凪良ゆうさんの「流浪の月」を読みました。今日は久しぶりに一日中読書ができた暇な月曜日でしたが、一気読みでした。主人公は家内更紗という少女。自由奔放な母親と優しい父親の元で伸びやかに暮らしていた更紗は、父親が病死すると、母親が恋人を作って更紗を捨てて行方をくらます。母親の姉である伯母に引き取られた彼女にとって伯母の家は居心地の悪い場所だった。中でも我慢できなかったのは中学生だった従兄の隆弘が、夜になると更紗の部屋に忍んで来ることだった。ある日、公園で遊び終わった更紗は一人で公園に戻り、ベンチで本を読み始めた。いつも公園にはロリコンと噂され、怖がられていた若い男がベンチで本を読んでいたが、雨に濡れながらも本を読み続ける更紗。男は彼女が行き場のない子とわかり、自分の家に来る?と聞く。更紗は男の家について行った。男の名は佐伯文。19歳の大学生だった。それから2ヶ月が過ぎた。更紗は文との暮らしをのびのびと楽しんでいた。文は更紗が嫌がることは何もせず、優しかった。しかしある日2人は更紗の希望で動物園に出かけた。伯母は行方不明になった更紗の捜索願を出し、ニュースで更紗の写真がテレビにも出ており、通報を受けて警察官が駆けつける。更紗と文は引き離され、文は幼女誘拐犯として捕まり、更紗は伯母の家に帰るが、隆弘の行動が伯母たちに知られることとなり、更紗は児童養護施設で育てられた。高校卒業後、更紗は仕事仲間に連れていかれたカフェで文と再会する。文は夕方5時から開店するカフェを経営していた。15年の歳月を経ても文は忘れられない存在だった。第4章の「彼のはなし」では文の秘密が語られる。孤独な魂と魂の結びつきのような2人。お勧めです。2020年の本屋大賞受賞作です。
池井戸潤さんの「ノーサイド・ゲーム」を読みました。主人公は、君嶋隼人。トキワ自動車の経営戦略室次長の君嶋は、カザマ商事の買収問題をめぐって意見書を提出し、常務取締役営業本部長の滝川桂一郎と激しく対立する。君嶋はその買収額があまりに高いということで、買収をすすめようとする滝川に反対したのだった。君嶋は、その3か月後、人事部から横浜工場総務部長へ異動を申し渡された。明らかな左遷人事だった。横浜工場の総務部長は、トキワ自動車がかかえるラグビー部、アストロズのジェネラルマネージャーを兼任する仕事だった。ラグビー経験のない君嶋はこれも嫌がらせの一つかもしれないと思いながら着任した。横浜工場に着いた日、新堂工場長、前任の吉原総務部長に連れられて、集会所におもむいた君嶋は、工場に勤める1000人近い社員たちに紹介された。吉原が君嶋の紹介を終えた後、君嶋は、皆の前で挨拶をし、ユニフォームを着た50人近いアストロズの巨漢の男たちとも対面し、握手を交わした。温かいその雰囲気に君嶋は、気分を良くした。アストロズは社会人リーグのプラチナリーグに属し、年間、16億円の資金をトキワ自動車から支給されていたが、最近の戦績は低迷していた。おまけに収益は、ほとんど挙げられておらす、観客動員数も少なかった。ただ、それは、アストロズだけの問題ではなく、他の企業のラグビーチームも同様だった。君嶋は、チケット販売のやり方、チームの在り方、日本蹴球協会との関係に、構造的問題があるとみて、改革案を作り、会長の富永に手渡すが、鼻にもかけてもらえなかった。しかも、アストロズは監督が任期半ばで体調不良を理由に退任することになり、君嶋は、新監督を探すことから始めなければならなかった。池井戸さんの小説は、悪辣な大企業と良心的な中小企業の対立という構図の作品が多いように思いますが、この作品は、トキワ自動車という大企業の中での社員同士の熾烈な争いに絡め、ラグビーを通した内部の人間同士のつながりや、葛藤を描いています。できる男、君嶋隼人の胸のすくような展開でした。エンタメ小説として、他の池井戸さんの小説と同様、楽しく読めました。2019年発刊の小説です。ラグビーワールドカップで、日本チームの躍進ににわかラグビーファンになった人も多かったと思いますが、ラグビーファンならずとも一気読みできる楽しい作品でした。お薦めです。
平岩弓枝さんの「魚の棲む城」を読みました。3月1日に牧之原市のいーらという会場で行われたコンサートは田沼意次の生誕300年記念コンサートだったので、会場で「魚の棲む城」の一部が朗読され、意次は後世伝えられたような賄賂政治を行った悪徳政治家では決してなく、相良藩主として名君だったとのこと。その時、興味を持ったことがきっかけで読みました。この小説は家重と家治の二人の将軍に仕え、両将軍の覚えめでたく、小禄の旗本から身を起こし、老中にまで上り詰めた意次が若年寄になった長男意知を殺された後、家治の死後、失脚して俸禄を召し上げられ、蟄居を命じられ、亡くなるまでを描いている。農民にだけ重税を強いるのではなく、幕府の財政再建のため商業を振興し、大商人からも税金を取ったり、印旛沼の干拓をしたり、蝦夷地での交易に目をつけて天領にすべく内偵させたり、蘭学を重んじ、蘭方医学を取り入れたり、将来を見据えた改革を推し進めようと努力したことがわかりました。稀に見る栄達を遂げた意次を妬み疎んじた御三家御三卿、とくに松平定信の私怨により失脚させられたということのようです。相良藩士の時築城を許された相良城は取り壊されましたが、意次が整備した田沼街道は今も残っています。私も良く通る道です。意次の恋模様などはフィクションと思いますが、歴女じゃなくても興味深く読めました。お薦めです。歴史は勝者の歴史で意図的に歪められたりするんでしょうね。
湊かなえさんの「山女日記」を読みました。ちょっと前に工藤夕貴さんがヒロインでテレビでも放送していましたよね。当時、毎週見てましたが、原作を読んでよかった。妙高山、火打山、槍ヶ岳、利尻山、白馬岳、金時山、トンガリロという7つの山ごとの短編集でオムニバス形式の作品。それぞれの山を登る人たちが抱える問題や悩みが登山の途中で明らかになってくるのですが、どれも最後に救いがある感じでした。山の景色の浄化作用かしら?短編に出てくる登場人物は他の短編でも脇役で出てきたりします。最後のニュージーランドのトンガリロ登山で登場した帽子屋の柚月さんを工藤夕貴さんが演じていたのだとわかりました。山女じゃない私でも山に行きたくなるような物語でした。おすすめです。
旭爪あかねさんの「風車の見える丘」を読みました。日本農業大学に入学後まもない英語の授業で、原子力エネルギーに変わって自然エネルギーで代替はできるかというテーマで5人1グループで話し合うことになった新、靖、拓郎、ゆかり、榛名はその授業をきっかけに仲良くなった。YESと答えたのは彼らのグループだけだったとのこと、教授からいい意味で理想主義者と言われた彼らは、卒業間際に風車の見える丘で風車とともに記念写真を撮った。卒業後、新は土壌改良材を作っている会社の研究職として採用されるが、他社の土壌改良材と比較調査の結果を改竄したりする会社の体質についていけず、2年で退社する。学生時代の恋人ゆかりは農業改良普及員として仕事に励んでいたが、農業をしようとゆかりの地元へ行った新はゆかりに振られてしまう。榛名は夢だった編集者としての仕事を苦労しながらも続けていた。拓郎は農業高校の常勤講師をしながら教員採用試験を毎年受け続けていた。大きな農家の後継である靖は大学を留年した挙句、中途退学して長距離トラックの運転手になり、過酷な労働条件で働いていた。靖は農業を継ぎたくなかったのだ。大学卒業後5年が経ち、新はなるべく農薬を使わない農業をめざして頑張っていたが、まだかつかつの生活だった。拓郎は採用試験に落ち続け、うつ病になり、ゆかりは不倫の恋に悩み、靖は過労から居眠り運転で大事故を起こす。一生懸命なのに不器用に生きてる5人の青春群像です。農学部大学院卒で、人間関係のつまづきから引きこもりになっていたという筆者だからこその小説かなと思いました。おすすめです。