人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

良作という言葉が相応しい・・細田守『バケモノの子』

2015-07-16 10:20:00 | 時事/金融危機
 






今回はネタバレ無しで挑みます。気になる方は劇場へGO!!


■ 安心してお勧め出来る良質なエンタテーメント作品 ■

細田守の最新作『バケモノの子』を見て来ました。実はポスターを見た時、今回は子供向けだろうから見ないでおこうかな・・・と思ったのですが、仕事の合間に時間が出来たので・・・。

結論から言いいましょう。大人の鑑賞にも耐えるウェルメイドのエンタテーメントの名作です。

「どうだった」と聞かれたら、「面白いから絶対に観に行った方が良いよ」と安心してお勧め出来る作品です。

脚本は良く練られています。演出も完璧。作画も素晴らしい。父と子の関係を問うテーマも悪く無い。そして若い男女のラブストーリも細田印のクォリティー。子供でも分かるストーリーと、イキイキした動き。どれを取っても水準以上です。

そして何よりも「異界」と「現代の渋谷」がシンクロする様は、観ていて背筋がゾクゾクします。これだけでもこの映画は観るに値します。『デジモンアドベンチャー』や『サマーウォーズ』など細田作品ではおなじみの世界設定ですが、異世界とを行き来する切っ掛けや方法の描き方が格段に進化しています。

渋谷の町をリアルに描けば描く程、異世界の魅力も際立ちます。まさにセンスオブワンダーを味わう瞬間です。


■ 中学生、高校生に向けた作品 ■

実はこの作品の本当のターゲットは多感な中学生、高校生たちです。自我が確立する過程で子供達は親と衝突し、周囲に違和感を覚えます。多くの子供達が「良い子」であろうとする一方で、反動として多くのストレスを抱え込みます。そんな彼らは「誰もオレの事なんて分かってくれない」と言う孤独と焦燥に苛まれます。

細田守はそんな彼らが孤独で無い事をこの作品で訴え続けます。親も友達も先輩達も、かならず君たちを見守っているという事を。そして、その親や先輩達も誰かに支えられ、時に子供に教えられて成長する。

かつて悩める若者だった父親達は、かつての自分の姿をスクリーンの中に見つけるでしょう。そして、同時の自分の息子の姿を主人公に被せるのです。まだ、幼い子供を持つ親は10年後の子供達の姿を見つけるかもしれません。

是非、お父さん方に観ていただきたい映画です。子供と一緒に行くと泣く所をみられちゃうかも知れませんが。

■ 「足り過ぎる」という物足りなさ ■

しかし「細田守らしかった?」と聞かれたら、「・・・・」と答えに窮するでしょう。
何かが足りない・・・いえ、逆です。足り過ぎている。

この「物足りなさ」の原因は、実は初期細田作品に共通していた「欠落」や「虚無」が不足している事に起因しているのでは無いかと思います。

今回の作品は思秋期特融の「心の穴」をテーマにしています。「虚無」や「欠落」はきちんと作品の真ん中に有るのですが、それが従来の細田作品ほど魅力を発していません。

初期の細田作品に存在した欠落や虚無はテーマとして提示されるのでは無く、まして実体化して描かれる物でも有りませんでした。通奏低音として作品全体を支配するエーテルの様な物だった。

『デジモンアドイベンチャー』の『コロモン東京大激突』では「そこにあるはずの何かが無い」のだけど、その欠落はデジタルワールドに友達を残して来たという具体的な事象では無く、もっと感覚的な何かです。

『おジャ魔女どれみドレミドッカーン!』の40話『どれみと魔女をやめた魔女』では、小学生のどれみの中にある本能的な消失への憧れが作品を支配していますが、ストーリーの表面に現れる事は有りません。

初期細田作品はこの「虚無」や「欠落」の醸し出す不安定さを下地にして、子供達の繊細な気持ちの揺らぎを上手く表現していました。虚無や欠落はテーマでは無くて、儚さを作る装置だったのです。

実は『おおかみこどもの雨と雪』の後半は「虚無」と「欠落」が支配しています。だから分かり難い作品になっていますが、初期細田作品が好きな私はこの作品が好きです。

■ 大衆性と作家性の両立を求め続けるのであろう ■

現在の細田守はジブリ無き後の穴を埋めるという自分に課せられた使命を良く理解しています。子供から大人まで楽しめて理解出来る作品作りに真剣に取り組んでいます。一方で細田守らしさと大衆性のバランスに苦慮しているはずです。

『サマーゥーズ』や『バケモノの子』は、活劇としての分かり易さを前面に出した作品で、ある意味の割り切った作品と言えます。「宙ぶらりん」を封印してどういう表現が出来るのかにチャレンジしています。

一方、『おおかみこどもの雨と雪』は、大衆性と作家性の両立を試みた作品です。この作品が多くの母親達に支持されたのは、子供達のイキイキとした動きでも、子育てをする母親のたくましさでも無く、実は子供がいつか自分から離れて行くという「漠とした不安」なのでは無いかと・・。その「漠とした不安」が劇場を出た後も心の底にいつまでも残っていて、子供を見つめる日常のふとした瞬間にふーと心にさざ波を立てる・・・。

『バケモノの子』で分かり易い映画を作るノルマを果たしたので、次回作は少し偏った作品を見て見たいなと思うのはファンの我がままですが・・・。

できれば、高校生を中心にした作品を是非!!