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人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

冷静にウクライナ戦争を眺めてみる・・・ロシアの目的

2022-05-27 04:16:52 | 時事/金融危機

ウクライナの戦闘状況 時事通信より

 

ウクライナの州区分地図

 

■ ドンバス解放と見せかけた戦争? ■

ウクライナ戦争は西側の報道は全くデタラメですが、一方でロシアの報道もどこまで真実か分かりません。

ロシアが戦争に踏み切った理由は「ネオナチに虐殺されてうるドンバス地方(ドネツク州、ルガンスク州)の住人を救うためにネオナチを排除する」というものでした。この2州は2014年のウクライナ騒乱(マイダン革命)以降、ロシア系住人がネオナチ勢力(アゾフ大隊)の軍事攻撃を受け、内戦状態が続いていました。住人達はアゾフによる砲撃を恐れて地下室で寝起きする日々が8年間続きました。

ロシア国内では「同胞を救え」という声が高まる中、プーチン大統領は2月24日にウクライナに侵攻します。実はドンバス地方では2月16日よりロシア系住民に対する攻撃がエスカレートしており、2月25日にはウクライナ軍による総攻撃が開始されるという情報をロシアが掴んでいたとの情報も有ります。総攻撃を阻止する為にプーチンは進軍した。(ロシア寄りの味方ですが)

ロシア進軍の表の理由は「ドンバス地方の2州の分離独立を達成する」事であり、その為に「ウクライナのネオナチを殲滅」する事でした。しかし、ウクライナ戦争のもう一つの目的はウクライナのNATO加盟の阻止です。バイデン政権はウクライナをNATOを前のめりに進める事でロシアに圧力を強めていました。ロシアにとって長い国境線を接するウクライナがNATOに加盟する事は、安全保障上けっして黙認出来るものでは無い。

ここで、上のウクライナの地図を見てみます。ドンバス地方のドネツク州は4番、ルガンスク州は11番ですが、ロシア軍は現在、黒海沿岸の南部の諸州も制圧しつつあります。ドネツク州に隣接するサポリージャ州(7番)、ヘルソン州(20番)はほぼロシア軍が抑えたオデッサ州(14番)まで抑えるとウクライナは「陸封」されますが、ウクライナ軍はヘルソンの西側で必死にロシア軍に抵抗しています。

「プーチンはウクライナの東部と南部を制圧して戦争を終結させ、この地域を「小ロシア共和国」として独立させたい」という噂がネットでは流れています。ロシアの安全保障上、ウクライナを黒海から切り離して、ロシアとの間に軍事的干渉地帯を作る事はあり得る話です。

 

■ ドンバス地方はロシア国民の戦争支持を得る為のエサ ■

いかにプーチンと言えども国民の支持しない戦争を遂行する事は困難です。ロシア国民の7割以上がウクライナ侵攻を支持していますが、それは「同胞を救う」という大義が有るから。

これが仮に「ウクライナのNATO加盟を阻止する為に戦争を始める」と言ったら、ロシア国民は納得したでしょうか。答えはNOです。ウクライナがNATOに加盟する事で軍事的緊張は高まりますが、それによって直ぐに戦争が起きる訳では無いとロシア国民は考えるはず。これでは国民が戦争を支持する理由としては弱い。

ロシア国内では2014年から継続的にアゾフによるドンバス地方のウクライナ住人への攻撃や虐殺が報道されて来ました。ロシア国民は「同胞を救うためにプーチンはウクライナに侵攻すべきだ」という声が高まっていた。

日本も戦前、「鬼畜米英の支配からアジアを開放すべきだ」という国民の声の高まりで戦争に突入しました。当時、日本軍の上層部は戦争に否定的だった。アメリカに勝てない事を理解していたからです。しかし、民主主義では政権は国民の声に逆らえません。当時、朝日、読売、毎日といった大手新聞は連日「戦争すべき」という論調を展開し、国民を戦争へと扇動して行きました。

今回のウクライナ戦争で西側報道が捏造だらけで陰謀論界隈は「プーチン押し」の傾向が在りますが、冷静に考えればプーチンがドンバスの住人の悲劇を利用した事が見えて来ます。

■ 戦争を長引かせたい米露 ■

アメリカは大量の武器支援によってウクライナ戦争を長期化させています。一方でロシアもウクライナ戦争を意図的に長期化させています。

ロシアは初段のミサイル攻撃でウクライナの防空網をある程度潰していますが、しかしミサイル攻撃の規模は、イラク戦争におけるアメリカやNATOに比べると数分の1程度です。本来は敵の航空機を撃ちもらさない為に空港施設などは徹底的に破壊されますが、今回は中途半端な攻撃でウクライナは少数ですが戦闘機を温存している。これがロシア軍の航空機を迎撃したりしています。

この「中途半端な制空権」が理由かは分かりませんが、ロシア軍は地上戦において航空支援を一切していません。本来は制空権を持った側が、敵陣営に爆撃を行って地上戦力を支援しますが、そういうシーンがウクライナ戦争では殆どありません。「ウクライナ人の人命を守る」為に航空爆撃はしていないとする説も有りますが、郊外の戦闘においても航空機支援は殆ど行われていな様です。

一方、アメリカも最新鋭の榴弾砲こそ供与しましたが、戦闘機や多連装ロケットの様な装備の提供は拒否しています。ドイツも戦車の供与を拒否しています。ポーランドは旧式の戦車をウクライナに供与しましたが、見返りにドイツから最新のレオパルト戦車を譲ってもらおうと必死です。(ここら辺のコジキ魂はウクライナに通じる物があります。ポーランドも問題国家の一つ)

表向きは「戦闘の大規模化を避ける」とされていますが、一方でアメリカの軍事シンクタンクなどは「戦闘は長期化する」と発表しており、目的を隠そうともしていません。

長らく陰謀論に親しんだ私の目には、開戦前のバイデンの煽りからして、プーチンとのプロレスにしか見えなかった。バイデンがヨボヨボでプロレスとしての面白さは全くありませんでしたが、バイデンのプーチンへの挑発は、あまりに芝居がかり過ぎていました。

 

■ 既存の経済システムを壊す戦争 ■

ウクライナ戦争の影響は世界経済に強く出ています。

 

1)国際決済システムからロシアを締め出す事で、BRICSが新たなシステムを模索し始めた

2)ガスや原油の支払いにルーブルが使える様になり、ペトロダラー(石油決済通貨)としてのドルの地位が揺らいでいる

3)通貨スワップなど中露の繋がりが強化され、インドもアメリカより中露との繋がりを重視し始めた

4)サウジアラビア、アラブ首長国連邦がアメリカから距離を取り始めた

5)原油価格の高騰により世界的にインフレ率が高まった

6)中国は「コロナ対策」を名目として上海を封鎖し、サプライチェーンを意図的に麻痺させ、供給制約によるインフレを加速させている

 

中露はエネルギーとサプライチェーンの寸断でインフレを作り出していますが、アメリカもロシア制裁を各国に強要する事で、これを後押ししている。インフレの影響は、過剰な金融緩和を行て来た国々では顕著で、低金利に慣れ切った市場は、金利上昇によって大崩壊します。ナスダックのハイテック株が30%程度下落していますが、まだまだ序の口です。リーマンショックが発生するまでに、サブプライム危機から2年程が掛かっています。

■ 世界の警察を止めるアメリカ ■

次なる「バブルの崩壊」が始まると、アメリカは世界の裏側の戦争に首を突っ込む余裕を失うはずです。米国債に圧力が掛かると思われるので、軍事予算がマトモに組めなくなる。

アメリカはウクライナ戦争を使ってヨーロッパの中立国をNATO加盟に追い込んでいますが、これはアメリカがヨーロッパから撤退する準備だと私は見ています。アメリカ無き後のヨーロッパの安全保障の枠組みとしてNATOを強化したいのでしょう。

同様にアジアにおいても、海洋アジア諸国の集団安全保障体制が作られる可能性が高い。インドは中露と上海協力機構の一員で、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パキスタンと協力関係にある。これは軍事同盟の意味合いも持っているので、海洋アジアのグループからは外れるはずです。

日本は韓国やフィリピン、インドネシアやベトナム、オーストラリアと共に、海洋アジアでNATOの様な集団安全保障体制の一員となって行くでしょう。この動きを加速する為に、アジアでウクライナの様な危機が起きる可能性は高い。朝鮮半島有事、台湾有事、尖閣諸島有事・・・材料には事欠きません。

日本もこれからやって来る「世界的な不況」から逃れる事は出来ません。リーマンショックで自民党が政権を失った時と同様に、危機が起きると自民党は議席を減らすハズです。代わりに、軍事的緊張を背景に日本維新の会が大きく議席を伸ばすでしょう。「中露を許さない」という国民の感情は、いつか来た戦争の道へと国民を駆り立てて行くのかも知れません。


MMT的財政政策はインフレ税によてフリーライダーを逃さない

2022-05-01 05:04:00 | 時事/金融危機
 

■ 「悪い金利上昇」と「システムエラー」 ■

「金利は好景気で資金需要が高まると上昇し、不景気で資金需要が低下すると下がる。」と中学の公民で習ったと思います。これは通常の景気循環の中で起こる現象なので、良い事でも悪い事でもありません。市場は「金利の適正水準」を自ら見付ける事が出来る。

しかし、何等かの要因で金融システムや通貨システムの機能が損なわれると、「不景気なのに金利が上昇する」という「スタグルレーション」が発生します。

日本が「石油ショックの狂乱物価(高インフレ)」に見舞われた1970年代、ヨーロッパやアメリカでも同様に原油価格高騰の影響で物価が上昇(インフレ)が発生していましてた。ところが、高度経済成長の最中だった日本とは異なり、欧米諸国は経済成長率が低い状態で物価だけが上昇した。まさに「不景気とインフレが同時進行」する「スタグフレーション」が発生した訳です。

オイルショック時の物価上昇は、国内景気とは関係無く、中東戦争が原因です。これは国内経済のシステムの外側で起きた事なので、国内で金利を上げても、物価上昇を抑制する事は出来ません。原油価格は海外で起きており、更に値上がりの原因が需給バランスでは無く、OPECによる政治的値上げだったから。

これを通貨システムや経済システムの「エラー」と考えるかどうかは意見が分かれると思いますが、当時中央銀行が物価のコントロールの用いていた公定歩合の調整で物価のコントロールが出来ないと言う意味においては「エラー」が発生したと言えます。


■ 「供給側の経済」という新しいシステムを上乗せする ■

各国政府や中央銀行は物価対策の為に、金利を上昇させました。これで不景気にさらに拍車が掛かったので、大量の失業者が生まれました。これに対しては、公共事業の拡大によって雇用を生み出して対処しました。

その結果、「金利の高い状況で、各国の国債発行残高が拡大」してゆきました。不景気で税収は限られているので、赤字国債を発行して不足分を補いますが、「高い金利」が経済の回復を阻むと同時に、財政の金利負担を増大させて行きます。

そこで、現在の「主流派経済学者」と呼ばれる人達が、新しいシステムを提案します。「中央銀行に通貨発行を増大させながら、財政出動は最小限にすれば、市場は自ら金利の最適点を見つけ出す」と彼らは主張した。通貨供給側で経済をコントロールする事から「供給サイドの経済学」などと呼ばれます。(「マネタリズム」や「新自由主義」、「シカゴ学派」などと呼ばれる事も)

当時は「ブードゥー(まじない)経済学」などと揶揄されましたが、インフレ率も落ち着き、各国財政も縮小したので、「供給サイドの経済学」は正しい金融政策として認識されました。


■ 「金融の自由化」が資金を吸収していた ■

「供給サイド」の金融政策が実施されるのと並行して、「金融の自由化」も実行されます。アメリカでは世界大恐慌の教訓から「グラススティーガル法」によって商業銀行(融資業務)と投資銀行(投資業務)が明確に分離されていましたが、この垣根が徐々に取り払われて行きます。

同時に「証券化」や「デリバティブ(金融派生商品)」の開発が進み、「金融市場」が巨大化し、巨額の資金需要を生む様になります。

「供給サイド」の経済学によって正当化された「中央銀行のよる過剰な資金供給」を、「金融市場」は貪欲に吸収して肥大化して行きました。一方で、実体経済で流通する資金は供給量に対して過剰にはならないので、物価は安定的に推移し、「供給サイドの経済学」の正しさが証明されたかの様に見えた・・・。


■ 10年周期のバブルを繰り返す「供給サイドの経済学」 ■

一見、上手く機能しているかに見えた「供給サイドの経済学」ですが、アメリカでは10年周期でバブルの生成と崩壊を繰り返す事になります。

1980年代  商業不動産バブル
1990年代  ITバブル
2000年代  住宅バブル・債権バブル

バブルは凡そ10年を掛けて膨らみ、その後一気に崩壊しました。結果的に民間が債務超過に陥るので、「過剰な金融緩和」が行われ、再びバブルが膨らみ始めます。

サマーズはこの現象を「成長の限界に達した経済では、バブルがイノベーションを生み出して経済を成長させて来た」と肯定的に捉えていますが、リーマンショックによって、バブル崩壊は経済システムのみならず通貨システムも破壊しかけます。

「供給サイドの経済」では「通貨の過剰供給」が常態的に発生するので、バブルが発生し易いのですが、バブルは実体経済の外側(資産市場)で拡大するので、中央銀行が金融政策のバロメーターとしている「過剰な物価上昇」が顕著に観測出来ません。結果的に中央銀行はバブルの拡大を防ぐ事が出来ない。

グリーンスパン元FRB議長は「バブルは弾けて初めてバブルだと分かる」と無責任は発現をしていますが、実は「供給サイドの経済学」の限界を認めた発言とも取れます。


■ 「過激な通貨供給」によって実質金利を下げると主張した「リフレ派」 ■

リーマンショックの教訓によって、「供給サイドの経済」に疑問が持たれる様になります。各国の実態経済も深く傷つき、失業者も増加してしまったからです。

ここで登場して来たのがクルーグマンなどの「修正ケインズ主義者」です。彼らは「資金供給のさらなる拡大によって実質金利をゼロ(或いはゼロ以下)にすれば、景気は回復する」と主張します。これを一般的には「リフレ政策」と呼びます。

実際には「2%の安定的インフレ率の実現まで中央銀行は通貨供給を続ける」と宣言し、且つ実行するというのが彼らの手法です。

当時のFRB議長のバーナンキの「ヘリコプターからお金をばら撒け」と発言するなど、リフレ派は「過激な通貨供給」が景気を回復させると主張します。

結果は一時的にリーマンショックの不景気からの回復は達成したかに見えましたが、結局はさらに大きなバブルを作り出し、2018年中頃には、市場は不安定化し始めた。


■ 「政府は財政破綻を気にする事無く国債を発行できる」と主張するMMT派 ■

リフレ政策では、さらなるバブルを生み出しても、実体経済の成長率は限定的にしか達成されませんでした。リフレ派の失敗はほぼ明白でしたが、コロナ騒動がウヤムヤにしてしまいました。

一方で、コロナ騒動で世界経済がストップしてしまったので、緊急処置として、さらに過激な金融政策が実行されました。

アメリカは金融機関から大量の債権などを買い入れて、短期間に2兆ドルを市場に供給しました。日本も100兆円を投入します。同時に、未担保で大量の資金を企業に提供する様に金融機関をバックアップした。

各国政府は国債を大量発行して、直接国民のお金を配る政策を実施します。これで勢い着いたのがMMT派と呼ばれる?人達です。

MMT(現代貨幣論)を簡単に説明すれば次の通りです。

1)政府が国債を発行する
2)企業が公共事業などの代金として政府から小切手を受け取る
3)企業が小切手を銀行に持ち込み現金を受け取る
4)銀行が小切手を日銀に持ち込み現金を受け取る

要は「政府が国債を発行する事でお金が生まれる」と彼らは説明します。これは全く間違いではありません。現金と国債が同額残ります。

MMT派の方々は「金利が低い限り政府はいくらでも国債発行によってお金を作る事が出来る」と説きます。これも間違いではありません。

実際には作り出されたお金の殆どが、資産市場にプールされているか、日銀当座預金のブタ積されて、実体経済には回っていないので、物価上昇は限定的でした。インフレ率が上昇しなければ、国民に不満は起こりません。


■ 再び「外的要因によるシステムエラー」が起きる ■

ここまで、オイルショック以来、様々な要因によって「お金が増え続けた」経緯をたどって来ました。

さて、ここで話を冒頭に戻します。

現代の状況は1970年代のオイルショックの時期に良く似ています。

1)コロナにより各国が財政を急拡大させた
2)中央銀行が長期間緩和的な金融政策を継続して市場がバブル化している
3)原油価格の高騰や、コロナによる供給不足でインフレ率が急激に高まっている

3)の状況は「外的要因によるシステムエラー」に相当します。金融政策では対処できません。

今、アメリカではインフレ率が8%を超えています。FRBは後手に周りながらも利上げと量的緩和の縮小(資金を回収する)政策に切り替えました。

インフレ率が上昇する中で、政府は支出を増やす事は出来ません。インフレが加速するからです。

結果的に、金融市場の資金は確実に縮小するので、どこかの時点でバブルが崩壊する・・。これで不景気が進行すれば、再びバブルのサイクルが繰り返されると考える人は楽天的です。普通の人は、「現在の通貨システムでは、バブルは何度も発生して、その都度、経済の被害は拡大する」と考えます。


■ 「自国通貨建ての内国債」を発行する日本は特別か? ■

金利が上昇する局面で、米国債の需給にかなり歪が出る事は疑う余地は有りません。「ヤバイ」となれば、一斉に「米国債売り」が発生して、米国債金利が急上昇します。

一方、「日本では国債暴落は起こらない」とコメント欄にいくつかコメントを頂いています。(一つ一つに丁寧に返答せずに申し訳ありません)

1)日本の金利は現状低いので、金融機関は慌てて国債を手放す必要は無い
2)日銀が国債を粛々と買い入れているので、金融機関は粛々と新発債を買って日銀の売るだけ
3)国債は元本と利息が保証されているので、売らなくても満期保有でもリスクは無い
4)国債は円建てなので、国内金融機関は円安の影響を考慮する必要は無い

私もこれは正しいと思います。但し、「市場が十分に理性的」である限りにおいては・・・。

先日、インフレ率が0.25%になった時(アメリカに比べれば雀の涙の様な金利)、日銀は長期国債の指値オペを実施しました。「〇〇の金利で国債を無制限に買い入れる」という政策です。

これは、インフレ率の上昇によって長期金利の上昇を予測した金融機関が、手持ちの金利の低い長期国債を大量に売ると日銀が予想した事を裏付けています。

銀行は担保として保有する以上の日本国債を保有していますが、帳簿上は「時価」で評価されます。手持ち国債の金利が将来上昇する(国債価格の時価は下がる)と予想した場合、値下がり確実の国債を保有していると、「評価損」が発生します。この規模が有る程度以上拡大すると、銀行のバランスシートで損失が膨らみます。

「国債を満期保有すれば良い」という意見は、国債のディーリングの実態からかけ離れています。担当者は損失を最小限にしなければ首が飛び、経営者も責任を問われるからです。但し、法改正によって銀行の保有する国債を全て「簿価評価」にすれば、国債の投げ売りは防げるでしょう。

これが「日本の国債は内国際だから大丈夫」という裏付け?となっています。

一方、外国人投資家は、利益はドルなどにして最終的には回収しなければならないので、円安の進行と、国債金利の上昇(既発国債の市場価格の低下)は看過できません。出来るだけ速やかに日本国債を売り抜けたいと考えます。

ただ、外国人投資家の保有量の比率が低いので、この売りで国債市場が暴落する事は無いでしょう。無限の資金力を持つ日銀が、粛々と買えば良いのです。

問題は先物市場で、ここにおける外国人投資家の存在感は高い。しかし、先物市場に日本の金融機関が過敏に反応しなければ、先物市場を使った日本国債の暴落は難しい。実施にウィール街では日本国債売りを「ウィードォー・メーカー(後家作り)」と呼ばれています。売りを仕掛けて失敗したディラーが飛び降り自殺をするからです。(日本人は電車に飛び込みますが、外人はビルから飛び降りるスタイルがポピュラー)

「市場」としてはかなり「チート」ですが、日銀というチートプレーヤーの存在によって、日本国債市場(中古・既発国債)は、かなり耐性が強いと言えます。

国債価格の下落による日銀の債務超過も無視できます。満期保有にすれば「簿価評価」しても構わないからです。いざとなれば、簿価評価に法改正すれば良い。


■ 新発の日本国債は金利上昇に耐えられるか? ■

既発の日本国債は、金利上昇局面で大量売りが発生しても、日本銀行が全て買い入れるので、パニックによる暴落は起こり難い構造です。

では新発債はどうでしょう。

新発債の金利の影響には二種類あります。

1)インフレ率を反映した新発債の金利上昇
2)新発債、借り換え債金利の上昇による財政の圧迫

1)に関しては現状の日銀スキームで対応出来ます。金融機関が暗黙の了解で新発債を買い入れて、それを日銀に売れば、金利リスクは回避できます。日銀はほんの少し高めの額で国債を買うだけで良い。

問題は2)で、日本の国債金利が3%程度になると、新発債と借換債の利払い費が財政を圧迫します。当然、赤字国債(新発債)の発行も増えるので、金利支払いの為に国債を増発するという悪循環が拡大して、財政が急拡大する事になります。これを「財政破綻」と一般的には呼びます。

「どうなったら財政破綻なのか」とツッコまれると思うので、「国民生活に大きな支障を生じたら」とファジーに答えておきます。

例えば、公共サービスが極端に減少したり、年金が大幅に減らされたりする様なら、一般的には財政破綻と見なされるでしょう。


新発国債の金利上昇を抑える手段として、新発国債の金利を市場金利から切り離す方法も可能でしょう。銀行は国債を買って、それ同等かそれい以上の金額で、日銀の売却すれば良いのですから、ゼロ金利の国債を発行し続ける事も可能です。


・・・・だけど、これは、財政法で禁じられている「中央銀行による国債の直接買い入れ」と何ら変わりません。これを世界はどう見るのか・・・「アカラサマな財政ファイナンス」と判断すれば、為替市場で円が売られ、円安が私達の生活を破壊します。


何も珍しい話ではありません。多くの国で、何度も、財政破綻によって通貨は暴落していますら。



長々と書きましたが、2013年の三橋貴明氏を批判した記事を、丁寧に書き直しただけです。当時はリフレ派が、現在はMMT派が「財政拡大は可能」と主張していますが・・・反論は「通貨の価値の意図的な棄損」は「インフレ税」として、結局私達の資産価値を減少させるので、フリーライダーは存在しないというのが私の結論。



再録 三橋貴明には気をつけろ・・・「日本はこんなもんじゃない」という幻想

2022-04-26 04:59:00 | 時事/金融危機
 
 リフレ論が花盛りの頃の2013年に書いた記事ですが、鍛冶屋。さんや、ただの通りすがりさんへのコメントにお答えしながら、書いている事が何ら変わらいなと・・・。

私が成長していないんですかね・・・。



「三橋貴明には気をつけろ・・・「日本はこんなもんじゃない」という幻想」
「人力でGO」2013.06.18の



■ 経済論では無く、「日本は韓国や中国より優れている」と証明したいだけ ■

三橋氏は、「韓国経済崩壊論」でネットから登場した人物です。

彼は経済学者では無く、中小企業診断士が本業の様ですが、
実は「三橋貴明」というのはペンネームなんだそです。

彼の「経済論」の目的は、「日本は韓国や中国より優れている」と証明する事の様に思えます。
それが、長引く景気低迷で悲観的になっている若者の心に希望を植え付けるのでしょう。
同時に、ネトウヨ的な現在の風潮にシンクロして支持を拡大します。

経済学者や経済を専門に学んだ人達は、議論がかみ合わないので無視していますが、
安倍総理に影響を与えている事などを考えると、彼の影響力は小さくはありません。
むしろ、ネットでの支持は高く、政治に興味の無かった若者を自民党支持者にしています。

■ 経済学の美味しい所をツマミ食いする合成経済学 ■

彼の「経済学?」は、現存の経済学の美味しい所を合成して出来上がっていますが、
都合の悪い所は、あえて無視する事によって独特の体系を作り上げています。

その最たる物が、「自国通貨建ての内国債は破綻しない」というものですが、
高率のインフレを「破綻では無い」とする事のスリカエでしかありあません。

国家や中央銀行は国民に対して責任を負う立場にあるので、
通貨や国債の信用を失う政策は普通は取りません。

しかし、政治家や政党は人気取りの為に、大衆迎合の政策に陥りがちで、
国債を増発したり、通貨を大量に発行して古来より財政破綻を繰り返しています。

その反省の元に、現在の中央銀行制度は成り立っており、
政府から独立して通貨を管理する事で、通貨の信用が損なわれる事を防いでいます。

現在の世界の経済は密接に絡み合っているので、
ドルかユーロか円のいずれかが崩壊しても、
世界経済はパニックに陥り、通貨が紙でしか無い事が急激に意識されます。

ですから、IMFは各国の財政状況や債務残高に口出ししますし、
通貨の信用を軽視する国は、徹底的に糾弾され、市場ではその国の通貨が暴落します。

■ ケインズが天国で嘆いている ■

三橋氏に限らず、リーマンショック以降、クルーグマンなどケインズ派が復活しています。

ケインズは「不況に際しては国家が財政出動して景気を下支えするべきだ」と主張し、
実際に世界恐慌の時には、アメリカではニューディール政策が実行されました。

ケインズ経済学は戦後も主流派でしたが、
各国の財政赤字が拡大した事で、だんだんと新古典派に主流の座を明け渡して行きます。

新古典派、特にシカゴ学派は、「市場原理を重んじる事で、経済は自律的に成長して行く」と主張し、
アメリカやイギリスでは金融革命という名の下に、様々な規制が撤廃されて行きます。
その結果、市場は不必要なまでに拡大し、自己崩壊を起します。
これが、リーマンショックです。

シカゴ学派の生み出した金融革命が失敗に終わると、
ケインズ派が再び台頭してきます。
「中央銀行に大量の通過を供給させて崩壊を防げ」と主張します。
さらに「政府は需要創出の為に財政を拡大しろ」という主張も高まります。

しかし、ケインズ政策の行き着く先にケインズは自覚的です。
結局破綻する事を彼は知っています。

だから彼は「アニマルスピリット」に期待し、
野心によるイノベーションが経済を活性化させると述べたのでしょう。
ですから、規制緩和や構造改革の元祖もケインズだと言えます。

■ アニマルスピリットをあえて無視する三橋経済論 ■

三橋貴明氏の経済論の不自然な所は、市場原理を軽視しているところです。

1) 日本国債の保有者は日本の金融機関だから、
   日本国債の金利が上昇しても日本国債の投売りは発生しない。

2) 世界経済の危機が深刻化したら、安全資産として日本国債が買われる

3) 金融危機が発生したら、景気が後退するのだから国債金利は低下する

三橋氏の主張は、ある意味において常識的です。
しかし、一方で想定外の危機を無視しています。

ケインズの言う所のアニマルスピリットは、人の欲望が経済の不安定化の要因で、
アニマルスピリットによって、非合理激な決断が為される事がるというものです。

アニマルスピリットが無ければ、経済は縮小し活力を失いますが、
アニマルスピリットが時として経済に回復不能なダメージを生み出します。

市場参加者は、普段は「日本国債は安全だ」と判断しています。
しかし、異次元緩和で混乱が発生した様に、
需給バランスが崩れる様な事態が発生すれば「日本国債は危険だ」と判断するはずです。

国債市場で巨額の資金を運用する担当者は、
金利が上昇し始めれば、損失が拡大するので、どこかの時点で国債を売却せざるを得ません。
本当は皆が売らなければ、金利上昇も抑制されますが、
市場を恐怖が支配すると、個人の合理性が優先され、合成の誤謬が発生します。

「誰かが売り抜けたら、自分が損失を被る」・・・これが市場原理です。

三橋氏が「日本国債は破綻しない」と主張する背景には、
危機に際しても、日本国債の市場参加者達は、市場にとっての合理的判断を下し、
個人の合理性を抑制出来ると信じているのです。

はたして「自国通貨建ての内国債」は崩壊しないのか、
私は日本国債市場で実際に運用を担当されている方に伺ってみたいと思います。

尤も、実際の運用は、もっとテクニカルな理論に基づいていて、
現状は「暴落」などというリスクは想定外なのでしょうが・・・。


■ いざとなったら日銀が日本国債を全部買えば良い ■

三橋氏は「日本国債が暴落したら日銀が全量買い取れば良い」と言っています。

1) 日銀の金利収入は国庫に返納される
2) 政府が国債を発行して、日銀が引き受ければ事実上国債金利は発生しない
3) 財政が拡大したら、その分日銀が引き受ければ良い

確かにその通りなのですが、これは政府通貨と同じ事になり、
政府が経済規模に応じて通貨を直接発行する事と何ら変わりありません。

「実は政府通貨が何故いけないのか?」という疑問に、誰も正しい解答は出来ないと思います。
政府が十分に自制的であるならば、通貨の不必要な増刷も避けられるはずです。
もし、政府通貨が許されるのであれば、政府は財政赤字を気にせずに、
必要と思われる量の通貨を自分で発行して、公共事業を推進する事も出来ます。

しかし、実際の世の中では、政府通貨は通貨システム最大のタブーとされています。
政府が勝手に通貨を発行したら、民主主義の元では人気取りの為に
政府は財政を拡大してばら撒きを続け、結局はインフレを招くとされています。

同時に、国内の通過量がどんどん増えて行くので、為替が下落します。
これも輸入価格の高騰を招き、結局はインフレを助長します。

実際にジンバブエなどはこのケースに近く、
自国通貨建ての内国債を大量に発行してそれを中央銀行がファイナンスしています。
その結果がどうなったかと言えば、ハイパーインフレが発生しています。

三橋氏は日本は供給力が有り余っているのだからインフレは発生しないと主張します。
しかし、日銀が国債を直接引き受けたと市場が判断すれば、
将来的なインフレを予測して、金融機関は手持ちの国債を手放そうと必死になります。
金利が極端に低い国債を保有し続けていては、金利上昇局面で損失が拡大するからです。

かくして、日銀が銀行などが保有する国債も市場から買い上げる事になり、
市場に一気に円があふれ帰ります。

この状況を見て国民は判断するでしょう?
私なら、預金を引き出して、現物で価値を保存しようとします。
皆が同じ行動に出ると思われるので、銀行はシャッターを開ける事が出来なくなります。
所謂、「取り付け騒ぎ」が発生し、預金封鎖が実行されるでしょう。

「日本国債が暴落したら日銀が全量買い取れば良い」などという発言は、
責任ある大人の発言とは思えません・・・。

これを口に出来るのは、「中央銀行制度はロスチャのシステムだから破壊しろ」と主張する
ちょっと頭のネジの緩んだ、私の様な陰謀論者だけです・・・。
あるいは、ロン・ポールの様な、過激なリバタリアンでしょう。

■ 高橋是清の政策を理解していない三橋貴明 ■

「昭和恐慌の際には高橋是清が日銀に日本国債を直接買い取らせたがハイパーインフレは起きていない」

これも三橋氏がよく使う言葉です。

1) 当時の国際市場は未発達だった
2) 日銀は買い取った国債を、再び売却してインフレを抑制していた。

この事実は無視です。

現在の日本国債市場は規模も大きく、取引も活発です。
日銀が日本国債を直接買い取ったら、
日本国債市場は瞬時に反応して暴落します。

尤も、国債市場が暴落した後に日銀の全量買取に進むので、
既に、この時点で、日本国債市場は存在意義を失っています。


■ 少子高齢化は低迷の原因では無いのか? ■


三橋氏は日本のデフレの原因は、緊縮財政に原因があると声高に叫びます。
少子高齢化で経済は縮小しないと主張します。

日本国債はどんなに発行しても暴落しないと主張しているので、
財政だって、必要なだけ拡大しても構わないというのが彼の主張です。

しかし、少子高齢化の日本では、労働者が減少し、高齢者が増加するのですから、
財政負担は何もしなくても拡大し、プライマリーバランスは悪化します。
納税者が減り、年金需給者や福祉の対象者が増えるのですから当然です。

三橋氏が良く引き合いに出すクルーグマンですら、
「日本の人口動態は酷い」と言っていま。

三橋氏の主張は、財政を拡大して、日本経済を成長軌道に乗せれば
税収も増加して、プライマリーバランスは改善するというものです。

間違ってはないなのですが、費用対効果の認識が欠落しています。
国土強靭化などで公共事業が増発された場合、
一度動き出した巨大事業は10年くらいは継続されます。

もし、財政を拡大しても名目GDPが拡大分しか増加しなければ、
その効果は一過性で、後には財政赤字と、
メンテナンスコストが掛かる不要なインフラが残されます。

高齢化の進行する日本で、これ以上のインフラは不要です。
むしろ、財政的には既存のインフラのメンテナンスで手一杯になります。

■ ストックがある内に作っておこう ■

一方、考え様によっては、財政拡大余力がある内に、将来の為のインフラを整備しておこう・・
こういう考え方も正しいと思います。

しかし、これは財政破綻を前提にした考え方です。
今の内に作っちゃって、財政破綻の高インフレで支払いはチャラ・・・・。

しかし、それにしたって、作るべきものは、将来の日本の発展に寄与する
都市部のインフラの強化が主体であるべきで、
海岸線を津波防止の高い防波堤で固めて、日本の景観を損なう事業であるはずがありません。

そんな物を作るくらいなら、津波襲来時の非難訓練を徹底したり、
非常用備蓄に予算を回す方が効果的です。
防波堤が整備される前に津波が襲う可能性もあり、
あるいは、防波堤が一部だけ整備された時点で、財政破綻を迎えるかも知れません。

スーパー堤防と同じ運命を歩むのは明確です。

■ 「国民の為」という欺瞞 ■

三橋氏は「国民の為」という表現も良く使います。
だいたい、こういう事を言う人物は、政治家同様に信用がなりません。

「国民の為」と軽がるしく口にする人物の主張は、
メリットだけが強調され、デメリットやリスクが過小に評価されています。

政府が財政を拡大しても、将来的な税収の増加でバランスする・・・・。

財政拡大に現在の私達の懐は痛みません。
しかし、将来の税金は誰が払うのでしょう?
思った様に税収が伸びない場合は、増税が待ち受けています。

「今の君たちに利益があるのだから」というタダ乗りの理論は、大衆受けします。

■ 「日本の実力はこんなもんじゃない」という洗脳 ■

三橋氏が若者の支持を集める最大のポイントは、
「日本の実力はこんなものでは無い」という若者の自尊心をくすぐる言葉です。

製造業で韓国や中国に押され、20年以上も不景気の底に沈む日本で、
若者は失望の内に暮らしています。

そこに救世主が現れ「おまえ達はもっと出来る子だよ」と甘言を弄しているのです。
「中国や韓国は見かけだけで、本当にすごいのは日本人だよ」と囁きます。

最近のネトウヨの深層心理に見事に迎合する事で、三橋氏の支持は拡大しています。

■ 日露戦争前や第二次大戦前と似ている ■

現代の「経済宗教」である三橋教の雰囲気は、
日露戦争や第二次体制前の一部の言論に良く似ています。

そして、朝日新聞などが国民を煽った様に、三橋氏も若者を煽ります。
この雰囲気は非常に危険なものを感じます。

安倍総理は、彼に参議院選挙に立候補する様に要請したそうです。
三橋氏は断った様ですが・・・。

■ 個人のブログで個人を攻撃するのは好ましく無いが・・・ ■

基本的に個人のブログで個人の実名を挙げて攻撃する事は好ましくありません。
特に、匿名ブログであるだけに、卑怯とも言えます。

しかし、三橋氏は一種の「言論人」ですから、批判を受けるのは当然とも言えます。
批判に対して「抗弁」で対抗するのが「言論」であり、
本来、彼が「経済学」を批判するならば、それなりの「経済学者」が相手をすべきなのです。

しかし、あまりにも意見がかみ合わないのと、狂犬に触れると噛み付かれるので、
多くの経済学者は三橋氏を無視しています。

しかし、彼が多くの若者の支持を集め、安倍総理の信頼を得ているのなら、
その影響力を過小評価するのは危険だと思います。

池田信夫氏は、三橋氏を批判し始めましたが、
そろそろ、きちんとした経済学者が、批判を展開しても良い頃かと思います。

尤も、狂信者達は、それをも糧として信仰を深めてしまうのでしょう。


ケインズがあの世であきれています・・・。


最後に三橋貴明批判をブログで展開されている「meguのブログ」さんが痛快です。
三橋氏がリフレ論の根拠とする高橋是清についても詳しく調べていらっしゃいます。

http://megu777.blogspot.jp/2013/01/vs.html

少々、市場を妄信しすぎている感じもありますが、
まあ、経済を専門に勉強されている方からすると、
三橋氏の言説は相当頭に来るのかも知れません。


私はトンデモ論が好きですから、三橋氏の隠れファンではありますが・・・・。
この間、本も買っちゃたし・・・
でも直ぐにブックオフで売ったら100円にしかならなかった・・。

「モスクワ」撃沈・・・戦争を長期化したいのは誰か?

2022-04-16 05:12:00 | 時事/金融危機
 

■ 「ネプチューン」ミサイルが変えた戦況 ■

レーダー網を破壊されたウクライナが、黒海上のロシアのミサイル巡洋艦「モスクワ」は破壊した事に最初違和感を覚えていました。NATOがポーランド国境近くで哨戒機を飛行させてウクライナ全土の状況を凡そ把握しているので、「モスクワ」の位置情報はウクライナも掴んでいたハズですが、はたして座標情報だけで300km近く離れた目標を対艦ミサイルは破壊出来るのか?

ウクライナが発射した対艦ミサイル「ネプチューン」はソ連製ですが、ウクライナは電装系を独自にアップデートしている様です。座標入力で標的に近付き、衛星情報で補正が出来、最後はミサイル自身の照準能力で艦船に命中させるシステムだとか。有効射程は300km。強力な海軍を持たないウクライナは、このミサイルを輸送車に乗せて、陸上から運用しているそうです。

当日の黒海は荒天で、衛星からのコントロールがどの程度可能だったかは不明ですが、ウクライナ軍は偵察機をロシアの艦隊の周囲に飛行させていた様なので、これにより正確な照準が可能だったのかも知れません。

フォークランド紛争の時にも、アルゼンチン軍が発射したフランス製のエグゾセミサイルがイギリスの艦船を撃沈していますが、分厚い鋼板の装甲を持つ軍用艦も、水面ギリギリを飛行して喫水線近くに命中する対艦ミサイルの攻撃には弱い様です。

当然、標的となる艦船側も迎撃ミサイルや自動照準の機関砲などを装備していますが、不意の攻撃には弱い。「モスクワ」は黒海艦隊の旗艦ですが、古い艦艇なので、防空レーダーの役割を担っていた様で、迎撃システムが最新のものでは無かったのかも知れません。

仮に、「モスクワ」を撃沈したのがウクライナが発射した「ネプチューン」だとすると、黒海のロシア艦隊は、不用意にウクライナ領に近づく事が出来なくなり、東部戦線にも影響が出ます。艦砲射撃は、ミサイルなど、洋上からの支援が難しくなります。黒海は閉じた海で、トルコのイスタンブールの狭い海峡で地中海に繋がっています。トルコが海峡封鎖をしているので、ロシアは「モスクワ」に変わる艦船を黒海に入れる事が出来ませんし、入れた所で、ミサイルの標的とされるので、ウクライナにあまり近づけず有効には運用出来ません。

さらにイギリスは対艦ミサイルのハプーンをウクライナに供与すると、先日ジョンソン首相がウクライナに約束しています。ハプーンの有効射程は長くはないものの、沿岸に近づくロシア艦艇の牽制には有効です。


■ 「何故今頃?」という違和感 ■

ロシアは「モスクワ」が火災によって弾薬庫が爆発して沈没したと発表していますが、キエフ均衡の対艦ミサイル工場を、巡行ミサイルで破壊した事から、今回はウクライナの発表が正しい様です。

問題は「何故、今頃になって対艦ミサイルを発射したか」という点。現代戦は戦争初期に相手のレーダー網と防空戦力を潰す事が重要です。ロシア軍は、初撃でのミサイル攻撃でウクライナのこれらの施設を潰しています。

対抗する為に、ウクライナもロシアのレーダー設備などを破壊すれば良いのですが、ロシア領内の施設は攻撃し難い。これは技術的にというよりも、ロシア本土を攻撃すると、ロシアの反撃が10倍返しになる可能性が高いという精神的な障壁。

同様に黒海艦隊もウクライナ領海に侵入していなければ、ウクライナとしては攻撃し難い。メンツを潰されたロシアの反撃が怖いからです。

そもそもウクライナ正規軍は、ロシア軍との正面戦闘を避けていまいた。キエフ周辺でも、ロシア軍は道路に装甲車や戦車を長々と車列を組んで停車させたままで、ウクライナ軍の攻撃を全く想定していない様子でした。攻撃して来るのはアゾフ軍で、ドローンでチョッカイを出す程。度欧米諸国が提供した大量の対戦車兵器(ジャベリン)が有効に使われた様にも思えません。ウクライナ正規軍とロシア軍は戦争をする振りをしているだけに近かった。


ところが、昨日、ウクライナはロシア領内をヘリコプターなどで攻撃した様ですし、今頃になって「ロシアを本気で怒らせる作戦」を始めた。

ロシアとウクライナの停戦協議は大筋の合意に至っており、クリミアの領有問題などでウクライナが妥協すれば、即刻停戦が可能な状況です。ロシア軍はキエフ周辺や北部から軍を撤退しており、一方、東南部のドネツクでは、ほぼウクライナ軍(アゾフ連帯)を一掃し、ウクライナ軍は東部奪還の掛け声だけで、具体的な増援やアゾフの救出作戦は実行していません。マリウポリのウクライナ正規軍は、生き残りはほとんどロシア軍に投降しています。

ほぼ、戦況が落ち着いて東部でロシア軍の勝利が確定した今、ウクライナがロシアを激怒させるであろう「モスクワ」やロシア領内への攻撃をしたのは何故か?

■ 停戦させたく無い誰か ■

ウクライナ戦争はアメリカがロシアに仕掛けた戦争です。この戦争でアメリカは自分の手を汚さずに、ロシアを悪者に仕立て上げ、ガスの供給を不安定にする事で、ヨーロッパ諸国を間接的に経済攻撃しています。(ギリシャ危機など、ドルに圧力が掛かる時にアメリカはユーロを攻撃する)

アメリカはゼレンスキーに停戦合意をするなと命令している様ですが、アゾフ連帯が壊滅状態の今、ウクライナ国内で停戦に反対する勢力は少なくなっているハズです。戦争が長引くと、ウクライナ国民も「そろそろ停戦」という気運になって来ます。


そこで、アメリカはウクライナ軍に影響力を発揮して、黒海艦隊を攻撃させ、ロシア領内も攻撃させたのでは無いか。この攻撃にゼレンスキーがどの程度関与しているかは分かりませんが・・・。


一方、ロシアは現実的な脅威の排除としてキエフ均衡にあるウクライナ軍のミサイル工場は巡行ミサイルで破壊しましたが、キエフやその他の都市を無差別に攻撃する様な事はしていません。「キエフを攻撃するぞ!!」と脅してはいますが。ロシアはあくまでも冷静に対処して、停戦に持ち込みたいのでしょう。


問題は、ウクライナが今回の様な「挑発行為」をエスカレートさせそうだという点。特にロシア領内への攻撃を頻繁に行う様になると、プーチンも我慢の限界がやって来ます。ブチ切れたら、キエフにミサイルの雨が降るでしょう。


■ ウクライナ正規軍の攻撃に見えるが・・・ ■


ウクライナ戦争ではロシア軍は我慢に我慢を重ねて来ました。マリウポリではアゾフ軍が住民うを地下室に閉じ込めて地下室の入り口を破壊するなど、「人間の盾」が目に余る状況でした。これをロシア軍は救出しながら戦っていた。当然、住民が残っている地域での空爆はしていません。

一方、アゾフ軍は元々、ドネツクを攻撃してロシア系住人を殺戮する予定でしたがから、住人が居ようが居まいが、ロシア軍と交戦するという名目で街に砲弾を撃ち込み続けた。マリウポリの住人の多くが「攻撃して来るのはウクライナ軍(アゾフ連帯)」だと証言しています。「町の85%はウクライナ軍の攻撃で破壊された」と言う住人も居ます。

実際に、ウクライナ軍は、トーチカUというミサイルをドネツクの街に打ち込んで「ロシア軍が駅を攻撃した」などと宣伝しています。

トーチカUは旧ソ連製のミサイルで、現在ロシア軍は運用されていません。ロシアはミサイルの残骸のロット番号から、ウクライナ軍のどの部隊に配備されたミサイルだたかを発表しています。

ブチャの街で白い布を巻いた親ロシア系の住民を虐殺したのも、ネオナチ勢力でしょう。


ウクライナ戦争はこれまで、調子に乗ったネオナチと、ロシア軍がガチで戦闘をしているだけで、ウクライナ正規軍は東部でネオナチに道連れで戦闘に巻き込まれていた感じがしていました。

しかし、今回の対艦ミサイル攻撃や、ロシア領内へのヘリコプターによる攻撃は、正規軍の攻撃だと考えて間違い無いでしょう。これが一部軍の独断の行動なのか、ウクライナ軍の総意なのかによって、今後の戦局が大きく変わって来ます。


今まで、ロシア軍は「書かなくても良いZの文字」を戦車や装甲車に書き込んで、「悪役」のイメージ作りをして来ました。(迷彩を施した戦闘車両を目立たせる意味って有ります?)

これはナチスの鍵十字同様に、Zを見ただけで「ロシア嫌悪」の意識を高める事に役立っていました。ロシアは実際のウクライナの被害以上に悪役のイメージを西側諸国の人々に植え付ける事に成功していた。そうする事で、ウクライナの人的被害を限定的にしながら、戦争の本当に目的(ドル離れ)を達成しつつあった。ウクライナ軍との間にも「阿吽の呼吸」の様なものが存在していた・・・。今回の攻撃は、この努力を無にした可能性が有る。



ロシア軍が、本気になったら・・・キエフは火の海となる。
・・・・そうならない事を心より祈ります。


<追記>

今回の様にたった一発(二発ですが)のミサイルが戦況を大きく変える現代において、ウクライナがNATOに加盟して、そこに核ミサイルが配備される意味を、日本の多くの人は全く分かっていません。

ロシアと大きく国境を接するフィンランド、そしてスエーデンは、仮想敵国はロシアでありながら、第二次世界大戦以降、「中立」を貫いてきた。これらの国がNATOに加盟するとロシアを過剰に刺激する事を、国民も理解していたからです。しかし、ウクライナ戦争を見て、フィンランドもスエーデンも国民がNATO加盟を望んでいます。(これらの国はウクライナのアゾフ程クレージーで無いので、ロシアは不機嫌にはなりますが攻撃はしないでしょうが・・・)

海にぽっかり浮かび、どの国とも国境線を接していない日本人は、この様な「ヒリヒリした国家間の緊張感」に鈍感です。当然、今回プーチンが戦争に踏み切った理由も理解出来ません。そんな日本人に是非見て頂きたいアニメがあります。



2012年に放映された『ヨルムンガンド』 武器商人の暗躍を描く作品ですが、1話と2話はウクライナが舞台でしょう。

第一話は、ミグ29のアップデートパック3機分を購入しようとする軍と、それを阻止しようとする警察。隣国(ロシア)との軍事バランスが崩れてウクライナ?が挑発的な行動に出るのではないかと警察は警戒しています。

2話はウクライナのパイプラインの利権を巡る紛争の話。パイプラインを巡りロシア軍とウクライナ部隊の間で非公式の紛争が起きているという設定。紛争の実態が外部に漏れない様にウクライナ軍は峠で住人やジャーナリストを殺しています。ウクライナ部隊に強要される形で武器商人が防空レーダーの調達を依頼されますが、現地に届いたのは地対空ミサイル。これによりロシア軍の攻撃は途端に止みます。パイプラインを占拠するウクライナ部隊は正義の為に戦っているのでは無く目的はガス利権というのが如何にもという感じ。(ウクライナと書いちゃってますが「多分ウクライナ」作中では架空の国名です)

話としてはなんとも切なく後味の悪い4話が印象に残る。(3-4話が連続)

軍事増強が紛争を集結させる事も有れば、過剰な武器が紛争を起こす事も有る。今回のウクライナ戦争は後者で、ウクライナのNATO加盟が戦争の引き金となった。マトモな国ならばノルウェーの様に中立を選択します。一方、ロシアは戦争をせざるを得ない状況に追い込まれましたが、結果的にフィンランドやスエーデンがNATOに加盟すれば失うものの方が大きい。

こういう国債情勢の機微を学ぶのには「ヨルムンガンド」が最良の教材の一つだと思います。


『ヨルムンガンド』より

鍛冶屋さんの質問へのお答え

2022-04-14 05:36:00 | 時事/金融危機
前回記事の鍛治屋。さんのコメントにお答えしていたら、例によって1000文字を越えてしまったので、記事にて回答致します。


鍛冶屋。 さん

今年は桜が咲いてから寒の戻りがあったので、2週間程度、桜を楽しむ事が出来ました。

MMT派の誤解の解説を、先日池田信夫氏がブログで解説されていました。私よりもスッキリと説明されていました。

結局、国債を日銀が買い取ると、政府の負債が日銀の当座預金という日銀の負債に変わり、そこには金利負担が発生する。今までの様なゼロ金利やマイナス金利なら問題が無かったが、インフレによってゼロ金利が維持出来なくなると、日銀の金利負担が増大し始めます。

ダイアモンドオンラインの無料部分からの引用。

「日銀が2020年11月に発表した2020年度上半期決算によれば、2020年9月末時点で日銀が保有する国債の加重平均利回りはわずか0.214%、他の資産を合わせた運用資産合計では0.198%しかない。これは、日銀が短期金利をわずか0.2%に引き上げ誘導するだけで、負債サイドにある当座預金への付利の水準(0.2%)が、資産サイドの国債などの加重平均利回り(0.198%)を上回り、「逆ざや」に転じることを意味する。」

引用終わり

ここから先は意見の分かれる所と思いますが、通貨発行権のある日銀が日銀当座預金の金利上昇や、国債の下落で債務超過に陥る事があるのか?

民間銀行が債務超過に陥った際には、自己資本を増強する必要が有ります。一般的には政府が資本注入するか、株式を発行して他の銀行がこれを購入する形が取られます。前者はバブル崩壊後の日本の銀行や、リーマンショック後のアメリカの民間銀行。後者はモルガンスタンレーを三菱UFJが救済したスキーム。

では日銀の資本増強はどうするのでしょうか?通貨発行権を持つ日銀とて、勝手に通貨を発行して自分で自分の自己資本を増強する事には問題が有るでしょう。それこそ、通貨は無から生まれる紙切れだと自ら宣言する様なものですから円の信用が一気に薄れます。

政府が国債を発行して資本注入するというのが一般的でしょう。日銀が株式を発行して民間銀行が買うか・・・これは日銀の独立性から考えれば無いのでは?

リーマンショック後にアメリカでは1兆ドルのプラチナコインを政府が発行して、FRBにこれを買い取らせて政府が資金調達する案が真剣に討議されました。国債を発行せずに政府が資金調達する為ですが、これなどは政府通貨と何ら変わらない。(結局、国債や不良債権をFRBが大量に買い取って、資金を供給する量的緩和に落ち着きました)



<結論>

中央銀行と言えども、国債を大量に購入すれば、日銀当座預金の金利上昇によって金利リスクを負う。

国債を簿価評価すれば国債金利の上昇は無視出来るが、日銀当座預金金利の上昇を抑える事は難しい。

上限金利の設定や預金準備率の引き上げなど、露骨な金融抑圧政策で、日銀当座預金の金利上昇を抑える事は出来るが、あまり露骨にやると「国民の資産が奪われる」という非難にさらされる。(インフレ率の上昇に金利上昇が伴わない為)

まあ、こんな所でしょうか。