強運

　自分は強運の持ち主だ。最近そう思うようになった。
宝くじに当たったとか、そういうことではない。

　なにか、アンラッキーなことが起こると、記憶に残る。思い出しては、なんて自分は運が悪いんだろう、って思う。

　だが。車を運転していてヒヤッとしたことは、何度かある。　火の不始末に気付かなかったことも。
幸い、事故にもならなかったし、火事にもならなかった。冷静に振り返れば、ただただ僥倖、というべきだ。

　そのような、極めて運の良かったことは、なぜか忘れてしまう。普通に暮らせていてあたりまえ、という感覚があるからだろう。
そして、時折の、ついてないことばかり覚えてる。

　あの時事故を起こしていたら、あの時火事になっていたら、今の普通の暮らしはなかっただろう。
当たり前と思っている暮らしを享受していることこそが、実は強運の証だ。
不自由なく食べて暮らせて、表通りに看板を出して塾を営むことができている。

　それだけで十分に運がいいのだ。