あれは,あれで良いのかなPART2

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よく分かる(?)シリーズ 執行猶予と保護観察制度について

2005年05月14日 11時43分30秒 | よく分かる(?)シリーズ
女性監禁事件が発生し,容疑者が逮捕されましたが,各種報道によりますと,現在保護観察付き執行猶予中であったこと,また本人が統合失調症であることを述べているとのことでした。
このニュースを聞いて「保護観察って何」という疑問と「統合失調症だと刑事責任なくなってしまうでのは?」という疑問を持たれた方もいるのではないでしょうか。
そこで,2回に分けまして,久々によく分かる(?)シリーズを掲載したいと思います。
今回は「執行猶予制度」についてです。次回は「刑事責任能力」について掲載したいと思います。

よろしければ続きを読む前に1クリックお願いしますm(__)m人気blogランキングへ 第1 執行猶予とは
執行猶予自体はご存じの方も多いと思いますが,簡単にいうと,執行猶予期間中に犯罪を犯さなければ,刑務所に行かなくて良いという「アタックチャンス」的な制度です。
そして,執行猶予には実は大きく分けて次の2種類があります。

1 初回の執行猶予(刑法25条1項)
  禁固刑以上の前科がない人か,前科があっても刑の執行終了後5年以上経過している人が対象(この5年というのは犯罪実行日ではなく,判決言い渡し日です。)。
  この人が3年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑の言い渡しを受けた場合は,5年以下の猶予期間を定めることができます。
  この場合,保護観察をつけるかどうかは自由
2 再度の執行猶予(刑法25条2項)
  現在禁固刑以上の刑に処せられて執行猶予期間中の人が対象。ようは,「もう1回だけチャンスを上げる」制度。
  この人が1年以下の懲役の言い渡しを受けた場合,5年以下の猶予期間を定めることができます。
  この場合,保護観察は必ず付きます
(この保護観察の有無は大きな違いがあります。詳しくは後述します。)

つまり,実際には①最初の執行猶予(保護観察なし)②最初の執行猶予(保護観察あり)③再度の執行猶予(保護観察あり)の3パターンが考えられます。
ちなみに,今回の監禁事件の被疑者は,前回の刑において②がチョイスされたものと推測されます。
そして,執行猶予期間を無事経過すれば,刑が執行されない,すなわち刑務所に行かなくていい,ということになります。

第2 執行猶予が取り消される場合
このように,執行猶予とは,とりあえず刑務所に行かなくて良いだけの話であり,無罪ではありません。
したがって,執行猶予期間中は生活上の制約があります。代表的なものとしては,パスポートの発行制限,即ち海外旅行が制限されます(禁止はされませんが,発行拒否される場合もあります。)。
また,一定の場合,執行猶予が取り消されることもあります。この場合,直ちに刑務所送りとなります。
取消にも2種類あります。
1 必要的取消(刑法26条)・・絶対に取り消されるもの
  いくつかありますが,一番分かりやすいのは,猶予期間中にまた犯罪を犯し,そこで実刑判決が出た場合です。
2 裁量的取消(刑法26条の2)・・絶対ではありませんが,情状が悪いと判断されたら取り消されるもの
  いくつかありますが,主なものは,①猶予期間中に罰金刑以上の刑をおかした場合,②保護観察付き執行猶予の場合,遵守事項を守らなかった場合などです。

執行猶予が取り消されますと,そのその判決で下された分刑務所に入らなければなりません。特に,猶予期間中に犯罪を犯して取消となった場合は,その分の刑にも服さなければなりません。
例えば,懲役3年執行猶予4年の判決を受けたものがまた犯罪を犯して懲役2年の実刑判決を受けた場合,執行猶予が取り消され,刑務所にはこの2年と最初の3年の合計5年間はいることになります。
(余談ですが,田代まさし氏については,まさにこの例に該当しますので,4,5年は刑務所にいることになります。)。

第3 保護観察制度
ところで,第1で触れた保護観察ありなしというのは,被告人にとってはかなり大きな問題です。
具体的には,このようなメリット(被告人側から見るとデメリット)があります。
1 保護観察が付くと,再度の執行猶予は付かない(つまり,②のパターンになった場合,次は即実刑,ということになります。)。
2 定期的に保護観察官(または保護司)との面接を受けなければならない(裁判官から遵守事項が言われ,それを守っているかどうかを保護観察官がチェックするわけです。)。
保護観察については,こちらの法務省HPを参照してください。
つまり,保護観察が付くということは,「ラストチャンス」であるということです。裁判官側から見た場合,実刑にしようか執行猶予にしようか悩んだ事例については,初回から保護観察をつけるということになります。

保護観察が付いた場合,被告人は保護観察所に行き,そこで担当保護観察官(実際は地元のボランティアである保護司が担当する場合が多い)が決まります。そして,裁判で言われた遵守事項に基づいて,更正計画を立てます。さらに,定期的に面接を行い,状況確認やアドバイスなどを行います。
保護観察期間中の引っ越し等は原則として許可が必要です。ただ,これは引っ越しがけしからんという意味よりも居場所を確認する必要がある,という理由によるものです(今回の事件では,この点の連携が甘かった点が指摘されています。)。

第4 似て異なる制度(仮出所)
執行猶予と仮出所がよく混同されています。
仮出所とは,刑務所の受刑者が刑期満了前に刑務所を出られる制度です。
したがって,仮出所は受刑者という地位が残ります。
よって,やはり保護観察を受けることになりますが,執行猶予の場合以上に厳格に保護観察が行われることになります。
仮出所も一定の遵守事項を守らないと取り消されて刑務所に戻されますが,その中には素行が悪い場合なども含まれており,やはり執行猶予以上に厳しい条件となっています。
これは,執行猶予はまだ受刑者ではないが,仮出所制度はあくまでも受刑者である,という前提があるからです。

第5 執行猶予制度の問題点(私見)
以上が現在の執行猶予制度です。
ここからは,個人的見解になります。
これを読んで,「あれ?」と思った方がいるかも知れません。
そうです,その部分が今の執行猶予制度の問題点です。

1 理論上,裁判で5年以上ねばれば初回の執行猶予がつくことになる。
第1で書きましたが,初回の執行猶予は前5年間禁固刑以上に処せられていないことであり,この起算点は犯罪実行日ではなく,その判決の言い渡し日になります。
よって,極端な例をいうと,出所翌日に犯罪を犯して逮捕された場合でも,裁判で5年間争い続ければ,5年以上経過したことになり,執行猶予の言い渡しが可能となります。
ただ,現実的には,裁判官もバカではないので,このような輩にはほぼ確実に執行猶予はつけないでしょう。執行猶予をつける,つけないは裁判官の任意的な判断に委ねられていますから。
一応,立法上の問題点という程度の指摘です。
2 保護観察なしの執行猶予期間中の更正対応がない
保護観察が付かないケースでは,被告人を監視またはアドバイスや相談を受ける法的制度はありません。執行猶予=無罪と思われる理由はここにありますし,前述のとおり,保護観察の有無は被告人にとって天国と地獄の違いがあります。
一方で,執行猶予の任意的取消事由には前述の仮出所と異なり「素行が悪い」は含まれません。つまり,犯罪を犯さなければとりあえず取り消されることはありません。
執行猶予制度が被告人の更正に役立っているかどうか疑問視する学者は,この点を指摘しています。
3 保護観察中に行方不明になった者を強制的に捕まえる手段がない
保護観察に来なくなった者は,保護観察の遵守事項を守らないということで任意的取消事由となります。まず,そもそもこれが任意的取消でよいのかという問題があります。
また,来なくなった人を捜す手段がありません。正しく言うと,逮捕状のような令状がありません。したがって,強制捜査はもちろんのこと,仮に居場所を見つけたとしても,無理矢理保護観察所につれてくることが認められていません。
アタックチャンスの制度である以上,来なくなることも想定した対応を検討する必要があるかも知れません。