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トドの小部屋

写真付き日記帳です。旅行記、本や美術展の紹介、俳句など好きなことをつれづれに。お気軽にどうぞ。

水曜日の手紙

2021-02-17 00:16:18 | 
森沢明夫さんの「水曜日の手紙」を読みました。水曜日郵便局宛てに自分の水曜日の物語を書き綴った手紙を送ると、水曜日郵便局から誰か見知らぬ人から届いた手紙を送っていただけるというサービスを利用した井村直美、今井洋輝、光井健二郎の物語。井村直美は夫、息子二人の四人家族の主婦。両親が創業した会社を引き継いだ夫は、常務とは名ばかりで、休日返上で働き、傾きかけた会社をなんとかささえている状態。直美はパートで家計を助けているが、高校時代の友人で玉の輿に乗った伊織が妬ましく、心にたまる毒を日記に吐き出す毎日で自己嫌悪に陥っている。そして伊織から聞いた水曜日郵便局へ、手紙を出そうと思い立つ。手紙には高校時代の夢だったパン職人になり、自分の店をもって繁盛しているという理想の自分を描いて送った。そしてその手紙は水曜日郵便局で働く光井健二郎によって、今井洋輝に送られた。片や今井洋輝は、結婚をまじかに控え、安定を求めて文房具の会社に勤めているが、フリーのイラストレーターになる夢を捨てきれない。同期で入った小沼が会社をやめてフリーのイラストレーターになり、6人展などを開き、輝いている様子を羨ましく思う。今井はそのもやもやした気持ちを手紙に綴り、水曜日郵便局に出したのだった。今井洋輝の手紙は直美に配達された。互いの手紙は2人の人生にどんな影響を与えるのか。2018年ごろは、実際に宮城県東松島市宮古島の今は使われていない旧鮫ケ浦漁港に水曜日郵便局が開局していたようです。今は閉局しています。ロマンチックなプロジェクトですね。
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チョコレートコスモス

2021-02-14 13:15:10 | 
恩田陸さんの「チョコレートコスモス」を読みました。チョコレートコスモスって花をご存知でしょうか。コスモスなんですが、茶色っぽいやや小ぶりのコスモスで、ちょっと地味な感じの花。この本のタイトルがなぜ「チョコレートコスモス」なったのかが最後にわかります。このあたりの展開、恩田陸さんってうまいなぁと実感。演劇の世界の物語です。芸能一家に生まれ、物心ついたときには女優デビューをしていた東響子は20歳そこそこだが芸歴は長く、才能豊かな舞台女優として活躍していた。小松崎という前衛的な脚本家兼演出家のもとで、「真夏の夜の夢」の設定を現代に置き換えて小松崎が書き換えた「ララバイ」という芝居の稽古場で居心地の悪さを感じながら、稽古に参加していた。共演者は、実力のある若手男優2人と安積あおいというアイドル出身の女優。芝居が上手くいかず、中断されたときに小松崎から課された「エチュード」の場面でのヒリヒリした現場。怖いなぁ。
一方、脚本家の神谷は、新しい脚本の書き出しが上手くいかず、じりじりしていたとき、事務所の窓から偶然見かけた少女に注目した。少女は駅前に集う人たちをすごい集中力で観察し、そのうち誰かを定めると、存在を消すように近づき、真似をすることを繰り返していた。姿かたちはまるで違うのに、その類まれな技に神谷は舌を巻いた。少女の名は佐々木飛鳥。彼女はW大の1年で、後日、W大の演劇研究会から独立し、男10人で新たに作った劇団に加わることになる。劇団の名前は「ゼロ」。ゼロの旗揚げ公演の「目的地」という演目で演じた佐々木飛鳥の演技は、玄人たちの注目を浴びることになり、芹澤泰次郎という映画界の巨匠が手掛ける舞台へのオーディションに呼ばれることになったのだが・・・演劇のプロの厳しくも真剣な世界の話で、緊張感が途切れることなく興味深く読みました。お薦めです。手元に2冊予約した本がきました。



追伸=昨夜11時過ぎの地震は福島県沖が震源で震度6強。横揺れが長く続いたので、東日本大震災と阪神淡路大震災の悪夢がよぎりました。10年前の3.11の大地震の余震だとか。朝になって被害状況がわかってきました。被災された方々にはお見舞い申し上げます。
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ドミノin上海

2021-01-31 13:35:45 | 
恩田陸さんの「ドミノin上海」を読みました。2020年2月初版の新しい本です。まず最初の扉ページに「人生における偶然は、必然である」という言葉があり、その次のページから4ページにわたって登場人物&登場動物が紹介されています。登場人物が多いなぁと驚きながら読み始めましたが、その紹介はそれぞれの名前と仕事&相互関係を確認するのに便利でした。そういう案内がないとわからなくなるほどの多さ。小説はだいたい主人公がいるものですが、この小説はそれぞれが主人公のような感じ。最初にあった言葉「人生における偶然は、必然である」という言葉を裏付けるように偶然が必然となり、物語は最後にうまく収束します。主な登場人物は青龍飯店メインレストラン料理長、王湯元、骨董品店店主、薫衛員、ホラー映画監督フィリップ・クレイヴン、香港警察刑事、マギー・ロバートソン、東京から休暇で上海に来ている日本人OLの北条和美、田上優子、上海に進出した寿司のデリバリー会社「寿司喰寧」の副社長、市橋えり子、上海警察署長、高清潔、上海動物園パンダ舎の主任飼育員、魏英徳、アウトローパンダ、厳厳、フィリップのペットのイグアナ、ダリオ、上海動物園捜索犬の燦燦など。通称「蝙蝠」と呼ばれる貴重な印章をめぐる闇取引の攻防と上海動物園のアウトローパンダ、厳厳の脱出成功後の大捜索を主な軸に物語は展開します。イグアナダリオの胃袋に入って運ばれた「蝙蝠」。厨房に迷い込んだダリオを新しい食材と思い、王湯元は料理してよりにもよって飼い主のフィリップに供してしまう。フィリップは悲嘆のあまり映画撮影を中断。王湯元は、偶然手に入った印章はすごい値打品であると観て、薫衛員に高額で売ろうとするのだったが、それは、警察からも捜索されていた。ところが、青龍飯店の廊下で料理長、王湯元と宿泊客、田上優子がホテルの廊下で激突したとき、本物の「蝙蝠」が贋作とすり替わってしまう。また逃走中の厳厳が空洞になっていた現代美術彫刻の中に身を潜めたことで、青龍飯店の現代美術展会場まで運ばれ、厳厳の捕り物と「蝙蝠」を取り戻す攻防が接点をもつに至った。コミカルで気楽に読めるエンターテインメント小説でした。

おまけ
今日で1月も終わり。早いなぁ。太極拳と習字とスーパーに買い物に行く以外は引きこもって暮らしています。なので、読書したり、録画した映画を観たりすることが多かったです。最近見た映画、ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の「CASTAWAY」はとてもお勧めです。2000年の映画なので、若いし、役作りのため23キロくらい減量したそうです。現代版ロビンソン・クルーソー物語。サバイバル生活での相棒となったバレーボールのウィルソンも印象的。人間孤独だとボールでも相棒にしたくなるんだな。お薦め。
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雲を紡ぐ

2021-01-10 12:03:44 | 
伊吹有喜さんの「雲を紡ぐ」を読みました。東京の家電メーカーの研究所に勤めている夫の広志、私立中学の英語教師をしている妻の真紀、私立の名門高校に通う娘の美緒の3人家族を取り巻く、一家の物語です。娘の美緒は高2の初夏から学校に通えなくなり、赤いホームスパンの羊毛のショールをかぶり部屋に引きこもる毎日だった。娘が留年することを恐れ、なんとか高校へ復帰させたいと迫る母親の真紀は、ある日、美緒が片時も離さず大切にしていた赤いショールを取り上げてしまう。そのショールは美緒が生まれて初宮詣りの時に、父の広志の母親が自ら糸を紡ぎ、機で織りあげて作った高級羊毛のショールだった。美緒は、人の気分を害することを気にして、いつも笑顔を浮かべている内気な少女だった。顔に張り付いたようになっている曖昧な笑顔が原因でクラスメートからからかわれたり、変なあだ名で呼ばれたりするようになったのだった。美緒は家族にも自分の気持ちをうまく言葉にすることができない少女で、母親にも父親にも気持ちを伝えられなかった。しかし、赤いショールを取り上げられたことをきっかけに、美緒は父の故郷の岩手県でホームスパンの生地を作る山崎工藝社を営む祖父の家に1人向かった。そこで、彼女は、本当に自分がやりたいと思うことを見つけ、将来への道筋を見出すのだった。壊れかけた家族関係、夫婦関係、親子関係などを描いて、良い作品と思いました。家族との関係を紡ぎなおす話。「雲を紡ぐ」というタイトルの意味は本を読むとわかります。お薦めです。

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82年生まれ、キム・ジヨン

2020-12-10 10:23:48 | 
チョ・ナムジュさん著の「82年生まれ、キム・ジヨン」を読みました。物語は2015年から始まる。ヒロインのキム・ジヨン氏は33歳。3年前に結婚し、昨年女の子を産んだ。ソウル市内の大規模団地の24坪のマンションにチョンセ(韓国独特の賃貸方式)で暮らしている。夫のチョン・デヒョン氏はIT関連の中堅企業に務め、帰りは毎晩12時頃。土日もどちらかは出勤する。キム・ジヨン氏は小さな広告代理店で働いていたが、自分の実家は食堂経営で忙しく、夫の実家も釜山で親からの支援は受けられないので、出産を機に退職し、1人で育児をしていた。ところが、白露のある朝、キム・ジヨン氏は突然、実家の母親そっくりの表情や言葉使いで、話し始めた。何日か後には、自分は去年亡くなったサークルの先輩だったチャ・スンヨンだと言った。また。秋夕(日本のお盆にあたるような重要な祭礼の日)で、夫の実家に一家で帰り、義母と一緒に家族のために大量の伝統料理を作った後、夫の妹が実家の母に「もうこういう大量の料理を作るのはやめたら?ジヨン氏も大変でしょ。」と言った一言をきっかけに事件が起きる。キム・ジヨン氏はまるで、自分の母親が憑依したかのように、はっきりと自分の考えを述べたのだった。夫のチョン・デヒョン氏は慌てて、荷物をとりまとめ、娘とキム・ジヨン氏を乗せて自宅に帰った。その後、キム・ジヨン氏の様子がおかしいので、産後うつではないかとカウンセリングにかかることになる。そうして、子供時代からのキム・ジョン氏の成育歴が語られていくのだったが、韓国の家庭での男女の待遇の大きな違い。学校教育の現場でも女子と男子児童の扱いの違い、就職にあたっての女子差別。また就職後も賃金や昇進に関しての女性の不利な状況など、次々に生き辛い女性たちの実態が明らかにされていく。本書は韓国で社会現象になったという。日本でも複数の大学で医学部入試合格者への女性差別や浪人生への差別が発覚し、就職差別、昇進差別など、状況は大差ないのではないだろうか。そういえば、かなり前になるが、学校現場で使っていた生徒の名票が途中から男女混合に変わったことを思い出した。それまでは、名簿順は、日本も韓国と同じく男子が先で、女子が後だった。かなり前だが、「冬のソナタ」にはまっていた私が夫とロケ地巡りの韓国旅行をしたときにソウルで韓国人男性に親切に道案内されたこと(彼は大阪で働いていて里帰り中だとのこと、日本語が上手だった)、焼肉店で、明るい元気なおばちゃんたちと、ささやかな交流をしたことを思い出した。空港で声高に韓国語で話していた元気なおばちゃんたちのことも思い出した。彼女らは、困難な状況をかいくぐってキム・ジヨン氏の母のように逞しくなったのか。日本以上に出生率が低いという韓国の一端を知ることができる本だと思う。
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