あれは,あれで良いのかなPART2

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よく分かる(?)シリーズ ロス疑惑と一事不再理

2008年09月28日 00時57分49秒 | よく分かる(?)シリーズ
久々のよく分かる(?)シリーズです。
サイパンで拘束中の三浦和義氏に対して発行された逮捕状の有効性について,ロサンゼルス郡裁判所は,殺人罪については日本の裁判で無罪が確定したことから一事不再理が適用され逮捕状の効力が無効となるが,共謀罪については日本に法律が存在しないため,一事不再理が適用されず有効であるとの判断を示しました。
弁護側は今後最高裁で争うか,または起訴後の裁判において全面的に争う方向で検討中とのことです。
ところで,このニュースを聞いて,結構多くの方が,「これで三浦氏の有罪確定」と思われているようですが,そうではありません。まだ,あくまでも逮捕状が一部有効であったにすぎず,有罪か無罪かはこれからの裁判で決まります。
また,「なぜ,逮捕状ごときでこんなに時間がかかるのか」とか「一事不再理とか刑法不遡及の原則ってなに」などという方も多いかと思います。
そこで,今回は,このロス疑惑事件の決定をもう少し簡単に解説し,この背後に含まれている法律上の問題点について説明したいと思います。

三浦元社長の逮捕状、殺人容疑は無効 共謀容疑は有効(朝日新聞) - goo ニュース

1 ロスの裁判所の決定のあらまし
  今回,いわゆるロス疑惑について三浦氏に対して20年位前に発行された殺人罪及び共謀罪での逮捕状で三浦氏を逮捕できるかであるが,結論は共謀罪については有効なので逮捕できる。
  まず,殺人罪については,日本の裁判で同じ事件について審理され,結果無罪となった以上,一事不再理が適用される。
  でも,今のロスの法律では,外国の裁判については一事不再理は適用されないから,日本の裁判の結果は「そんなの関係ねえ」と言えそうな気もする。
  だけどもだっけど,日本の裁判は2003年に確定し,ロスの法律で外国裁判について一事不再理を撤廃したのは2005年。だから,2003年時点では一事不再理が適用されるから,とでこれを適用しないとするのは被疑者に不利になるため,刑法不遡及の原則により,一事不再理を認めてよい。
  一方,共謀罪は,事案の中身はさておき,日本に共謀罪が存在しない以上,日本の裁判では,共謀罪に関する審理はされていない。だから,一事不再理の効力は存在しない。
  したがって,共謀罪について逮捕状はまだ有効と言える。
  よって,共謀罪についてのみ逮捕は有効だよ。

2 争点
(1) 日本の裁判結果がアメリカにおいて一事不再理として扱って良いか。

  まず,「一事不再理」ですが,これは「一度裁判で無罪が確定したら,同じ事件でもう一度裁かれることはない」という大原則です。例えば,殺人事件で一度無罪が確定すれば,その後仮に重要な証拠が出てきたとしても,再度裁判にかけて有罪にすることはできません。
  これは,被告人の地位が不安定になることを防ぐための制度です。そうしないと,無罪判決を勝ち取っても,おちおち夜も眠れないということになりかねません(特に,本当に無罪だった場合のことを考えてみれば分かるでしょう。)。ただし,逆の場合,すなわち「有罪」が確定したあとに無罪の証拠が出てきた場合は,「再審」ができます。
  当然,日本でも憲法で認められています。
  さて,この効力が外国にも及ぶかですが,実は,「その国の判断」ということになります。被告人の人権を重視すれば,外国でも当然に及ぶとも言えますが,その国の自律権を尊重するならば,外国で自国の権利として裁判を行えるということにもなります。
  アメリカでは,各州において考え方が違うようで,少なくともカリフォルニア州では,2005年に一事不再理効を撤廃しました。理由は,メキシコ移民の犯行が多かったからなどといわれています。
  いずれにせよ,現在は,日本の裁判結果がカリフォルニア州には影響しないことになります。
  なお,日本の場合,外国の裁判結果については「微妙」な立場です。建前上,再度の裁判はできるため,一事不再理はないとも言えますが,海外で有罪のことを想定していると思われるため,海外で無罪となった場合についてどうなのか,立法化が待たれるところです。

(2) 一事不再理も刑法不遡及の原則が適用されるか。
  まず,「刑法不遡及の原則」とは,あとからできた法律で処罰されないという規定です。これは,行為時にセーフだったことがあとでアウトになると,安心して生活できないからです。例えば,来年「ブログ禁止法」が仮にできたとして,その際に「過去ブログやっていた奴全員死刑」なんていわれたら,「そんなこと急に言われても・・」ってことになりますよね。これと同じことです。
  ところで,一事不再理とは厳密には行為ではないので,刑法不遡及の原則が適用されないようにも思われます。
  しかし,行為だけに限らず,「あのときはよかったのに」ということを広く見ておかなければ,今というこのときを安心して過ごせません。それは,極端な話,「一事不再理がないなら,カリフォルニアでは犯罪はしなかったのに」という判断基準にもなり得るのです。
  だから,一事不再理にも刑法不遡及の原則が適用されるのです。

(3) 日本にない法律であっても,実質的に裁判において審理されれば一事不再理の枠内なのではないか。
  今回の裁判の最大の争点とも言えます。
  弁護団は,「日本の裁判では,三浦氏が誰かと共謀して殺人をした」という事実で審理をした,すなわち「ロスの共謀罪の事実」も実質的に日本の裁判所で審理をしていたから一事不再理効の対象になるという「実質説」を主張してきました。
  ところが,今回裁判所は,「事実はさておき,日本に共謀罪がない以上,形式的には日本で共謀罪により処罰される危険はなかった。」という「形式説」により一事不再理効を否定しました。
  起訴状の中身ではなく,形を重視したのです。

3 もし,逆に日本で起こっていたらどうなるか
  もしも,全く逆のこと,すなわち「日本でアメリカ人が人を殺した容疑で,そのアメリカ人がアメリカの裁判所で無罪になったが,その後日本の警察が有罪となる証拠を見つけたところ,そのアメリカ人がふらっと日本にやってきた」場合,どうなるでしょうか。

(1) 逮捕状の有効性
  本の逮捕状は,原則7日,例外的に数ヶ月というものになります。したがって,少なくとも20年前の逮捕状がそのまま有効ってことはありません。

(2) 一事不再理効は?
  分かりません。おそらく,法律上不明なので,裁判は可能かもしれません。当然,弁護団はまずここから攻めてくるでしょう。

(3) 逮捕できる?
  一事不再理が微妙なので,逮捕状は出せるかもしれません。
  また,30年前の事件だとしても,被疑者がずっとアメリカにいるため,公訴時効が停止しています。だから,起訴可能なので,逮捕も可能です。

(4) 逮捕状に対する異議は出せるか?
  出せません。逮捕状に対する不服申立制度はありません。
  そのかわり,逮捕されてから3日以内に「勾留請求」されますので,そこで裁判官に弁解することができます。そして,勾留請求が認められた場合は服申立ができます。
  ただし,それも最大で20日間しか勾留の効力がないので,不服申立が認められなかった場合は,事実上起訴を待った上で,裁判の中で争うしかありません。

4 今後の行方
(1) サイパンからロスへの身柄移送

  逮捕状が有効である以上,ロス市警で捜査を行うため,まもなく移送されるでしょう。あくまでも,捜査とその後の裁判のためです。

(2) 三浦氏の争い方
  まず,逮捕状無効について,州最高裁に異議を出すことができます。これが認められれば,釈放となります。ただし,逮捕の問題だけなので,起訴される可能性は高く,そうなると結局裁判のためにロスに出頭しなければなりません。
  とすると,次の戦略は「ならば,逮捕状は認めた上で,裁判で無罪を争う」ということが考えられます。どっちにしろ,ここが最後のゴールポイントなので,時間をかけないためにも,「早くやる」という戦術もあります。

以上が,今回の概要と法制度の概要です。繰り返しますが,現時点では,「三浦氏が犯人と決まった」訳ではありません。ここをこれからじっくり裁判で決めていくのです。当然,改めて一事不再理効も主張することになるでしょう。
まだまだ時間がかかる裁判となりますので,「自分を客観的に見る」状態で,この行方を見守ってみましょう。

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