※ 続・ローマとナポリにバロックの奇才を訪ねる旅 (10)
ボルゲーゼ美術館のカラヴァッジョ(1573-1610)、無頼の光と影の魔術師、卓越した技法を余すところなく見せ付けている。
今回は、その彼の初期の作品 「バッカスとしての自画像」、別名 「病めるバッカス」(1593-94年頃)。
主題は、ギリシア神話やローマ神話に登場する豊穣と葡萄酒と酩酊の神であるバッカスを題材に描かれた人物画で、カラヴァッジョの自画像と見做されている。
この作品、別題の方が相応しく、青ざめた顔色や嘲るような笑みによって “ 神話としての重厚さが茶化され、ルネッサンスの芸術伝統が冒涜されている ” (カラヴァッジョ/西村書房刊)という。
その意味では、酒神バッカスの姿を借りて、病み上がりの虚弱な若者が自虐敵に描かれた作品ともいえる。
彼、つまり画家と観る者を隔てる石板の上には、桃や濃紫の葡萄、手のなかの緑の葡萄、被った葡萄の蔓と葉が僅かに主題を表している。
一見異相とも取れる容貌は、“ 彼の理想を求めない現実主義的な表現の最も初期の作例 ” ともされているが、背中から右の腕を照らす光が、後年における彼の大きな特徴を示している。
ちなみに彼、本作のおおよそ三年後に 「<若きバッカス>」(1597年頃/ウフィツィ美術館蔵)を描いてい、それは神話に相応しく、かつ示唆に富んだ表現となっている。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.1249
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