■ 「ハート・ロッカー」VS「アバター」 ■
大方の予想を裏切り、アカデミー賞は「ハート・ロッカー」が「アバター」を押さえて作品賞を受賞した様です。
両作品とも未見ですしが、知り合いのアメリカ人は「アバター」を絶賛していましので、前評判通り悪い映画では無いのでしょう。
一方、昨日「ハート・ロッカー」を見に行ってきた家内の感想は・・・何も無し・・。
「SF大作 VS シリアスドラマ」、「元夫婦対決」、「侵略反対映画 VS 侵略遂行映画」・・・色々な対立軸のある映画なので、色々な憶測も流れている様です。
■ アニメーションに恐怖するハリウッド ■
私は「アバター VS ハート・ロッカー」は、「アニメーション映画 VS 実写映画」の対決だと考えています。
アカデミー賞が「長編アニメーション部門」を新設したのが2001年。最初の受賞作は「シュレク」、2回目の受賞が「千と千尋の神隠し」でした。
そもそも長編アニメーション部門が作られた背景には、ハリウッドの俳優達の懸念があったと言われています。どんな心配事かと言えば、「自分達の仕事がアニメーションのキャラクターに奪われるのではないか?」という心配が。
アニメーションのキャラクターは、現在では俳優に勝る経済効果を生み出します。ロイヤリティーさえ払われれば、色々な所に増殖します。ミッキーマウスはアメリカの生んだスーパースターですが、「ポケモン」も「涼宮ハルヒ」も莫大な利益を生み出しています。
当時、俳優協会がCGを含むキャラクターに仕事を奪われる事を恐れ、アカデミー作品賞をアニメ作品に与えないように新設されたのが、長編アニメ部門です。
■ アバターの主役はアニメーション ■
アバターの宇宙人はご存知の如くCGアニメーションです。モーション・キャプチャーで生の俳優の動きを反映してはいますが、元の俳優の顔をキャラクターから想像する事は不可能です。
背景も含め、ほぼフルCGの作品に「アカデミー作品賞」を与えるという事は、今後、俳優がスクリーンから排除される事に繋がります。
勝手な想像ですが、「アバター」落選の背景には、案外泥臭い理由が存在しているのかも知れません。
■ 「カールじいさんの空飛ぶ家」は秀作 ■
ちなみに、仕事の関係で見なければいけなかった「カールじいさんの空飛ぶ家」は思いのほか秀作でした。ピクサー映画を一人で見に行くのは勇気が必要だったので、中一の娘をダシにし見に行きましたが、映画冒頭のカールじいさんの回想シーンだけで、充分アカデミー賞に値する内容です。
驚くべき事は、最新のCGのテクスチャーマッピングの技術の進歩です。紙や布の肌合いが違和感無く再現されています。
さらに、演出の手腕も驚くべき物があります。1シーン、一画面ずつを積み上げるアニメーションという手法は、構図や動きに自覚的にならざるを得ません。実写に比べて構図や動きに対して、圧倒的なセンスを感じるのはアニメーションの世界で育った作家が当然獲得する特質でしょう。
最近、適当なカメラで垂れ流されるTVドラマを見る気がしないのは、意外にこんな所に原因があるのかもしれません。
「マトリックス」や最近のハリウッド映画は、日本のアニメーションの影響を強く受けていましたが、「カールじいさん」の冒頭は、その先の可能性を感じさせて止みません。