会計検査院が12道府県の国費補助事業について検査を行ったところ,すべての道府県で不正経理があることが判明しました。その金額は総額5億5千万円にのぼりますが,各地自体の知事とも,私的流用は否定しました。
国は,補助金の返還などを求める方針とのことです。
12道府県、不正経理 架空発注や流用5・5億円、裏金にも 会計検査院指摘(産経新聞) - goo ニュース
悪いのは自治体よりもむしろ「今の補助金制度」
このニュースを聞いて,「やっぱり地方自治体の予算管理はずさんだなあ」とか「みんなやってるんじゃないか」,さらには「知事や担当者がやったことは犯罪行為だ」などという批判が繰り広げられています。
確かに,こうした批判は一部では事実だと思います。補助金である以上,もとは税金ですから,1円たりともいい加減に使ってはいけません。それは当然のお話です。
したがって,今回の会計検査院の指摘は真摯に受け止め,二度と同じような不正経理が発生しないようにしっかりと改めなければなりません。
ただ,なぜこうした不正経理が発生するでしょうか。それは,単に「知事や経理担当者がいい加減」というだけではありません。むしろ,現行の「補助金制度」自体に問題があるのです。
その最大の問題点が,「全額使い切りの原則(返還禁止)」の慣習と,「全額ひも付きの原則(使い道の限定)」にあるのです。
つまり,例えば,1億円の事業を計画した場合,国から事業費の半額として5000万円の補助金がもらえるとします。この場合,総事業費が1億2千万円になってしまった場合は特に問題ないのですが,逆に8000万円で事業が終わってしまった場合,補助金は半額の4000万円で済むため,1000万円の補助金が余ってしまうことになります。
この場合,補助金要綱の建前としては,「余ったら返すこと」と規定されています。これが社会常識から見ても当然ですし,なにしろ安く仕上げたわけですから,税金の無駄遣いを減らしたという偉業を達成したとも言えるのです。
ところが,現状では補助金を返還している自治体は皆無です。なぜなら,本当に返すと「国の担当官庁から怒られ」るのみならず,「来年度の補助金交付がカット」というペナルティが課せられてしまうからです。
国の立場としては,「せっかく財務省から頭下げてもらってきた金を返すとは何事だ!そんなやつには,もう二度と補助金なんてやらん。」っていうことになるのです。
その結果,自治体としては,「補助金を返さないで使ってしまおう」ということになるわけです。
ただ,そこで次に問題となるのは「補助金にはひもが付いている」という点です。つまり,残った補助金を自由に使えないのです。補助制度の建前からしたら当然の話かもしれません。
しかし,これをなんとしてでも使うためには,「総事業費の水増し」をやるしかありません。そこで,不正経理が発生するのです。
たとえば,前述の例でいくと,総事業費があと2000万円上がれば,補助金1000万円を使い切ることができます。そこで,2000万円を水増しするのです。一番分かりやすい水増しは,「予定工事の拡張」で,例えば,道路1キロの工事の所を1.2キロにすることや,道路に照明灯を増やしてみたり,あるいは中央分離帯の植物のグレードをあげるなどして,とにかく費用を増やします。
次に使う水増しは,「事務経費」です。補助金は,事業にかかる事務費用も対象になる場合が多いため,実際は他の部署で使用するためのパソコンを購入したり,特に必要ではない机を購入したりします。
そして,最後の切り札が「架空請求」です。これは,誤解のないようにいいますと,「使い込みや私的流用」ではありません。購入したものと伝票が異なるというものです。
例えば,自分の部署に冷蔵庫がほしいという場合に,冷蔵庫で伝票を切っても補助金対象外になるため,これを「パソコン」して取引先に伝票を切ってもらうのです。そして,取引先から冷蔵庫を買います。この場合,取引先にマージンが流れる場合もありますが,基本的には,取引先としては「ものを売った」という実績がもらえるため,喜んで伝票の改ざんに協力します。
さらには,「やみ請求」もあります。これは,話の分かる業者をトンネルにして,適当な請求書を作ります。例えば,「補修用セメント代100万円」などと伝票を切ってもらい,その業者に100万円を振り込みます。もちろん,実際は取引はしていません。その後,その業者から100万円を現金でもらいます。これが「裏金」なのです。
業者によっては,ここで10万円ピンハネすることもありますし,そうでない場合でも,別途随意契約で契約がもらえるというメリットがありますので,このような請求に協力するのです。
こうして,2000万円の事業費を増やしていくわけです。
繰り返しますが,だから地方自治体は不正経理をやっていい,ということにはなりません。
ただ,そもそも論として,「現状の補助金制度」自体を見直さない限り,こうした不正経理の実体は形を変えて残りますし,何よりも「税金の無駄遣い」を減らすことにはなりません。
この問題をきっかけに,単に当該自治体だけを悪者にするのではなく,そうした視点からの議論も進めてほしいと思います。
ただし,補助金の現状には,「政治家の利権」が絡んでいる場合が多いので,なかなか改善できないという問題もあるのですが・・。
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悪いのは自治体よりもむしろ「今の補助金制度」
このニュースを聞いて,「やっぱり地方自治体の予算管理はずさんだなあ」とか「みんなやってるんじゃないか」,さらには「知事や担当者がやったことは犯罪行為だ」などという批判が繰り広げられています。
確かに,こうした批判は一部では事実だと思います。補助金である以上,もとは税金ですから,1円たりともいい加減に使ってはいけません。それは当然のお話です。
したがって,今回の会計検査院の指摘は真摯に受け止め,二度と同じような不正経理が発生しないようにしっかりと改めなければなりません。
ただ,なぜこうした不正経理が発生するでしょうか。それは,単に「知事や経理担当者がいい加減」というだけではありません。むしろ,現行の「補助金制度」自体に問題があるのです。
その最大の問題点が,「全額使い切りの原則(返還禁止)」の慣習と,「全額ひも付きの原則(使い道の限定)」にあるのです。
つまり,例えば,1億円の事業を計画した場合,国から事業費の半額として5000万円の補助金がもらえるとします。この場合,総事業費が1億2千万円になってしまった場合は特に問題ないのですが,逆に8000万円で事業が終わってしまった場合,補助金は半額の4000万円で済むため,1000万円の補助金が余ってしまうことになります。
この場合,補助金要綱の建前としては,「余ったら返すこと」と規定されています。これが社会常識から見ても当然ですし,なにしろ安く仕上げたわけですから,税金の無駄遣いを減らしたという偉業を達成したとも言えるのです。
ところが,現状では補助金を返還している自治体は皆無です。なぜなら,本当に返すと「国の担当官庁から怒られ」るのみならず,「来年度の補助金交付がカット」というペナルティが課せられてしまうからです。
国の立場としては,「せっかく財務省から頭下げてもらってきた金を返すとは何事だ!そんなやつには,もう二度と補助金なんてやらん。」っていうことになるのです。
その結果,自治体としては,「補助金を返さないで使ってしまおう」ということになるわけです。
ただ,そこで次に問題となるのは「補助金にはひもが付いている」という点です。つまり,残った補助金を自由に使えないのです。補助制度の建前からしたら当然の話かもしれません。
しかし,これをなんとしてでも使うためには,「総事業費の水増し」をやるしかありません。そこで,不正経理が発生するのです。
たとえば,前述の例でいくと,総事業費があと2000万円上がれば,補助金1000万円を使い切ることができます。そこで,2000万円を水増しするのです。一番分かりやすい水増しは,「予定工事の拡張」で,例えば,道路1キロの工事の所を1.2キロにすることや,道路に照明灯を増やしてみたり,あるいは中央分離帯の植物のグレードをあげるなどして,とにかく費用を増やします。
次に使う水増しは,「事務経費」です。補助金は,事業にかかる事務費用も対象になる場合が多いため,実際は他の部署で使用するためのパソコンを購入したり,特に必要ではない机を購入したりします。
そして,最後の切り札が「架空請求」です。これは,誤解のないようにいいますと,「使い込みや私的流用」ではありません。購入したものと伝票が異なるというものです。
例えば,自分の部署に冷蔵庫がほしいという場合に,冷蔵庫で伝票を切っても補助金対象外になるため,これを「パソコン」して取引先に伝票を切ってもらうのです。そして,取引先から冷蔵庫を買います。この場合,取引先にマージンが流れる場合もありますが,基本的には,取引先としては「ものを売った」という実績がもらえるため,喜んで伝票の改ざんに協力します。
さらには,「やみ請求」もあります。これは,話の分かる業者をトンネルにして,適当な請求書を作ります。例えば,「補修用セメント代100万円」などと伝票を切ってもらい,その業者に100万円を振り込みます。もちろん,実際は取引はしていません。その後,その業者から100万円を現金でもらいます。これが「裏金」なのです。
業者によっては,ここで10万円ピンハネすることもありますし,そうでない場合でも,別途随意契約で契約がもらえるというメリットがありますので,このような請求に協力するのです。
こうして,2000万円の事業費を増やしていくわけです。
繰り返しますが,だから地方自治体は不正経理をやっていい,ということにはなりません。
ただ,そもそも論として,「現状の補助金制度」自体を見直さない限り,こうした不正経理の実体は形を変えて残りますし,何よりも「税金の無駄遣い」を減らすことにはなりません。
この問題をきっかけに,単に当該自治体だけを悪者にするのではなく,そうした視点からの議論も進めてほしいと思います。
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