森絵都さんの「永遠の出口」を読みました。永遠という言葉に弱かった幼い女の子岸本紀子の成長物語です。小学生、中学生、高校生と順を追って彼女の変遷が語られる。不器用で純粋な紀子。小学生の時の片思い。中学2年での不良生活。高校2年の時の恋に振り回された苦悩の日々。高校3年末になっても就職、進学のどちらにも属さず、天文部の顧問から星についての講義を受けて、太陽の寿命を知り愕然とする紀子。あっちへふらふらこっちへフラフラしながらも、紀子は成長して行くのである。エピローグで紀子の今現在の状況が語られるが、紀子の人生は予測不能で続いて行くのです。誰の人生だって予測不能ですが、若い人の人生は振り幅が広そうって思い、いいなぁと初老の私は思ったのでした。
森絵都さんの「風に舞い上がるビニールシート」を読みました。この本は表題作の他、器を探して、犬の散歩、守護神、鐘の音、ジェネレーションXというタイトルの短編も含まれている短編集です。表題作は以前NHK の土曜ドラマで放送された劇の原作になっており、私はドラマを見ていたので、大体のあらすじは知っていました。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に勤務する1組の男女の愛と葛藤の物語で、ビニールシートは紛争内戦により難民となった人々の儚い命を表しています。器を探しては、天才的なケーキ職人の上司に命じられて彼女のプディングにあう器を探す女性の話、犬の散歩は、殺処分になる運命の犬の命を救うため、里親探しをするボランティアをしている主婦の話、守護神は、レポートの代筆をしてくれる学内では伝説的に有名な女子学生に依頼する社会人男子学生の話、鐘の音は、親方と考え方が相容れない仏像に特異的こだわりを持つ仏像修復士の話。ジェネレーションXは、中年出版社社員と若い玩具メーカー社員が客のクレーム対応に向かう車内でジェネレーションギャップを超える話。それぞれに面白いですが、張り詰めた糸のような緊張感があるのは鐘の音と風に舞い上がるビニールシートだと思います。特に表題作はUNHCR職員としてフィールドに出て命を賭して難民救済に当たっている人もいるであろう現実に考えさせられます。第135回直木賞受賞作です。
森絵都さんの「みかづき」を読みました。昭和36年、大島吾郎は千葉県習志野市の野瀬小学校の用務員として勤めていた。家庭の事情から高校中退を余儀なくされた吾郎がやっと得た安定した職場だった。小学校の北棟一階の隅にあった住居を兼ねた用務員室は「大島教室」とも言われ、放課後に授業についていけない子供たちが集まり、吾郎に勉強を教わる場所になっていた。そんなある日、蕗子という名の少女が大島教室に教えを請いにやった来た。蕗子は勉強がわからないのではなく、吾郎の教え方を知るために母の千明に言われて来たのだった。昭和9年生まれの千明は国民学校の生徒として軍国主義教育と、戦後には真逆の民主主義教育の両方を経験し、公教育に徹底的な不信感を持っていた。教員免許を持ちながら彼女は自分なりの教育をと私塾を立ち上げるつもりで、教え方が上手な吾郎にパートナーになってほしいと頼みに来た。夫婦となった2人は手作り感のある補習校色の強い塾を始めて評判を呼び、生徒が増えて教場も増えていった。教育をめぐる環境は時代とともに変わり、彼らの塾も補習塾より予習をメインに据える進学塾に変わっていった。都内に何箇所も開校する頃には千明は経営者として塾を支える存在になるのだったが、2人の考えは異なり夫婦関係は冷えてしまった。公教育を太陽に塾を月にたとえて物語は進み、大島家の家族関係も変化していった。ゆとり教育、学校週5日制、貧困からくる教育格差、文科省と塾との対立など色々な要素を盛り込み、塾を営む大島家の半世紀にわたる物語です。長編ですが、一気読みしました。おすすめです。
朝井まかてさんの「恋歌」を読みました。明治になって東京に出て歌で身をたて、萩の舎という歌塾を作り、歌の教授をとおして、多くの上流階級の女性らとつながり、成功した中島歌子という女性が主人公です。歌子の本名は登世。水戸藩御用達の江戸の池田屋旅館の一人娘でありながら幕末に水戸藩士、林忠左衛門以徳と恋におち、水戸に下って以徳の妻となった。気風も暮らしぶりもまったく異なる水戸での暮らしは厳しかった。夫の以徳はお役目で留守が多く、家の中では小姑のてつが幅を利かせていた。おまけに以徳は、尊王攘夷の急先鋒であった天狗党に属し、藤田小四郎らが中心になって筑波山で蜂起した天狗党の乱に巻き込まれる形で、不遇の戦病死をとげてしまう。水戸藩の内紛に巻き込まれた天狗党の妻子は、敵対する諸生派(保守派)にとらえられ、牢に入れられて地獄のような日々を送ることになった。しかし、幕府が倒れ、大政奉還がなると、今度は逆に諸生派が賊徒とされ、妻子を殺された天狗党の人々から同様な仇討が続き、水戸藩は内紛によって自滅した。幕末の水戸にあって辛酸をなめた登世の武家の妻としての経験は、いまわの際に弟子の歌人、三宅花圃が、歌子の書類を整理する中で読み進んだ手記という形で語られている。中島歌子は実在の人物であり、部分的にはフィクションが織り込まれているにしても、かなり史実を読み込んで書かれた小説だと思いました。中島歌子は樋口一葉の師匠として有名な人だそうです。第500回直木賞受賞作で、一気読みしたくなる本です。「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしえよ」という歌子の亡き夫を想う気持ちを込めた歌が印象的でした。
最近、黒柳徹子さんの著作を2冊読みました。「トットチャンネル」と「小さいときから考えてきたこと」です。「トットチャンネル」はNHK専属のテレビ女優第一号として活躍した若い頃の徹子さんの活動が多く語られていて、昭和の古き良き時代を思い起こさせる実話でした。徹子さんは6000人の応募者の中から選ばれた類まれな資質をお持ちだったことがよくわかりました。彼女の個性は誰にも真似ができないと思います。これらを読んだきっかけは、現在テレビ朝日で放送中の昼の帯ドラマ「トットちゃん」を見ていて、もっと徹子さんのことを知りたいと思ったからです。1981年に出版された「窓際のトットちゃん」は私もずいぶん前に読み、感動しましたが、それはベストセラーとなって、世界15か国語に翻訳され、更に広く読まれたことは皆さんもご承知と思いますが、彼女はその印税でトット基金を設立し、様々な社会福祉活動をなさっています。「小さいときから考えてきたこと」は、黒柳さんの幼ないころの思い出の「赤い松葉杖」から始まり、最後は「アフガニスタン報告」で終わります。彼女は日本人女性として初めてユニセフ親善大使に選ばれ、内戦で苦しむ多くの開発途上国に赴き、現地の子供たちの様子を見てそれを世界に伝えました。彼女らしい心の動きが感じられました。ノンフィクションですが、一つ一つが独立したエピソードで興味深く、1日で読み切ってしまいました。なかでも、「私ってLDだったの?」というエピソードは、とても興味深かったです。「君は本当はいい子なんだよ」と言ってくれたトモエ学園の小林校長先生。ご両親、特にお母様が徹子さんの良い資質を上手に伸ばしたと思います。次に図書館で予約した本は、最近書かれた徹子さんの「トットひとり」です。待っている人が他にもいるようなので、すぐに来ないと思いますが、気長に待とうと思います。インタビュー番組「徹子の部屋」は現在も継続中で、一人の司会者が続けた長寿番組として世界ギネスブックに登録されたそうですが、これからもお元気でご活躍いただきたいと思います。