いつもごひいきにしているtakeyanさまこと松本武洋さんが執筆された本「会計のルールはこの3つしかない」(洋泉社)をようやく読むことができました。っていうか,諸般の事情で入手することが遅れまして,ようやく購入することができた,っていうのが正しい言い方です。
この本をハワイのプールサイドやビーチサイドでまったりとしながら読んできましたので,今更ながらではありますが,簡単に書評をしたいと思います。
1 大きな感想
一気に読むことができる非常に平易な内容になっていました。また,登場人物がコロンブス,スペイン女王,越後屋とこれまた身近(?)な人たちであったことから,実例もきわめて分かりやすくなっていました(なぜスペインの女王と越後屋なんだ,っていうつっこみは無しね!!)
とはいえ,決して内容が適当とかごまかしているなどというものではなく,細かいところまでしっかりと配慮しており,まさに「会計の森」を正しく見ることができる内容になっていました。
したがって,この本は,会計を初めて学ぶ人はもちろんのこと,細かい議論に終始しすぎて行き詰まりを感じている公認会計士,税理士,簿記一級受験生などが読むにも適していると思います。「木を見て森を見ず」という受験弊害に陥ってしまった場合の羅針盤として有益であろうと思います。
もっとほめると,逆に簿記3級を受けようと思っている方は,極論としてこの本と過去問題集を勉強すれば十分合格点に達するのではないか,それくらいのエッセンスが詰まっていると感じました(もちろん,実際はちゃんとしたテキストで勉強しましょうね。)。
2 個別的な感想
大きな感想に全て集約されていますが,細かい点についていくつか述べたいと思います。
(1) キャッシュフロー計算書の趣旨やその計算方法が非常にわかりやすい
近年話題のキャッシュフロー計算書ですが,何となくお金の流れだろうくらいのイメージしかわかない中,この計算書の意義や必要性についてしっかりと説明されている点は,非常に好感を持てました。
特に,個人的には,これまで営業経費部分からなぜキャッシュが入ってくるはずの受取利息を差し引くのかなどどうしても理解しがたい点がありましたが,これを読んで,「なるほど,別に差し引いているわけではなく,単に項目替えをしているだけなんだなあ」などが十分に理解でき,まさしく目から鱗が落ちるような状態でした。
(2) 「ぱなし」と「ぱなし以外」が「BS」と「PL」に結びつくという発想は,まさにコロンブス的だなあと感じた
今までは,簿記会計といえば,「まず仕訳,とにかく仕訳を覚えること」という「仕訳体育会説」(この説は私が勝手に名付けただけです)に基づいて日々仕訳の練習をし,仕訳がある程度できるようになったところで,「では仕訳に基づいて前TB作り,決算整理して後TB作り,でもって貸借対照表と損益計算書を作りましょう」などという段取りになりますし,そうやって勉強してきた方が多いかと思います(もちろん,理論からスマートに覚えた方もいるとは思いますが,私の場合,どんな学問もスマートに覚えられないので,いつもこういう目に遭うのです。)。
ところが,「ぱなし」が損益計算書に,「ぱなし以外」が貸借対照表になるという発想は,思いつきませんでした。っていうか,いわれてみると至極当然の話なのですが,こういう形で教科書を書いている先生はほとんどいないため,まさしくコペルニクス的というかコロンブス的な発想だなあ,と思いました。
この理屈を覚えれば,あとは「何がぱなしで何がぱなし以外か」だけ理解できれば十分です。簿記1級で苦しんでいる方,この視点忘れていませんか?
(3) リース契約がオフバランスになる理由が分かりやすい
なぜ企業がリース契約を好むのか,よーく分かりました。詳しくはやはりこの本を読んだ方がよいでしょうが,素人的には金利を払って借りるよりかってしまった方が安いように思うのですが,実は金利を払ってでも借りた方がメリットがあるという事例が結構あるんだなあ,と思いました。
(4) 会計帳簿とはいかに利益を出さないようにする道具であるか
社長の発想としては,「儲けをいかに出すか」となるはずなのですが,会計帳簿とは実は真逆で,「いかに儲けを最小限にするか」という発想に基づいているということを改めて学びました。
もちろん,違法・脱法行為という意味ではなく,費用と収益をきちんと配分することがどれだけ大切か,という意味です。この発想,意外と社長自身も忘れているのではないでしょうか。そして,儲けを最小限にする=適正な費用配分になっている=健全企業=出資者や債権者保護という関係にあることを,この本を通じて改めて学ぶことができました。
3 個人的な意見
他にも感動した点はたくさんあるのですが,あまりほめすぎると,「おまえはイエスマンか」とつっこまれそうなので,若干意見も付けておきたいと思います。ただし,あくまでもこれは枝葉です。
(1) 減価償却制度が変わったことをフォローしていない
平成19年4月以降に取得した備品については,減価償却において残存価値を0にするという方法に改正されました。当然,定率法における償却率もそれに伴い変更されました。
ところが,本文では,残存価値1割残るという前提で全て述べられています。まあ,コロンブスの会社なので相当昔である,と言われればそれまでですが,どちらかといえば新制度ベースに表現した方がよかったかも知れません。
(2) なぜ行政では複式簿記が使われないのかの指摘が不十分
文中のあちこちに,役所の単式簿記の弊害は指摘されています。また,行間を読めば,なぜ役所がそれを導入しないのかも何となく分かります。
でも,そういう回りくどいいい方ではなく,もっとストレートにその問題点や理由などを指摘してもよかったのではと思います。特に財務大臣も登場するため,大臣が建前を述べて女王がそれにつっこむ,なんてするとおもしろかったのではないでしょうか。
なお,当然の話ですが,松本さんはこの問題点については十分熟知しています。だからこそ,会計本というコンセプトを強調したいことから,あえて意図的に書かなかったのであろうという点の察しは付きます。
(3) 債権者(利害関係者)に登場してほしかった
会計の基本は,株主(出資者)に対する説明責任にありますが,同時に債権者保護という観点もあります。
ところが,今回は,債権者(借金取り)は登場しませんでした。どうせならば,金貸しの1人でも登場させると,より会計帳簿の神髄が理解できたのではないでしょうか。
以上はほとんどいちゃもんのようなものです。
冒頭にも書きましたが,会計を勉強している人も,そうでない人も一読する価値が高いと思います。
いつもながら,松本さんの作品は非常に読みやすくて楽しいです。そして,鋭いです。次回作も是非とも期待したいものです。
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TB先一覧
http://ameblo.jp/takeyan/entry-10083421073.html
この本をハワイのプールサイドやビーチサイドでまったりとしながら読んできましたので,今更ながらではありますが,簡単に書評をしたいと思います。
1 大きな感想
一気に読むことができる非常に平易な内容になっていました。また,登場人物がコロンブス,スペイン女王,越後屋とこれまた身近(?)な人たちであったことから,実例もきわめて分かりやすくなっていました(なぜスペインの女王と越後屋なんだ,っていうつっこみは無しね!!)
とはいえ,決して内容が適当とかごまかしているなどというものではなく,細かいところまでしっかりと配慮しており,まさに「会計の森」を正しく見ることができる内容になっていました。
したがって,この本は,会計を初めて学ぶ人はもちろんのこと,細かい議論に終始しすぎて行き詰まりを感じている公認会計士,税理士,簿記一級受験生などが読むにも適していると思います。「木を見て森を見ず」という受験弊害に陥ってしまった場合の羅針盤として有益であろうと思います。
もっとほめると,逆に簿記3級を受けようと思っている方は,極論としてこの本と過去問題集を勉強すれば十分合格点に達するのではないか,それくらいのエッセンスが詰まっていると感じました(もちろん,実際はちゃんとしたテキストで勉強しましょうね。)。
2 個別的な感想
大きな感想に全て集約されていますが,細かい点についていくつか述べたいと思います。
(1) キャッシュフロー計算書の趣旨やその計算方法が非常にわかりやすい
近年話題のキャッシュフロー計算書ですが,何となくお金の流れだろうくらいのイメージしかわかない中,この計算書の意義や必要性についてしっかりと説明されている点は,非常に好感を持てました。
特に,個人的には,これまで営業経費部分からなぜキャッシュが入ってくるはずの受取利息を差し引くのかなどどうしても理解しがたい点がありましたが,これを読んで,「なるほど,別に差し引いているわけではなく,単に項目替えをしているだけなんだなあ」などが十分に理解でき,まさしく目から鱗が落ちるような状態でした。
(2) 「ぱなし」と「ぱなし以外」が「BS」と「PL」に結びつくという発想は,まさにコロンブス的だなあと感じた
今までは,簿記会計といえば,「まず仕訳,とにかく仕訳を覚えること」という「仕訳体育会説」(この説は私が勝手に名付けただけです)に基づいて日々仕訳の練習をし,仕訳がある程度できるようになったところで,「では仕訳に基づいて前TB作り,決算整理して後TB作り,でもって貸借対照表と損益計算書を作りましょう」などという段取りになりますし,そうやって勉強してきた方が多いかと思います(もちろん,理論からスマートに覚えた方もいるとは思いますが,私の場合,どんな学問もスマートに覚えられないので,いつもこういう目に遭うのです。)。
ところが,「ぱなし」が損益計算書に,「ぱなし以外」が貸借対照表になるという発想は,思いつきませんでした。っていうか,いわれてみると至極当然の話なのですが,こういう形で教科書を書いている先生はほとんどいないため,まさしくコペルニクス的というかコロンブス的な発想だなあ,と思いました。
この理屈を覚えれば,あとは「何がぱなしで何がぱなし以外か」だけ理解できれば十分です。簿記1級で苦しんでいる方,この視点忘れていませんか?
(3) リース契約がオフバランスになる理由が分かりやすい
なぜ企業がリース契約を好むのか,よーく分かりました。詳しくはやはりこの本を読んだ方がよいでしょうが,素人的には金利を払って借りるよりかってしまった方が安いように思うのですが,実は金利を払ってでも借りた方がメリットがあるという事例が結構あるんだなあ,と思いました。
(4) 会計帳簿とはいかに利益を出さないようにする道具であるか
社長の発想としては,「儲けをいかに出すか」となるはずなのですが,会計帳簿とは実は真逆で,「いかに儲けを最小限にするか」という発想に基づいているということを改めて学びました。
もちろん,違法・脱法行為という意味ではなく,費用と収益をきちんと配分することがどれだけ大切か,という意味です。この発想,意外と社長自身も忘れているのではないでしょうか。そして,儲けを最小限にする=適正な費用配分になっている=健全企業=出資者や債権者保護という関係にあることを,この本を通じて改めて学ぶことができました。
3 個人的な意見
他にも感動した点はたくさんあるのですが,あまりほめすぎると,「おまえはイエスマンか」とつっこまれそうなので,若干意見も付けておきたいと思います。ただし,あくまでもこれは枝葉です。
(1) 減価償却制度が変わったことをフォローしていない
平成19年4月以降に取得した備品については,減価償却において残存価値を0にするという方法に改正されました。当然,定率法における償却率もそれに伴い変更されました。
ところが,本文では,残存価値1割残るという前提で全て述べられています。まあ,コロンブスの会社なので相当昔である,と言われればそれまでですが,どちらかといえば新制度ベースに表現した方がよかったかも知れません。
(2) なぜ行政では複式簿記が使われないのかの指摘が不十分
文中のあちこちに,役所の単式簿記の弊害は指摘されています。また,行間を読めば,なぜ役所がそれを導入しないのかも何となく分かります。
でも,そういう回りくどいいい方ではなく,もっとストレートにその問題点や理由などを指摘してもよかったのではと思います。特に財務大臣も登場するため,大臣が建前を述べて女王がそれにつっこむ,なんてするとおもしろかったのではないでしょうか。
なお,当然の話ですが,松本さんはこの問題点については十分熟知しています。だからこそ,会計本というコンセプトを強調したいことから,あえて意図的に書かなかったのであろうという点の察しは付きます。
(3) 債権者(利害関係者)に登場してほしかった
会計の基本は,株主(出資者)に対する説明責任にありますが,同時に債権者保護という観点もあります。
ところが,今回は,債権者(借金取り)は登場しませんでした。どうせならば,金貸しの1人でも登場させると,より会計帳簿の神髄が理解できたのではないでしょうか。
以上はほとんどいちゃもんのようなものです。
冒頭にも書きましたが,会計を勉強している人も,そうでない人も一読する価値が高いと思います。
いつもながら,松本さんの作品は非常に読みやすくて楽しいです。そして,鋭いです。次回作も是非とも期待したいものです。
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