■ 日本の本当の国債発行額 ■
JB PRESSの山崎 養世氏の記事は必読です。
「2011年、戦後最大の経済危機が訪れる3月危機を乗り切れるかが第1関門、次は6月・・・」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5170
① 予算案の国債費44兆円は新規発行額のみ
② 既存の国債償還の為の「借換債」は103兆円もある
③ その他「財投債」が15兆円ある
④ 2010年度の日本の国債発行額は162兆円
⑤ 2009年度の一般税収は37兆円
これだけ見ても、日本の財政は「終わって」います。
債務超過の企業が粉飾決算して、親戚からお金を借りまくってどうにか倒産を免れている状態です。
■ 企業と国家は違う ■
ここで出てくるのが、「企業と国家は違う。通貨発行権を持つ国家の借金(国債)は国家の資産である」という理論です。
上の山崎氏の記事も含め、リフレ派に多く見られる理論は次の様なものでしょう。
① 財政破綻が確実になたら日銀が銀行や郵貯の国債を全て買い上げる
② 新規国債を日銀が直接引き受ける
③ 長期国債の発行を止め下落リスクのない短期国債と金利連動国債にすべて切り替える。
④ 日銀のバランスシートは債務超過となるが、その分円を発行すれば良い。
⑤ 国債が円になるのだから、国の債務は国の資産である。
その根拠は第二次世界大戦後のアメリカにあるようです。
① 大戦後、アメリカはGDPの140%に上る債務が残った(軍債など)
② FRBは国債を全量買い上げた
③ 供給されたドルが旺盛な民間投資を生み出した。
■ 何故、戦後のアメリカでインフレが起きなかったのか? ■
何故GDPの140%にも上る国債をFRBが購入しても、戦後のアメリカはインフレにならなかったのでしょうか?
山崎氏の記事では次の様に書かれています。
<引用開始>
一方、金融機関に供給した資金は適切に吸い上げてインフレを起こさせない、という方針を立てた。
当時の米国はその通りに実行した。FRBが金融機関から戦時国債を買い取った。一方、FRBから資金を得た民間金融機関は旺盛な民間投資を実行して、米国経済の黄金の50~60年代の高度成長が始まった。
国債全量買取の終了時に生まれたFRBと財務省の合意がアコードだ。最大の危機は成長への大チャンスに変わった。米国のすごさだった。
<引用おわり>
しかしこれだけではインフレがどの様に抑止されたのか良く分かりません。
ここからは私の勝手な推測です。
① 金利によって銀行のドルをFRBが吸い上げる
② ブレトンウッズ体制確立の為、世界中から金を買い上げる過程でドルが金に変わる
③ ドルが国債決済通貨の地位を確立
④ 海外の旺盛なドル需要がFRBの発行するドルを吸収
はっきり言ってこれこそ現代の錬金術です。
■ 誰も要らないドル ■
FRBはQE2で国債の買取に踏み切っています。
又、戦後と同じように財政の危機を乗り切るのではないかと山崎氏は書いています。
しかし、当時と現在では国債を巡る状況が全く異なります。
① 第二次大戦のアメリカの戦時国債の買い手は、米国民。
② 現代の様な債権市場は存在せず、長期保有が前提であった。
③ 国債市場が未発達なため、国債の暴落は発生しなかった。
しかし、現在は国債市場が発達し、国債の価格(利率)は投機的な取引によって決定されます。さらに、現在のアメリカ国債の所有者は、ほとんんどが外国勢です。
ドルの過剰供給が今でも問題なのに、FRBが国債の全量買取を決定すれば、投資家達も中国も米国債をわれ先に手放して、米国債は大暴落します。
1945年当時と違い、現在は誰もドルを欲しがらないのです。
■ 誰も要らない円 ■
現在のアメリカに比べれば、現在の日本の方が戦後のアメリカの状況に似ています。
しかし、円は基軸通貨ではありません。
① 日銀が国債を全量買い上げる
② 日銀に新規国債を全量引き受けて、長期金利を抑制する
ここまでは上手く行きそうです。
問題は市場に出回った円を上手く回収できるかです。
① 円の信頼が揺らぎ、国民は現物資産購入に走る
② 銀行に人々が殺到し、大量の円が市中にあふれ出す
③ インフレが発生する
④ 国債の発行額がウナギ上りになる
あれ、これはハイパーインフレじゃないですか・・・。
■ 預金封鎖と資産課税 ■
確かに戦後日銀と政府はインフレ政策を取りますが、それは年率400%程度で、ハイパーインフレと呼ばれるようなものではありません。
戦後日本では預金封鎖と資産課税でハイパーインフレを防ぎました。
① 日曜日の新聞紙面で預金封鎖を告知
② 翌日、月曜日から預金封鎖
③ 預金引き出し額を生活費程度に制限
④ 新券を発行して、市中の旧券を無効化、回収。
⑤ 資産課税20%により富裕層の資産を国家に供出させる。
簡単に書きましたが、詳しくは福島隆彦氏の「預金封鎖」を読めば良く分かります。
■ 紙幣は信用の上に成り立つ ■
リフレ派の主張には、「紙幣が信用通貨である」という観点が欠落しています。
確かに中央銀行は無限に紙幣を印刷できますが、そんな「紙くず」に信用はありません。
当然人々は貯蓄よりも、現物資産に変える為、インフレが発生します。
日銀や銀行が紙幣を回収しようとして金利を上げても、人々は預金を引き出して資産保全に走るでしょう。
何事にも閾値が存在しますから、ではどのくらい円を発行すれば適度なインフレで収まるのかはやってみなければ分かりません。
アメリカや欧州を見ても過剰供給された通貨は需要に結びついていません。
有効需要が不足する中で供給される通貨は、金融市場に流れ込み新興国でインフレという新たな危機を生み出しています。
■ FRBの国債買取は銀行救済 ■
QE2におけるFRBの国債とMBSの買取は、第二次大戦後の国債買上げとは意味が違います。
当時の国債の所有者は国民でしたが、現在は金融機関です。
QE2は金融機関を救済しているだけです。
QE2が終了して金融機関から米国債やMBSというリスク資産が消えた時、アメリカは堂々とデフォルトを宣言するかもしれません。