■ 産業構造の変化と農業人口 ■
アメリカに比べて集約化が遅れていると言われる日本の農業ですが、はたして集約化や労働生産性の向上が日本人の利益になるか私は疑問を持っています。
アメリカは18世紀に人口の95%が農業従事者でしたが、現在は2%となっています。
人口も少なく、農業以外の産業のほとんど無かった18世紀と現代を比較するのは強引かもしれませんが、工業やサービス業の隆盛と共に、農業から他産業へのシフトが発生しています。
一方、第二次大戦後アメリカ政府は農業を重要な輸出産業と捕らえ、戦略的な農業政策を実行していきます。アグリビジネスと呼ばれる農業企業に土地を集約させ、大規模機械経営によって生産性を高める事によって価格競争力を高めてきました。
■ 先祖伝来の土地を守る日本の農家 ■
一方、日本の農家は先祖伝来の土地を手放したがらず、又、山間地の農地も多い事から農業の集約化は進行せず(法制の問題も大きいですが)、兼業や高齢者の農業従事によって経営規模の小さな農家が生き残ってきました。
■ 農業改革で米の内外価格差は解消するの? ■
昨今、日本の農業が注目され、TPPに絡んで日本の農業の集約化を主張する議論が盛んになりました。
「やる気のある農家に土地を集約し、国際的に価格競争力のある農業を実現する」という尤もらしい主張がされています。多くの知識人が手放しにこの意見に賛成しますが、はたしてその結果どうなるかを正しく予見できる人がどれだけ居るでしょうか?
集約化によって日本のコメを輸出産業に育てる事が可能でしょうか?
答えはNOでしょう。価格差5倍~10倍に近い海外のコメに対抗する為には、日本のコメも生産コストを1/5にしなければなりません。八郎潟を始め、日本でも大規模農業を営む地域は存在しますが、1/5のコストで生産する事など不可能です。
昨年中国の旱魃のニュースで日本の米価が中国の1.4倍という情報がネットに流れているようですが、国際的な米価はタイ米が基準となっており1Kg当たり30円程度。中国は100%コメを自給しているので米価は比較的安定しており、2009年の旱魃で値上がりしても4元(70円)/1kg程度だという事です。日本の米価が230円/Kg程度(スーパーでは350円/Kgが中心価格ではないでしょうか)ですから、日本の米価はやはり海外と比べ5倍~10倍もします。
最近、私達はネットの情報を信用しがちですが、最近ネットでは「中国は旱魃の影響で米価が値上がりして60Kgで10000円になったとの情報が流れています。日本の米価は昨年12000円/60Kgだったので、日本も集約化を進めれば充分な国際競争力を持つ」との書き込みが多く見られます。
これは明らかに大間違いで、値上がりした4元/1Kgでも12.5円/元で換算すれば、3000円/60Kgです。
どこから中国の米価の偽情報が広がったのか分かりませんが、TPP推進派の多くがこの数字を信じている様です。常識的に考えて、物価水準が日本の1/10~1/20の中国で、コメの価格が日本の7割程度だったら、確実に暴動が起きます。
■ 集約化・機械化がもたらす雇用の消失 ■
工業の生産現場で自動機械に職人が職業を奪われました。同様の事が、農業でも発生します。
高い輸出競争力によって外貨を稼ぐ製造業に対して、輸出競争力の低い農業の機械化は、失業者を増やすだけの結果となります。
高度経済成長の時代ならば、農業から他産業への労働人口移動が可能でしたが、高失業率時代では、離農した人達は失業率を高めるだけの結果をもたらします。
少子高齢化で雇用環境は改善すると予測する人も多いでしょうが、製造業を中心に海外移転は確実に進行し、内需産業以外の確実に減少する事は戦後のアメリカを見れば明らかです。
■ 財政破綻後のシナリオ ■
日本の財政破綻リスクが新聞やニュースなどでも取りざたされていますが、破綻後の明確なビジョンを示した記事などは見かける事がありません。
国債を国内で消化している日本は、財政破綻してもデフォルトという選択肢は取れません。
① 日本国債がデフォルトる。
② 国債を大量に保有する銀行も生保も年金も経営破綻する。
③ 日本国民の貯蓄が消失する。
④ 厚生年金も破綻する。
これでは国民が納得しません。政府日銀の選択肢は「インフレ」しかありません。
① 日本国債が暴落する
② 日銀が金融機関や年金から日本国債を買い上げる
③ 700兆円以上の資金が市場に溢れる
④ 急激にインフレが進行する
⑤ インフレにより国債コストと年金財政コストが目減りする
インフレは年金世帯には恐怖ですが、住宅ローンを抱える現役世帯の返済負担は軽減します。(雇用が確保され、固定金利ならば)
インフレ政策は、「世代間格差」解消という効果も発揮します。
■ 大量の年金難民の発生 ■
日本の財政破綻は、大量の失業者と年金難民を発生させます。財政破綻した国や自治体が彼らを支える事は不可能です。
失業者と年金難民は、自活の道を模索しなければなりません。
とにかく、食べていかなければなりません。
■ 低労働生産性 = 雇用増大 ■
ここで注目されるのが農業です。
日本の農業は労働生産性が低いので、人手を必要とします。
耕作放棄地が多いのも、山間部の不便な農地で耕作する人手が無いからです。
職や年金を失った人達は、都会から農村に移動してゆくはずです。
農村では65歳は若者です。
■ 産業から自給自足へ ■
産業としての農業を考えた場合は労働生産性の高さは重要です。
しかし、福祉として農業を捉えるならば、労働生産性の低さが重要になります。
限られた土地で、より多くの雇用を作る為には労働生産性は低い方が良いのです。
日本は現在3人の現役世代が1人の老人を支えています。
近い将来、2人で1人の老人を支えざるを得なくなります。
財政破綻しなくても、不可能な事は目に見えています。
その為、政府は定年延長を指導していますが、企業にとって高齢者は「老害」以外の何者でも無く、若くて成長力に富んだ新興国の企業との競争に負けてしまいます。これでは、企業は日本を棄てて海外に逃げてしまい、さらに雇用と税収を失う事になります。
■ 日本の中に生まれる途上国 ■
世界規模の金融危機や、日本の財政破綻は、グローバリゼーションを加速します。
グローバリゼーションとは、アフリカやアジアの新興国や途上国が豊かになる事と同時に、日本などの先進国の中に、途上国が発生する事と同義です。
一部の都市部では高い国際競争力を背景に従来の先進国が存続しますが、地方はむしろ実物経済や自給型経済に後退してゆくでしょう。
■ 最小不幸社会とは ■
菅総理の言う「最小不幸社会」は、現状の福祉政策では財政コストの増大に繋がります。
農業でも補助金や助成金をばら撒き続けていますが、財政が破綻すれば継続不可能です。これでは「不幸の再生産」の連鎖を断てません。
一歩、地方の途上国化が不幸かと言えば、一概にそうとは言えません。
農村の高齢者は都会の高齢者と比較して健康です。
労働は体の健康を維持するだけで無く、生き甲斐を与え、精神の健康を維持します。
健康保険の存続する危ぶまれる状況で、健康こそが最大の幸福です。
物質至上主義の時代には現金収入の少ない農業は嫌われました。しかし、来るべき破綻後は若者を中心の価値観の大きな変化が訪れる事が予想されます。物質的な豊かさより、精神的な豊かさを求める人たちは確実の増えています。
尤も、自給型農業は人力や畜力に頼る農業です。肉体労働を嫌う人達が幸福になれる保障はありませんが・・・・。
毎度のバカ話ですが、歴史がいつも前進するとは限らない事は歴史が教えてくれています。