知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複数の実施例にサポートされる事例及び通常想定されないものの事例

2010-08-22 21:54:04 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 取消理由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
 原告は,請求項1において「接点具」の数が特定されていないところ,本件発明の「接点具」には,
① 単数の接点具からなる場合,
② 各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
③ 各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
の三つの概念が包含されるが,本件明細書には①及び②の場合が記載されていないから,サポート要件に適合しない旨主張する


 しかし,前記のとおり,本件発明において,複数の接点具を結合し接点機能を発揮するものも「接点具」といえるから,第1の実施例及び第2の実施例におけるスイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せは本件発明の「接点具」に相当するということができる。また,第3の実施例の接点具26及び第4の実施例の接点具32は,それぞれ本件発明の「接点具」に相当する

 そして,第3の実施例及び第4の実施例が本件発明の実施例に相当することは前記のとおりであり,第3の実施例及び第4の実施例が上記①の単数の接点具からなる場合に相当するということができる。

 また,上記のとおり,第1の実施例及び第2の実施例は,スイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せが本件発明の「接点具」に相当するところ,その動作に鑑みれば,③の各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合に相当すると認められる。

 ②の各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合については複数の接点具のそれぞれが同一の機能・動作をすると解されるから,全体としての機能は実質的に単数の接点具と同じといえるところ,このような接点具が通常想定されるものとは認められないから,②の例についてまで開示されていなければ発明の詳細な説明の記載に特許請求の範囲に記載された発明の全体が記載されていないということにはならないというべきである。

発明の技術的特徴ではない部分に対する記載要件の判断

2010-08-22 21:51:40 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(5) 原告の主張に対する補足的判断
 原告は,構成要件e-1及びe-2はバネの作用を要件としていないから,本件発明には,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現するものも包含されるところ,発明の詳細な説明にはその具体的構成の開示がなく,実施可能要件及びサポート要件違反である旨主張する。

 しかし,構成要件e-1及びe-2は電気スイッチの一般的な機能を規定するもので,本件発明の技術的特徴ではないと考えられるところ,特許法はそうした部分についてまで,実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することを要求しているとは解されない,すなわち,構成要件e-1及びe-2の機能におけるバネの関与の有無は発明を特定するための事項ではないところ,かかる発明を特定するための事項ではない技術的事項に着目し,実施可能要件及びサポート要件を問うことは適切ではないと解される。

 加えて,電気スイッチに関し,構成要件e-1及びe-2の機能にバネが関与するか否かに着目して分類することが一般的であるとは認められず,原告独自の分類であると解されることに照らすと,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現する構成が発明の詳細な説明に具体的に記載されていないとしても,実施可能要件及びサポート要件違反であるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

禁反言則に反するとした事例

2010-08-22 20:56:31 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10083
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


したがって,本件商標「ECOPAC」についても,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地がある。
・・・

(2) 検討
 先に指摘したとおり,現在において,本件使用商標「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有するものである。
 また,本件商標「ECOPAC」は,「エコパック」の称呼を有するから,「包装容器」を意味する英単語は,「package」あるいは「pack」であることを考慮しても,取引者及び需要者は,本件商標の構成部分「ECO」からは「ecology」の省略形の「ECO」を想起し,さらに,「PAC」からは「包装容器」である「pack」を想起することにより,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地があることは先に指摘したとおりである。

 しかしながら,原告は,そもそも,本件商標の出願経過において,本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであることを繰り返し主張し,拒絶査定不服審判を経て,登録査定されているものである。
 特に,原告は,商標登録異議の審理において,本件商標である「ECOPAC」は,「ecology」と「package」との合成語を想起させ,指定商品との関係において,「環境保護に十分配慮した包装容器」を指称する普通名称あるいはそのような容器の品質表示としてのみ認識されるとの異議申立人の主張に対し,・・・,「ECOPAC」と一連と連綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであるなどと主張しているのである。
 そして,特許庁において,原告の主張が容れられて,本件商標の登録査定を受け,さらに,登録を維持すべき旨の決定を受けている
のである。

 したがって,拒絶査定不服審判等における争点と,本件訴訟の取消事由とは必ずしも一致するものではないことや,本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性の判断において,本件商標の登録出願当時(昭和63年)及び拒絶査定不服審判の審決当時(平成9年)と比較して,現在においては環境保護に関する意識が高まっているという社会の情勢を考慮するとしても,原告自身,本件商標の出願経過において,「PAC」は「包装容器」を意味する外来語とは構成を異にするものであって,「ECO」と一連と連綴した構成よりなる本件商標「ECOPAC」は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであると明確に主張している以上,本件において,原告が,その前言を翻して,本件商標から「環境に優しい包装」の観念が生じるなどと主張することは,禁反言則に反し,許されないものというべきである。
 そうすると,本件商標と本件使用商標とが,称呼及び観念において同一であることを前提として,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であるとする原告の主張を採用することはできない。

(3) 小括
 以上からすると,原告が,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であると主張することは許されないから,本件使用権者による本件使用商標の使用をもって,本件商標について,商標法50条1項の「登録商標の使用」に該当するものと認めることはできない。