■ 集団的自衛権って何? ■
安倍首相が『集団的自衛権』の憲法解釈の見直しを指示しました。
国連は侵略的な行為に対して国家が「自衛の為の戦争」を行う事を認めています。さらには、武力行使に際し同盟国が共同で自衛の為の戦闘を行う「集団的自衛」をも認めています。
一方、日本は憲法9条で「戦争放棄」を宣言し、「いかなる軍隊も持たない」事を宣言しています。しかし、朝鮮戦争が勃発し、アメリカが日本に再武装を許した事で、「警察予備隊」が1952年に発足しています。警察予備隊は後に自衛隊へと発展します。
かつては「自衛隊は軍隊か」などという不毛な論争もありましたが、自衛隊の装備と人員は世界有数の軍隊であり、「自衛隊は軍隊では無い」などという発言は国際的には全く通用するものではありません。
日本は自衛隊という軍隊を持ち、国連の認める「自衛の為の戦争」を遂行できる能力を有する国家ですが、「集団的自衛権」に関しては1981年の憲法解釈では認められていませんでした。
日本は憲法9条によって、自国が攻撃された場合のみ戦争が許される(専守防衛)と憲法を解釈した場合、アメリカ軍が攻撃を受けたとしても、日本自身が攻撃対象となっていなければ米軍と共同で戦争を行う事は出来ないと判断されていたのです。
仮に尖閣諸島に中国軍が上陸した場合、これは明らかな中国による日本への侵略行為ですから、自衛隊は中国軍と交戦出来ますし、自衛の為にアメリカ軍と共同で戦う事も許されています。
一方、例えば尖閣近海で日中に緊張が高まった時に、中国が米軍を攻撃しても、自衛隊は米軍を守る事が出来ません。日本本土が侵略されるか、自衛隊の艦船や、日本の民間の船舶などが攻撃されなければ、自衛権が発動しない為です。
この為、現在の日米安保条約は一方的にアメリカが日本を守る形になり、アメリカとしては不平等な条約となっています。
■ 「他国の戦争に巻き込まれる」という恐れ ■
「集団的自衛権」を認めない理由は、「専守防衛」の日本が不用意に他国の戦争に巻き込まれる怒れがあるからです。
例えば、朝鮮半島で有事が起きた場合、在韓米軍が交戦に入ります。その際、集団的自衛権を拡大解釈すれば、アメリカ軍を守る為に日本の自衛隊が戦争に参加するという判断も不可能ではありません。
従来の多くの日本人はこの様な事態を恐れており、今でも世論の過半数は集団的自衛権に否定的です。
■ イラク戦争では集団的自衛権を行使している ■
「集団的自衛権が無い」とされる日本ですが、イラク戦争では戦闘が継続するイラク本土に自衛隊を派兵しています。
この時、当時の小泉首相は「自衛隊が居る場所が非戦闘地域です」と国会答弁しました。まさに禅問答の様な答弁ですが、この解釈によってイラク派兵は「戦闘では無い」為に「集団的自衛権の行使」では無いとされました。
しかし、実際には自衛隊の陣地にロケット弾が着弾するなど、イラクはれっきとした戦闘地域でしたので、自衛隊の派兵は実質的な「集団的自衛権の行使」だと考える事も出来ます。
日本近隣の紛争では無く、遠く中東の地で発生したアメリカの身勝手な戦争に、自衛隊はなし崩し的に参加していた事になります。
■ 憲法解釈は都合良く変更されてきた ■
従来から自衛隊を巡る憲法解釈は、都合良く変更されて来ましたが、それはアメリカや国際社会からの要請があった場合に限られて来ました。
1992年のカンボジアのPKO参加は自衛隊の始めての海外覇権でしたが、その後も自衛隊は様々なPKOに参加しています。
湾岸戦争ではアメリカは海上自衛隊に兵站輸送の協力を要請しましたが、これは実現せずにずにお金だけを出しました。
イラク戦争では遂に戦闘地域?に自衛隊を派遣しました。同時に、インド洋での他国艦船への給油活動も行い、ライクへの物資の空輸も航空自衛隊が参加しています。
ソマリアの海賊に対する作戦にも海上自衛隊は参加しており、2010年にはジプチに自衛隊としては初めての補給基地を建設しています。(これ、意外に国民には知られていません)
■ 安倍首相が憲法解釈の変更を急ぐ理由は・・・ ■
今回の安倍首相の集団的自衛権を巡る憲法解釈の変更要請がこれまでと異なるのは、具体的な戦闘が起きていないのに、変更に着手しようとしている点です。
「集団的自衛権」を認めるかどうかは、日本国憲法の根幹に関わる問題なので、本来は憲法を改正すべき事柄です。しかし、戦後教育によって植えつけられた「戦争アレルギー」は未だに国民の間に根強く残っています。特に、投票行動に積極的な高齢者は戦争を嫌っています。ですから、日本において憲法9条を改正する事は事実上不可能であり、安倍首相は憲法解釈の変更で「集団的自衛権」を確立しようとしています。
ところで具体的な有事が起きていない今、政府が集団的自衛権の確立を急ぐ理由は何なのでしょうか。
一つには、衆参両院で自民党が安定多数を持っている事が大きいでしょう。「憲法解釈の変更」に対しても野党は強烈に反発しています。しかし、自民党が衆参両院で過半数を占める国会で、重要法案や予算案をボイコットして対抗する事は不可能です。
「改憲」には「国民投票」という高いハードルが存在しますが、「憲法解釈の変更」は、国会の議決無くして実行可能なのです。
結局、一党が衆参で安定多数を獲得した時点で、国民の意思は国会に反映されいのです。これが民主主義の最大の罠です。そして、「アベノミクス」というアメに釣られて自民党に投票したのは多くの国民です。
■ 「環太平洋条約機構」的な軍事同盟が結成されるのか? ■
安倍内閣が強引な手法を用いてまで「集団的自衛権」の確立を急ぐ理由を邪推してみます。
現在、日本は中国との間で尖閣諸島という領土問題を抱えています。もし、中国軍が尖閣諸島に上陸する様な事が起きれば、自衛隊は「自衛権の行使」という国家として当然の権利を発動する事が出来ます。米軍がこの作戦を支援するとしても、現在の憲法解釈はそれを合憲と判断します。ですから、尖閣問題は「集団的自衛権」の確立を急ぐ理由に成り得ません。
一方、ベトナムに目を転じれば、中国は相当強引な行動に出ています。自衛隊は世界屈指の軍隊ですし、日米安保条約がありますから中国は尖閣には容易には手出しできませんが、ベトナムは大国と軍事同盟を結んでいないので中国の冒険的行動を抑止する事が出来ません。
アジアではASEANが国際的な協調の基軸となっていますが、ASEANは軍事同盟では無いので、個々の国々は個別の安全保障条約で中国などに対抗するのが現状です。一方、中国は上海協力機構という国際協力の枠組みを構築しています。上海協力機構は軍事演習を共同で行うなど、NATOやワルシャワ条約機構の様な共同安全保障としての枠組みを持ち合わせています。
上海協力機構SCOの主要国は中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンの6か国です。これにモンゴル、インド、アフガニスタン、イラン、パキスタン、東南アジア諸国連合(ASEAN)などがオブザーバー加盟しているので、アジア大陸の国々の軍事連合に発展する可能性が有ります。
これに対して、日本や韓国やフィリピンやベトナムなど、中国や北朝鮮と緊張関係を持つ国々は個別にアメリカと安全保障条約を結んでいるだけなので、上海協力機構に対抗する軍事同盟は存在していません。
東アジアの海洋における中国との緊張が高まる中で、どの国からとも無く集団安全保障の枠組みを作る話が出る可能性は低くありません。そして、この安全保障の中心になるのはアメリカでは無いでしょうか?
しかし、「集団的自衛権」が認められていない現在の日本は、この様な軍事同盟に参加する事が事実上不可能です。何故なら、仮にベトナムと中国が交戦状態になった場合、同盟国である日本はベトナムを支援して戦闘に参加する必要が生じるかもしれないからです。
■ アメリカの単独覇権が弱まる一方で・・・ ■
アメリカは財政上の制約から、従来の単独覇権主義を維持する事は出来ません。従来ならばアジアで中国が台頭すれば、先頭に立って中国と対峙した米軍ですが、現状は第七艦隊は台湾海峡を通過する事すら躊躇しています。
ウクライナで欧米諸国と対立するロシアは中国との連携を深めて来ており、アジアにおいて上海協力機構に対抗し得る軍事同盟の確立は、この地域のパワーバランスを安定させる為には不可欠となります。
日本とて、軍事バランスの変化に無関係では無く、むしろ尖閣問題を抱える当事者となっています。
中国が領土を巡る姿勢を強硬なものとすればする程、日本の世論も「軍事同盟止む無し」「集団的自衛権の行使は認めるべきだ」という意見に傾いて行きます。
免れ得ない状況としてはアメリカが日米安保条約を一方的に破棄して、新しい安全保障の枠組みに日本が参加する事を要求して来た場合です。日本にNOと言う選択肢は残されていません。
・・・・とまあ、この問題を性急に進めようとする安倍首相を見るにつけ、こんな筋書きが出来上がっているのではないかと妄想してしまいます。こういう状況を一般的には「マッチー・ポンプ」と言います。