口昌恭は1664年生まれですから私の1つ年上のミュージシャン。『東京ザビヌル・バッハ』。「ザビヌル」は他ならぬ「ウェザー・リポート」のジョイー・ザビヌル。バッハは当然、大作曲家のバッハ。

■ ジャズからフュージョンへ ■

私達の世代のジャズ好きは「フュージョン」全盛時代にジャズを聴き始めました。「ウェザーリポート」「クルセーダーズ」「スパイロジャイラ」辺りが当時の人気グループだったと思います。日本だと「カシオペア」と「スクエア」。

4ビートジャズが電子楽器の導入とロックとの「融合=フュージョン」によって現代的なジャズに生まれ変わったのがフュージョンというジャンル。初期の頃は「クロスオーバー」などとも呼ばれていました。

フュージョンの先駆けとなったのは。マイルス・デイヴィスの「イン・ア・サイレント・ウェイ」 (1969)と「ビッチェズ・ブリュー」 (1970)。「電化マイルス」などと呼ばれ、ジャズファンを戸惑わせた名盤です。

当時のジャズはフリージャズ全盛時代。「何だか良く分からないけど凄い」というある種の「宗教」の様な袋小路に入った当時のジャズ界。「身体性」と「精神性」を追求するフリージャズは最早商業音楽としての形を失い、「聴く事=忍耐」というとんでも無いジャンルになっていました。

ジョン・コルトレーンやセシル・テーラーがもうドロドロと言うか訳分かんない音を垂れ流している頃(ファンの方にはゴメンナサイ)、帝王マイルス・デービスは当時普及し始めたエレクトリック楽器(電子楽器)をいち早く取り入れます。エレキ・ギターや電子ピアノ、エレキベースなど、今となっては当たり前の楽器ですが、アコースティック楽器こそがアイデンティテーであったジャズ界にとっては冒険でした。



これはマイルス・デービスの「ビッチェス・ブリュー」。8ビートにラテンのリズム感を取り入れるなと、当時としてはかなり斬新な試みをしていますが、メンバーが凄い。キーボードはチック・コリアとジュー・ザビヌル。ギターはジョン・マクラフリン。サックスはウェン・ショーター。

このバンドからウェン・ショーターとジョー・ザビヌルが独立した形でパーマネントなバンドを結成したのが「ウェザー・リポート」です。ベースにジャコ・パストリアス、ドラムスにピーター・アースキンを加入した頃が最強だったでしょうか?



代表曲は何と言っても「バードランド」でしょう。マイルスの「ビッチェス・ブリュー」に比べるとメロディーランが明確で、リズムもシンプルなので大衆受けする音楽に進化しています。

とにかくこの時代のウエェザーリポートは神です。特にジャコ・パストリアスはベースという楽器の概念を変えてしまった天才。

■ フュージョンの衰退と新しいジャズ ■

古臭い4ビートジャズや、意味不明なフリージャズと決別した「フュージョン」は、ロックやラテンのリズムを取り入れ、さらにはクラシックとも融合しながらジャズ界の主流になりますが、1980年代後半には商業主義的な色合いが強くなり次第にファンが離れて行きます。

その頃、ニューヨークでアコースティックな4ビートジャズの再評価(私は復古主義だと思いますが)が始まり、「新伝承派」なんてネーミングでウィントン・マルサリスがスウィングジャーナル誌などで持てはやされる様になります。

同時期、バークレイ音楽院で学んだ優秀な演奏家はM-BASEという概念の音楽活動を開始します。実は私はスティーブ・コールマンの提唱したM-BASEの概念が全く理解出来ません。「現代的で精神的で非西洋的な黒人のアイデンティティを追求する音楽活動」と解釈する事も出来ますが、複雑な変拍子に乗せてダラダラと続く音・・・こんなイメージが在りますが、これは当時の先端のファンクシーンと連動するものだったのでしょう。M-BASEは次第にラップを取り入れるなど、ファンクとの融合性を高めて行きます。これ、日本人には結構「濃くて」苦手かも知れません。



アレ、今聴くとカッコイイですね・・・。

■ 本当に新しいジャズ ■

メインストリームのジャズがファンク的な黒人現代音楽と、復古的な4ビートに2分されている頃、ブルクリンの「ニッテイン・ファクトリー」と言うライブハウスを中心に、もっとコンテンポラリーで新しいジャズが生み出されていました。

中心に居たのはジョン・ゾーンとティム・バーンでしょう。彼らは白人のミュージシャンでしたから、「黒人のアイデンティティ」という呪縛とは無縁に、単に「面白い音」を探求して行きます。

その頃、イギリスのジャズシーンも盛り上がっていました。メジャー所では「インコグニート」が有名ですが、これらの「オシャレ・ジャズ」とは無縁の、真に「面白い音」を追求していたのが「ルース・チューブス」です。中心人物はキーボードのジャンゴ・ベイツですが、彼はホーン楽器も扱う多才なミュージシャンでした。



ルース・チューブスのデビューアルバムの「オープン・レター」のプロデュサーは何と「ビッチェス・ブリュー」をプロデュースしたテオ・マセロでした。ジャンゴ・ベイツの音楽はおもちゃ箱をひっくり返した様で、何とも掴みどころが無いのですが、タペストリーを離れて観ると一枚の絵になっていた・・・・みたいな不思議な魅力に溢れています。

この時代、フランスもギタリストのマルク・デュクレらが新しいジャスを追求しています。

■ 今だから分かる「東京ザビヌル・バッハ」 ■

さて、ようやく話が坪口昌恭と「東京ザビヌルバッハ」に辿り付きました。

日本のジャズ界、いえ音楽界の重鎮、菊池成孔と坪口昌恭が1999年に結成したエレクトロユニットの「東京ザビヌル・バッハ」は、当時としては地球を3周半くらい突き抜けたバンドでした。



マイルスの「ビッチェス・ブリュー」がこの時期に出てきたらきっとこんなアルバムになったに違いない・・・そう思わせる音。

リズムをシーケンサーに任せ、キーボートとサックスが音のコラージュを積み上げていますが、後期のウェザー・リポートの音に良く似ています。だから「ザビヌル」の名前が付けられているのでしょう。

ウエザー・リポートはジョー・ザビヌルとウェン・ショーターの双頭バンドでしたが、ファンもウェン・ショ-ター派とジョー・ザビヌル派に二分されていました。後にウェン・ショーターが抜けた後もバンドの音楽性が全く変わらなかった事から、ジョー・ザビヌルが事実上のリーダーであった事が明白になりますが、コンサートでウェン・ショターのサンプリング音源をシンセイサイザーで演奏するザビヌルの節操の無さは、ウェン派を敵に回します。

ウェザー・リポートを解散した後、ジョーザビヌルは「ザビヌル・シンジケート」という自分のバンドを結成して活発に活動します。私も斑尾のジャズフェステバルで何度か生で観ましたが、とにかくコーネル・ロチェスターとジェラルイド・ビーズリーというドラムスとベースが強烈で、心臓がバクバクしたのを覚えています。

ジョーザビヌスのバンドはジャコ・パストリアスやミロスラフ・ビトウスなど超絶テクニックのベーシスト、さらにはピーター・アースキンやオーマー・ハキムなど上手いドラマーを擁してきましたが、東京ザビヌルバッハはこの部分をシーケンサーに任せているのが面白い所。ただ、この打ち込みの音はクールでカッコいい。

私は初期のアルバムを2枚持っていますが、正直に言って、当時は良く分かりませんでした。15年以上経った今聴くと、とてつも無くカッコいい。

■ 「低温」のジャズ ■

「東京ザビヌルバッハ」とウェザー・リポートの違いは何かと聞かれたら、私は「温度感」だと答えます。

「東京ザビヌルバッハ」に限らず、「パッチョーラ」など現代の優れたジャズバンドの音は「冷めて(醒めて)」います。

複雑なコード進行や、リズム処理をさらりとやる・・・・これがコンテンポラリーなジャズの魅力かなと・・・。もう、ミュージシャンが汗を撒き散らしながらやるジャズは流行らない。

そんな事を意識しながら『Relife』のサントラを聞くと、ジャズという音楽の現在が見えて来ます。アニメのサントラ、恐るべし。



ちなみにこちらが最近の東京ザビヌルバッハのライブ映像。坪口の個人ユニットになっているいみたいですが、リズムも人力です。トランペット、カッコイイ。